うさぎくん

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幻の東京オリンピック 1940年大会 招致から返上まで

2021年08月02日 | 本と雑誌

講談社学術文庫 2014年

東京がオリンピック開催地として名乗りを上げたのは戦前の1940年大会(第12回)が最初だった。
関係者の熱意と加盟国の政治的な理由により開催が決定したが、招致運動中既に始まっていた日中戦争の影響により、決定から2年を経て開催権を返上する。

著者はNHKの記者だった方で、平易な文章で非常に読みやすかった。

ちょうど2年前の大河ドラマ「いだてん」でも取り上げられていたが、「いだてん」は物語の都合上ストーリーの視点が独特のものになっている。本書では主に東京市長永田秀次郎、体協の加納治五郎、IOC委員で招致の中心となった副島道正らに焦点を当てている。

永田秀次郎東京市長は震災からの復興記念と、紀元二千六百年記念行事を兼ねて、1940年に開かれる第12回夏季オリンピックの招致を目論む。そもそも欧州から遠く離れ、高温多湿、さらに開催に必要な諸施設の整備を考えても、当時の東京には非常にハードルの高い目標であった。

日本のスポーツはまだ発展途上だったが、1932年のロスアンゼルス・オリンピックでは日本選手の活躍が目立ち、にわかに国民のオリンピックへの関心が高まった。

招致は困難を極めたが、開催候補として名乗りを上げていたローマは副島らがムソリーニに直談判して辞退、またイタリア同様枢軸国として日本との外交を重視していた、ドイツヒトラー政権の力添えもあり、最終的に東京招致に成功する。

しかし、1937年に入ると日中戦争が勃発、国内は臨戦態勢に入り、馬術などで参加予定だった軍は選手を出さないことに決める。また、施設の整備も資材や予算の不足から全く進まなかった。

諸外国では日本の軍国主義化に批判が高まり、東京大会をボイコットすべきだという意見が強まった。IOCのラトゥール会長やアメリカは最後まで日本に協力的だったが、日本の国内情勢には抗えなかった。最後は国(厚生省)が組織委員会や東京市に事前連絡することなく、開催地返上のアナウンスをする。


オリンピックは本来、IOCを中心に国家や政治とは関係なく運営されるのが本筋である。しかしそれは理想論で、現実には国家や政治的事情の影響を避けることはできない。

東京大会の場合、そもそも承知の発端が紀元二千六百年記念事業という位置づけにあったことが、その後の迷走を招いたと橋本氏は指摘している。

また、開催決定までの道のりでムソリーニに協力を仰いでいるが、たとえファシスト政権下でも本来ムソリーニに開催辞退を決める権限はない。日本はヒトラーの協力を直接仰いだわけではないが、候補地決定にはそのような政治的事情が絡んでいる。

アメリカが東京大会開催に最後まで協力的だったのは、「スポーツと政治は別」という信念をかたくなに守りとおしたアメリカスポーツ界の重鎮、アベリー・ブランデージ氏の影響が強いとされている。

逆にいうと、ナチス政権が自らのプロパガンダのためオリンピックを最大限利用したのに対し、日本はオリンピックの政治利用に失敗したともいえる。

橋本氏が後書きで書いていたが、読者から、もし軍が日中戦争を一時停戦して第12回大会が東京で開催され、大勢の外国人が来日していたら、その後の日本の針路も変わっていたかもしれない、という声が多く寄せられたのだ、という。

そういう夢を見たい気がしないでもない。。
選手たちの活躍は、このために急遽全国に設立されたアンテナ網を通じてテレビ中継され、人々は街頭テレビの前で固唾を飲んでいたかもしれない。軍も抜き差しならなくなった大陸進出に見切りをつけ、その様子をみた米英も日本との対立を見直し・と。

現実には日本は大会を返上したが、仮に開催を強行したとしても、特に欧州勢が参加をボイコットする可能性はあったし、詳細は省略したが国連非承認の満州国の参加是非という問題も避けることができた。その意味では現実的な決断だったのかもしれない。


感想ですが、読む前は(大会返上は)もしや国民世論が強く影響しているのかしら、と思っていましたが、やはり軍の影響が一番大きかったのか、ということを確認しました。世論沸騰するには既に戦時体制が進んでいすぎたようです。

もう一つの感想は、今回の東京2020開催について、春ごろから開催中止論が強く叫ばれていましたが、そういう声を聞くたびに思い出していたのが、この1940東京大会の開催返上という史実です。
ありていにいえば、開催中止となれば80年前の歴史が繰り返される気がして、その後の歴史の事を想い怖く感じたのです。

今回は開催返上が歴史的にどのような意義を持ったかを学びました。
2020大会の開催は今後の歴史においてどのような意義を持つのか、見守っていきたいと思います。
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