私的図書館

本好き人の365日

三月の本棚 2 『八人のいとこ』

2005-03-19 00:30:00 | 家庭小説
人間の、もっとも美しい行動とは何ですか?

あなたはそれを心の中で知っていますか?

知っているけれど、知らないふりをして生きていますか?

それとも、そんな偽りの言葉は信じていませんか?

考えないことに決心したのはいつからですか?

ハイ、お説教くさい言葉はこのくらいにして、今回は心から楽しめる、とっても愉快な一冊をご紹介しましょう♪

日本でも多くのファンに愛され、親しまれてきたアメリカの作家。

ルイザ・メイ・オルコットの『八人のいとこ』です☆

オルコットの代表作といえば「若草物語」が有名ですね。
この愛すべき四人姉妹とその母親の物語を書いた時、オルコットは三十六歳。後輩のモンゴメリよりもどこか教訓的な感じがするものの、そのユーモアとお話の巧みさ、女性だって負けていないわよ! という勢いが文章からにじみ出ている姿勢など、とっても大好きな作品です☆

貧しさの中で家族の生活を支えて筆を取っていた彼女は、「若草物語」がようやく認められ「借金は残らず返済。安心して死ねる気持ち」と日記に書いたといいます。

その「若草物語」が出版されたのが1868年、日本ではちょうど明治維新の頃ですね。

今回ご紹介する「八人のいとこ」はその八年後の1876年に発表された作品です。

なんと百年以上昔の小説!

その歴史の古さにもビックリですが、村岡花子さんの名訳と相まって、とてもそんな昔の作品とは思えない内容の豊かさ、色あせない登場人物たちに驚きます!

主人公の13才になる女の子ローズは、母親を亡くし、父親とずっと二人で暮らしていたのですが、その父親も死んでしまい、父方の親戚に引き取られることになります。

ここまではよくあるパターン。

でもここからがご注目!

ローズには六人もの叔母がいて、一堂に会する親族会議は大賑わい。それぞれが、それぞれの流儀でローズを育てようと、よく動く口でありがたい”意見”を述べまくるのです☆

このおしゃべりが楽しい♪

女性の中で唯一の男性で、ひたすらいねむりを決め込むマック叔父さんが、航海から帰ってきた独身のアレック叔父さんにこぼします。「結婚なんかしちゃいかんよ。もう一族に女はたくさんだわい」(笑)

てんでに好き放題ローズについてアレコレ意見が出されたのち、正式に後見人になったこの四十男、アレック叔父さんが宣言します。

「わたしの教育方針でやらせてみてください。一年たっても、ローズがあいかわらず病弱で、今より、よい状態になっていなかったら、ほかの人に、ローズを渡すことにしましょう」

そう、このお話は、一年間の教育期間を与えられたアレック叔父様とローズの、「良識アル二人三脚光源氏計画」物語なのです☆

「源氏物語」で無理矢理さらわれた紫の上とは違って、「良識アル」ってところがミソですけど♪

なにせこのアレック叔父様。船乗りでいい男なのにこの年まで独身。当然その理由もあるはずなのに、思わせぶりな書き方だけで、なかなか真相がハッキリしない。

ローズの姿にもう一人のローズの姿を重ねたりして、意味深な遠い目をして見せるのです。

脇を飾るのは、個性的な叔母様たちに、これまた個性的な教育を受けた七人のいとこたち。それもみんな男の子ばっかり。

年長者でジェシー叔母様の愛情をいっぱい受けて育った族長、とっても紳士なアーチー。
クララ叔母様の秘蔵っ子でアーチーの親友、美男子のプリンス・チャーリー。
ジェーン叔母様の息子でわがまま放題な兄弟、本の虫マックに、”とさか”にした髪が自慢のめかしやスティーブ。
アーチーの弟で、いつも一緒のジョーディとウィル。
一番年下で悪意はないけれど、いつもドキッとさせられるジェミー坊や。

十六歳から六歳までのこの七人にローズを加えたのが、題名の「八人のいとこ」なわけです☆

歩くことさえままならないドレスに体を締め付けるコルセット。
叔母様たちの与える薬は強烈で、すっかりスタイル良く、やせっぽっちに育ってしまったローズを、アレック叔父様は牛乳と元気ないとこ達、それに身寄りのないメイドの少女フェーブ(ファンです♪*)の協力を得て、本来のバラ色の頬をした少女へと変身させます。

このやり方も変わっているのですが、そこには、現代の教育現場が抱えている子供たちの様々な問題に通じるところもあって、とっても興味深いところ。

庭を走り、水泳をし、ボートに乗ったり、家事の手伝い。プレンティー叔母様にパン焼きを習い、年老いたピース叔母様のかたわらで刺繍と編み物を習得するローズ。

孤独な心を癒すのは、他人に必要とされることの喜び。大切にされるってことは、チョコレートではなく、オートミールで育てられるっていうこと。そして本当の愛情とは、自分のことを投げ出しても、その人のために尽くし、例えそれがほめられなくても気にかけず喜ぶこと。

ローズが、子供たちが、愛情ゆえにその身を投げ出すシーンが用意されていて、その描写のなんと美しいこと☆

それを見事に文章で表現しているオルコットはやっぱりさすがです!

時に叔父様のやり方に驚いたり、虚栄心の強いことを認めたり、女友達にそそのかされて、耳にピアスの穴を開けてしまうローズですが(後悔してもやっぱりつけていたいらしい♪)、一年がたつ頃には、見違えるような少女へと成長していきます。

実はたいへんな遺産の相続人でもあるローズ。

続編の「花ざかりのローズ」では、財産を一族の外に出したくない叔母様たちが、いとこの一人とローズを結婚させようと、またまたよけいな画策をし始めます。

はたして成長したローズは誰を選ぶのか?

これまたオルコットの腕の見せ所。
きっと期待をさせつつもしっかり読者の心を捕まえることでしょう♪

はっきり言い切れないのは、「花ざかりのローズ」をまだ手に入れていないから。
これがなかなか見つけられないんですよ~

紹介しておいてなんなんですが、誰か入手方法ご存知ないですかね?

ほんと、誰を選ぶのかとっても気になります。

でも、まずはこの「八人のいとこ」から。
これだけでも充分楽しめると思います♪

大切なものを書くためには、その人の中に大切なものがなければ書けません。そして読者も、その物語を楽しむために、自分の中の大切なもの、美しいものを見つけ出さなければならない…

昔を懐かしむ今なお輝く永遠の少年少女の方に。心のどこかに置き忘れてきてしまった大人の方にも。そして、ぜひ、これから探し出そうとしている若い方に。

この物語を送ります☆












ルイザ・メイ・オルコット  著
村岡 花子  訳
角川文庫