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種子の散布~風散布~

2017年02月17日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 樹木は動くことができないので、子孫を残すため、風や動物など他の力を利用して、種子を散布しています。

 今回は風を利用し、種子を散布する(風散布)樹木のお話です。

 

 風散布による種子の特徴として、種子を広範囲に飛ばすことができるという長所を持っています。

 その反面、広範囲に飛ばすために種子の重量を軽くしているので、種子の中に発芽に必要な栄養分が蓄えられていないという短所を持っています。

Momizi_syushi 左記写真のような種子を「翼果」といいます。

 

 風散布の代表的な樹木と言えば、マツやモミジですので、「アカマツ」と「イロハモミジ」を例に、風散布の特徴をお話ししたいと思います。

 

「アカマツ」

 アカマツは日当たりの良い尾根筋や痩せ地に生えています。

 日当たりの良い場所を好むアカマツのような樹木を”陽樹(ようじゅ)”と言います。

 日当たりの良い尾根筋や痩せ地は、過酷な環境ですが、競争相手が少ないというメリットがあります。

 競争相手の少ない過酷な環境に適応する。

Akamatu_senku

 それがアカマツの生存戦略。

 尾根筋は風当たりも強く、乾燥しやすい環境ですので、翼果を広範囲に飛ばすためには、最適な環境と言えます。

 過酷な環境を求めて、種子を広範囲に飛ばす。

 ただし、種子のたどり着いた場所が湿潤な環境だと、競争相手も多くなり、発芽しても、その場で生き残る確率が下がります。

 しかも、種子には発芽に必要な栄養分が少ないため、発芽後、まもなく光合成をしないと生き残ることはできません。

 種子が無事、最適な環境に辿り着くか否かは風次第というわけです。

 

「イロハモミジ」

 イロハモミジは日当たりの良くない谷筋など湿潤な環境に生えています。

Irohamomizi_kouyou

 日陰を好むイロハモミジのような樹木を”陰樹(いんじゅ)”といいます。※正確にはやや日陰を好むので中庸~陰樹に位置します。

 アカマツとは真逆の環境を好むイロハモミジも風散布種子を作ります。

 尾根筋と異なり、谷筋は風当たりも悪く、湿度もあるので、風散布は不適のような気がしますが、渓谷など谷底から風が強く吹くという環境もあります。

 「渓谷に生える美しい紅葉のイロハモミジ」的なポストカードとかあると思いますが、本来、イロハモミジはそういう場所を好むと考えられます。

Irohamomizi_keikoku

 また、イロハモミジは、自分より高い木の下で生きることを好みます。

 高い木の下を好むといっても、常緑広葉樹の下ではなく、落葉広葉樹の下を好みます。

 なので、アカマツのように広範囲に飛ばすよりも、高い木の下に辿る着ける程度の距離を飛ばせればいいと考えられます。

 落葉広葉樹林というのは、葉が落葉しているので、春の環境は明るいという特徴を持っています。

 冬の間に落葉広葉樹の下にたどり着いたイロハモミジの種子は、春先の明るい時期に発芽します。

 なお、種子は、暖かい春が訪れるまで休眠期に入っています。

 イロハモミジの種子は長期間(数年)休眠することができないため、辿り着いた先で、春先に発芽しないと生き残ることが出来ません。

 この点は、アカマツと同じだと考えられます。

 ちなみに、伐採跡地などのように開けた明るい環境は、あまりイロハモミジに適した環境とは言えません。

 

 

 アカマツとイロハモミジ。

 全く異なる環境に生育する樹種なのに、種子の散布は同じ風散布です。

 簡単に比較すると、

 アカマツは、高い尾根筋から広範囲に種子を飛ばす。

 イロハモミジは、高い渓谷から別の渓谷に種子を飛ばす。

 

 生育環境は違うのに、子孫を残す戦略は同じ。

 これも樹木の魅力です。

 

 ちなみに、風散布の種子は側方天然下種更新が期待できる樹種が含まれています。

 ただし、伐採した枝条などが敷き詰められた環境では、種子から発根した根が地面に到達できず、発芽しない可能性があります。

 そういう場合は、落ち葉層の除去や地掻きといった更新補助作業が必要になるかと思います。

 

※以下、側方天然下種更新に関する記事

 天然下種更新 側方天然下種更新/上方天然下種更新

コメント
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