2014/06/20
私の田舎に八風街道という道路がある。小さいときに街道名を聞いてロマンチックな名前だと思っていた。人伝に聞くと永源寺のそばを通り鈴鹿山脈を越えて三重県の四日市に出るということを知った。国道421号線であるが、名前の由来は三重県側にあるようだ。その道は、還暦を越えたいまでもまだ通ったことがない。二十歳前後だったが、空を飛んだり、知らない道を歩いている夢をよく見ることがあった。できないこと、したいことを夢で間に合わせていたらしい。とくに八風街道を通り峠を越える夢はよく見た。さすがに二十歳を越えて自分の意思で空間移動ができるようになると夢を見ることもなくなった。
今ならグーグル・マップで道を疑似体験もできる。八風街道というロマンチックな名前もググる検索をするといつ頃できたかとか、由来なども理解ができる。この道は東海道と中仙道を結ぶ街道の一つで三重と近江を行き来した商人の道であったらしい。わたしの祖父は、魚屋をしていて屋号が「伊勢甚」となっていたので、多分この道を通って滋賀に住みついたのでろう。
「八風」の名前の由来は三重側に同じ名前の村があるらしい。こうなってくると七色の虹よりも一色多い八つの風、どんな風だろう、等と夢想する身にとっては夢も希望もないので、八風街道の由来を勝手に解釈して納得しましょう。つまり、この街道は、禅の言葉にある『八風吹不動ハップウフケドモドウゼズ』から来ており、世俗の楽しいこと、辛いことなどいろいろな風が吹いている道であると……。
八風とは、「利リ」「衰スイ」「毀キ」「誉ヨ」「称ショウ」「譏キ」「苦ク」「楽ラク」のことで、各々の簡単な意味は次のようである。
「利リ」:順調であること
「衰スイ」:意に反すること
「毀キ」:人を悪く言うこと
「誉ヨ」:誉めること
「称ショウ」:称えること
「譏キ」:人の欠点を見つけて悪く言うこと
「苦ク」:身心を悩ます
「楽ラク」:身心を悦ばす
これらの風が人の心をあおりたてるから八風という。
「衰スイ」「毀キ」「譏キ」「苦ク」の風が吹くと人は落ち込み、
逆に、「利リ」「誉ヨ」「称ショウ」「楽ラク」の風が吹くと自分の力で何もかも成し遂げたと有頂天になる。
しかし、禅の世界ではどのような風が吹いていても動じないで、むしろその風を楽しむのがよいとされている。
滋賀と三重をつなぐこの道を風を感じながら走ってみるというオプションも一興かな思う。
【参考】禅の言葉に学ぶ ていねいな暮らしと美しい人生(枡野俊明著)