みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

一時帰宅

2014-04-30 17:06:14 | Weblog
ゴールデンウィーク中に恵子の病院からの一時帰宅が許されて一泊だけ自宅に戻ることになった。
以前入院していたリハビリ病院でも大晦日から正月三日まで一時帰宅したことがあったけれども、そこは自宅ではなく東京の彼女の実家。
今回とは若干事情が違う。
以前の帰宅の時はまだほとんど自分一人で歩くことがなかなかできない状況だったので、彼女が夜トイレに起きるたびに私も一緒に飛び起きてトイレまで連れていくというようなことをしていたけれども、今回はどうなるのかが若干読めない。
病院としては、自宅での生活に慣れてもらおうという配慮での帰宅なのだが、骨折する直前のような歩行にまではまだ回復していないので私自身もどう構えたら良いのかイマイチ不安なところもある。
とはいっても、療法士も私も「もう転ぶことはないだろう」という点では意見が一致している。
ただ、転ばなければ良いというものでもない。
今せっかく良い感じでリハビリが来ているので、このまま以前よりも楽に歩けるような状態になってもらいたい。
彼女の歩行の「ダメだし」は今回担当の若い男性療法士にさんざんしてもらっている。
私が言いたいことは、ほぼ百パーセント彼が代わりに言ってくれている。
その意味では「よくできた療法士さん」だ(笑)。
麻痺している右足の力を未だに「信じる」ことのできない恵子は、以前から左足を高くあげることもあまり前に出すこともできない。
時に「ズリ足」のようになる。
ズリ足では(健常者であっても)すぐにモノにひっかかり転びやすい状態になる。
右足の力を信じられないと自然と左手に持っている杖に頼るようになる。
杖を持つ彼女の左手を見ていると「なんでそこまで力を入れなければならないの」というぐらいガチガチに杖を持っていることが多い(だから、きっとすぐに「疲れて」しまうのだろう)。
健常者が上半身をガチガチに緊張させて歩くことはないが、彼女の歩きはほとんど「上半身で歩いている」ようにも見える。
それぐらい上半身に力が入っているのだ。
楽器だってこんな状態ではちゃんと演奏できるわけがないし、普通の人が彼女のような状態でもし歩けば五分もすれば息が切れてしまうだろう。
この状態でいったん杖がグラついてしまえばとあっという間に身体のバランスを保てなくなる(だから転んでしまったのかもしれない)。
これまでたった三回しか転ばなかったということ自体が不思議なぐらいだ。
これまで彼女がお世話になったどの理学療法士も異口同音に「右足の力はもう十分にあるのだから、もっとスタスタと歩けていいはずなのに…」と口を揃える。
私もそう思うのだが、肝心要の本人がそのことばを一番信用していない(ようだ)。
つまりは、彼女の脳が心の底からそう「思い込んではいない」のだ。
私は、あの手この手で彼女の脳に彼女の右足の力を信じ込ませようと洗脳しにかかるが、本人の脳は懐疑的なままだ。
私と彼女のリハビリが「心理戦」なのは、ここが肝心なポイントだからだ。
「身体のリハビリも楽器の演奏も結局は脳トレ」(身体を動かしているのは脳に他ならない!)。
恵子に一番効果的な治療は、ひょっとしたら「催眠術」なのでは?とさえ思う。
誰か、彼女の脳に「私は歩ける、私は歩ける」と信じこませて欲しい。
それが彼女には一番必要なことなのだから。