今日の「お気に入り」。
「 デモクラシーは戦後アメリカから与えられたと思っているひとがあるが、大正時代に全盛だった
のである。
吉野作造が論陣を張って、それはほとんど一世を覆った。昭和になって社会主義に駆逐される
まではデモクラシーの天下だったのである。戦前のデモクラシーと戦後のそれを違うと思っては
ならない。同じである。
大正デモクラシーをひと口で言うと親不孝である。自由恋愛である。猫なで声の童謡と童話で
ある。自由画であり綴方(つづりかた)である。もう一つ核家族である。
以上戦後全盛のものはすべて戦前にあったのである。核家族まであったというとけげんな顔を
されるが、東京は地方からの出かせぎ人が集まる大都会で、はじめ男一人が上京してやがて結婚
して二人だけの所帯をもつ。いずれ親を呼ぶがそれは根のない核家族である。」
( 山本夏彦著 「『豆朝日新聞』始末」文春文庫 所収 )