陽ざしはすっかり秋めいて
ゆうべは初めて虫の声を聞いた。
ぬるま湯に浸り
でんわでの会話をあれこれ反芻していると
湯屋の外でコオロギが鳴く。
ちろろ ちろろ ちろろ
未だ鳴き声も弱々しく 音程もしっかりしないが
満月の夜の本番にむけて
これから懸命にリハーサル。
湯音を立てぬよう
しばしコオロギに心を移す。
とある友人に
産みたての詩を送ったところ
「どうしてこんな不気味な作品を・・・」 と
お叱りを受けた。
そう、私の奥には少年期の
記憶の闇が渦巻いていて
そこから言葉たちが外に出たがるのです。
わたしの意思と離れて
陰翳のにおいを引きずってくるのです。
遠花火尽きし山の端闇深む