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梅原猛さんの『葬られた王朝』を読んだ。筆者渾身のと言わないまでも、かなり思い入れをもって書かれている。筆者はご存じの通り『隠された十字架の謎』『水底の歌』等々読みごたえのある古代史論を展開されてきた。筆者の姿勢は常に、旧説に真っ向から挑む姿勢をとってきた。しかし、筆者も現在84才になられたらしい。いかに、精神と肉体を健全にたもとうとしてもよる年波は容赦なく襲ってくる。写真で見る限り目立った衰えを感じさせないし、現地に出掛け意欲的に取材も敢行している。しかし、これまでに見てきた切れのよさや熱情は少し薄れいささか物足りなさを感じてしまう。『神々の流竄』という旧著があるが、この『葬られた王朝』には、旧著の誤りを正すという目的がある。旧説の訂正と新たな仮説提起のもしているが、細かい点は著作によるとして、今回の著作が衝撃的でないのはなぜか。梅原氏が開いた〈梅原古代学〉が一般化してきてちょっとやそっとでは驚かなくなってきたのかもしれない。梅原さんにかわり斬新な説と情熱を誰に期待したらいいのだろ
う。梅原さんにはたぶん弟子と呼べる人はいないのではないか。しかし、氏の説に感動を受けた人は少なからずいるはずである。そんな一人がありったけの情熱を傾けて梅原さんの後を継ぎながら、壮大な古代の歴史を再現してほしい。