みなさん、読書の秋です。
今回ご紹介する本は、『狐笛のかなた』
狐と女の子と男の子が登場するお話です☆
私は、このお話のラストがすごく気に入っています♪
「あわい」に生まれ、人間の使い魔として生きる霊狐、”野火”。
母を殺され、父も知らず、産婆の祖母と二人で暮らす少女、”小夜”。
実の父に山奥の屋敷に閉じ込められ、自由のない暮らしを強いられている少年、”小春丸”。
この3人が偶然出会う場面から物語りは始まります。
霊狐というのは普通の狐ではありません。
その昔はカミガミと同じ世界に住んでいて、カミガミの使いとしてこの世にやってきていたといわれる生き物で、姿を変えることができ、人間の言葉も話します。
今は人間に「狐笛」という笛で命を縛られ、命令に従っているのです。
一方、女の子の小夜も、人とは違う力を持つゆえに、人里では暮らさず、村人たちとは少し距離を置いて暮らしています。
…人が心で思ったことが、聞こえてしまう小夜。
霊狐を操る呪者。
人の心が読める少女。
しかしこの物語をオススメする理由は、こんなところではありません!
いや、こういうところも魅力的ですよ。
人の心の声が聞こえる小夜の葛藤や、霊狐である野火の悲劇。
人間の欲深さや、領地をめぐる争いに巻き込まれる小春丸の苦悩に、小夜の母の悲恋まで。
作者の上橋菜穂子さんが、オーストラリアの先住民アボリジニを研究なさっている研究者だということもあるのか、”読ませよう”という小説家の欲みたいなものが薄くて、まるで焚き火を前にお年寄りの昔話を聞くように、とても素直に、リアリティを持って読むことが出来るんです。
でも、でもね、やっぱり物語で大切なのはラスト、終り方だと思うんです!
幼い頃に出会った小春丸が、若武者に成長して、敵の呪いにあやつられてしまうとか、ご主人さまに命である狐笛を握られ、絶対服従しなければいけないはずの野火が小夜のために危ない橋を渡るとか、ハラハラドキドキする途中の展開も読ませてくれます。(前半もっと野火を出して欲しかったけど…)
野火の仲間(?)である2匹の霊狐の存在も気になるし、親子三代にわたる憎しみを抱えた二つの一族が、小夜や小春丸を巻き込んでいつまで争いを続けるんだ、というところも気になる。
でも、一番気になるのは、しだいに高まる悲劇の予感なんです!!
小夜や小春丸はいいですよ、人間なんだもの、どんな力技を使ったって、パッピーエンドには持っていける。(もちろん作者はそんなことはしませんけどね☆)
でも、野火は?
霊狐である野火は、どんなに小夜を慕っても、人間にはなれない。(化けることはできるけれど)
野火の命を握る狐笛はなんとか取り戻すとか力を奪うとかできるかも知れないけれど。
しかもどんなに傷ついても(霊狐の姿の方が早いし強い)小夜の前ではあえて人間、小夜と同じ姿でいようとする野火のなんてけなげなこと!
ここで霊狐であることをやめて、人間として生きていくなんてラストだったら絶対納得できない!
それでは野火が野火であることをやめてしまうことになる。
そんなに、そんなに人間ってエライの?
はい、私は誰より、小夜より小春丸より、野火のファンです☆
今回は私情がすごく入ってしまいました。
すみません。
野火が好きなんです♪
霊狐として生きて来た野火が好きなんです♪♪
このラストに、いろいろな意見の方もあると思います。
決して何もかもが解決していないじゃないかと、はい、その通りかも知れません。
でも、上橋菜穂子さんありがとう。
こういうラスト、読みたかったです☆
今回は、まだ読んでいない方にとっては何が何やら、何について盛り上がっているのかえさっぱりわからない内容になってしまいました。
ごめんなさい。
しかし嬉しいことに、ハードカバーで買ったこの本、新潮社で文庫化もされました。
今ではお手軽に手に入ります。
何がどうなっているのか、ご自身の目で確かめたい方、どうぞ探してみて下さい。
そしてそれが、あなたにとって素敵な出会となることを願っています☆
野火~~~!!!
上橋 菜穂子 著
理論社