などというとちょっと大げさな話に聞こえるが、今回書いている著作でもそのことは一番のテーマになっている。
ちょっとわかりにくいかもしれないが、音楽とリハビリという二つの要素がどういうふうに結びついていてどういうふうに音楽が人の身体の回復に役に立つかということ。
入院中にあった音楽とリハビリに関するエピソードは当然幾つも出て来るのだが、退院後の恵子と二人のリハビリトレーニング中の「泣き笑い」にも音楽的な場面はたくさん登場する。
今日も、家の中で歩行の訓練をしている時のこと。
私が「ちゃんと1、2で歩いて!」と言うと「家の中はいろんなものがあってちゃんと1、2で歩けない」と言い訳を言う。
「そんな言い訳ばかりしてるとこれからもずっとそんな変な歩き方が直らないよ。ヘタな練習だったらしない方がマシ。もうやめるか?楽器だって、必ずしも5時間練習する人の方が1時間しか練習しない人よりうまくなるとは限らないんだから、常に正しいイメージを持って歩きなさい」
私のことばがちょっときつかったのか恵子は泣き出してしまった。
「私だって一生懸命やってるんだよ。でも、なかなかうまくイカないんだよ」と泣きじゃくる。
私は「その一所懸命がいけないの。一生懸命間違った練習していたら二重の意味で無駄な時間を過ごすことになるよ。正しくない歩き方で一生懸命歩いたら何のためにリハビリをやっているのかわからなくなっちゃうでしょ」。
ひとしきり泣き終わったので、私が歩き方を実演つきで説明する。
両手を揃えて「気をつけ」をして、右足と左の杖を一緒に出す。その後、逆の足を出す。それだけだよ。ケイのは杖だけがいつも先に出ちゃうの。まず杖を出して自分の身体を支えないと安心できないからだよ。梅田さん(麻生リハビリ病院の療法士の一人)も言っていいたでしょ。ケイはもう歩けるの。歩ける能力はもう既に足にはあるの。でも、歩けないのは、リズムを忘れてるから。足が歩くリズムを忘れてるから動かないの。それだけのこと。足に歩くリズムを覚えさせなきゃ。リハビリが難しいのは、身体に筋力がつくだけでは脳はちゃんとした指令を出せないの。人間の身体はいつも音楽的なリズムに支配されてるの。だから無意識に身体は動いていくの。でも、いったんそのリズムを忘れちゃってるケイみたいな患者はもう一度そのリズムを覚え直すところから始めないといけないの。はい、やってごらん」。
そうやって恵子に気をつけをさせ、ゆっくりと右足、左足と出す練習を始めた。
「1、2、1、2。そうだよ、できるじゃん。そんな感じで歩けば足がだんだんリズムを覚えていくよ」。
先日新潮社の編集者S氏からもらった赤原稿には、文中に「これは、まさしく音楽の勝利だ」という文を挿入しろという注意書きがあった。
ちょっとわかりにくいかもしれないが、音楽とリハビリという二つの要素がどういうふうに結びついていてどういうふうに音楽が人の身体の回復に役に立つかということ。
入院中にあった音楽とリハビリに関するエピソードは当然幾つも出て来るのだが、退院後の恵子と二人のリハビリトレーニング中の「泣き笑い」にも音楽的な場面はたくさん登場する。
今日も、家の中で歩行の訓練をしている時のこと。
私が「ちゃんと1、2で歩いて!」と言うと「家の中はいろんなものがあってちゃんと1、2で歩けない」と言い訳を言う。
「そんな言い訳ばかりしてるとこれからもずっとそんな変な歩き方が直らないよ。ヘタな練習だったらしない方がマシ。もうやめるか?楽器だって、必ずしも5時間練習する人の方が1時間しか練習しない人よりうまくなるとは限らないんだから、常に正しいイメージを持って歩きなさい」
私のことばがちょっときつかったのか恵子は泣き出してしまった。
「私だって一生懸命やってるんだよ。でも、なかなかうまくイカないんだよ」と泣きじゃくる。
私は「その一所懸命がいけないの。一生懸命間違った練習していたら二重の意味で無駄な時間を過ごすことになるよ。正しくない歩き方で一生懸命歩いたら何のためにリハビリをやっているのかわからなくなっちゃうでしょ」。
ひとしきり泣き終わったので、私が歩き方を実演つきで説明する。
両手を揃えて「気をつけ」をして、右足と左の杖を一緒に出す。その後、逆の足を出す。それだけだよ。ケイのは杖だけがいつも先に出ちゃうの。まず杖を出して自分の身体を支えないと安心できないからだよ。梅田さん(麻生リハビリ病院の療法士の一人)も言っていいたでしょ。ケイはもう歩けるの。歩ける能力はもう既に足にはあるの。でも、歩けないのは、リズムを忘れてるから。足が歩くリズムを忘れてるから動かないの。それだけのこと。足に歩くリズムを覚えさせなきゃ。リハビリが難しいのは、身体に筋力がつくだけでは脳はちゃんとした指令を出せないの。人間の身体はいつも音楽的なリズムに支配されてるの。だから無意識に身体は動いていくの。でも、いったんそのリズムを忘れちゃってるケイみたいな患者はもう一度そのリズムを覚え直すところから始めないといけないの。はい、やってごらん」。
そうやって恵子に気をつけをさせ、ゆっくりと右足、左足と出す練習を始めた。
「1、2、1、2。そうだよ、できるじゃん。そんな感じで歩けば足がだんだんリズムを覚えていくよ」。
先日新潮社の編集者S氏からもらった赤原稿には、文中に「これは、まさしく音楽の勝利だ」という文を挿入しろという注意書きがあった。