「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

君子豹変 2016・05・08

2016-05-08 17:35:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、養老孟司さんの「バカの壁」から。


   「先日、講演に行った際の話です。控室にいらっしゃった中年の男性が、『私は、君子豹変というのは

   悪口だと思っていました』と言っていた。もちろん、実際にはそうではありません。

   『君子豹変』とは『君子は過ちだと知れば、すぐに改め、善に移る』という意味です。

   では何故彼はそう勘違いしたか。『人間は変わらない』というのが、その人にとっての

   前提だからです。

    いきなり豹変するなんてとんでもない、と考えたわけです。現代人としては当然の捉(とら)

   え方かもしれません。

   『男子三日会わざれば刮目(かつもく)して待つべし』という言葉が、『三国志』のなかにあります。

   三日も会わなければ、人間どのくらい変わっているかわからない。だから、三日会わな

   かったらしっかり目を見開いて見てみろということでしょう。

    しかし、人間は変わらない、と誰もが思っている現代では通用しないでしょう。刮目という

   言葉はもう一種の死語になっている。

    いつの間にか、変わるものと変わらないものとの逆転が起こっていて、それに気づい

   ている人が非常に少ない、という状況になっている。いったん買った週刊誌はいつまで

   経っても同じ。中身は一週間経っても変わりはしません。

    情報が日替わりだ、と思うのは間違いで、週刊誌でいえば、単に毎週、最新号が出て

   いるだけです。

    西洋では十九世紀に既に都市化、社会の情報化が成立し、このおかしさに気が付いた

   人がすでにいた。カフカの小説『変身』のテーマがこれです。

    主人公、グレゴール・ザムザは朝、目覚めると虫になっている。それでも意識は『俺

   はザムザだ』と言い続けている。

    変わらない人間と変わっていく情報、という実態とは正反対のあり方で意識されるよ

   うになった現代社会の不条理。それこそが、あの小説のテーマなのです。」






    
   「結婚はしてもしなくても後悔するものである」

                  (フランツ・カフカ)



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