記憶喪失の経験がある人に、
初めて会った。
彼は大学時代にスキーで事故を起こし、
その影響で記憶を失ったという。
記憶喪失といっても、
言葉はわかる。
基本的な生活習慣も失われていない。
だが、たとえば親が来ても誰だかわからない。
母親が来て、
名前を名乗った時も、
「奇遇ですね、同じ苗字なんて。
同じ苗字の人に初めて会いました」
そう答えて、母親の涙を誘ったそうだ。
しかし、脳にそれだけのダメージを受けながらも、
その他の障害は一切出なかった。
そこで、彼は周囲のサポートのもと、
再び大学に通い始めたのだ。
数ヵ月後。
それは彼がいつものように、
空手部の練習に出ていたときだった。
組み手の最中に先輩に突きを放った途端、
突然、記憶の回路がつながった。
そして、瞬時にすべてを思い出したのだ。
ただし、事故にあう直前までの記憶だが。
記憶が蘇ると同時に、
記憶喪失だった数ヶ月間の記憶は失われたそうだ。
本人から聞いた実話である。