今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「寒川猫持の歌に『尻舐めた舌でわが口舐める猫 好意謝するに余りあれども』がある。一読破顔するのは、小学唱歌『水師営の会見』をふまえた上でのことである。
旅順開城の約定成ったあと、水師営で昼食(ひるげ)を共にしたとき、ステッセル将軍が乃木(のぎ)大将に言うには『我に愛する良馬あり。今日の記念に献ずべし。』『厚意謝するに余りあり。軍のおきてにしたがいて 他日わが手に受領せば、ながくいたわり養わん。』 戦後生れはこの歌を知らないから下半分で笑っている。『如何にいます父母 恙(つつが)なしや友がき』と聞いただけで涙ぐむ人がいる。友垣なんて床しい言葉はこの歌のなかできかなければ、永遠に耳にすることはないだろう。」
(山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫所収)
「寒川猫持の歌に『尻舐めた舌でわが口舐める猫 好意謝するに余りあれども』がある。一読破顔するのは、小学唱歌『水師営の会見』をふまえた上でのことである。
旅順開城の約定成ったあと、水師営で昼食(ひるげ)を共にしたとき、ステッセル将軍が乃木(のぎ)大将に言うには『我に愛する良馬あり。今日の記念に献ずべし。』『厚意謝するに余りあり。軍のおきてにしたがいて 他日わが手に受領せば、ながくいたわり養わん。』 戦後生れはこの歌を知らないから下半分で笑っている。『如何にいます父母 恙(つつが)なしや友がき』と聞いただけで涙ぐむ人がいる。友垣なんて床しい言葉はこの歌のなかできかなければ、永遠に耳にすることはないだろう。」
(山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫所収)