私的図書館

本好き人の365日

九月の本棚 2 『アップルパイの午後』

2008-09-28 23:59:00 | 本と日常
ようやく涼しくなってきました。

実家で、父親がささやかな家庭果樹園を作っているのですが、そろそろリンゴが収穫できそうな様子。

今年は台風もこなかったので、ひと安心です。

趣味で作っているだけなので、家で料理に使ったり、ケーキにしたりしています。

本当はアップルパイが好きなのですが、面倒くさいといって誰も作ってくれません。

かといって自分で作るのも…やっぱり面倒くさいですし★

さて、今回はご紹介する作品は、明治29年鳥取生まれで、昭和46年に亡くなった、

作家、尾崎翠(おさき みどり)の作品。

*(キラキラ)*『アップルパイの午後』*(キラキラ)*です☆

この作品は昭和4年に発表されました。

尾崎翠の作品は少女マンガです☆

確かに、時代背景は明治から大正、昭和を感じさせるものです。
言葉使いも少々古い。

でも、そこに流れている空気。
読んでいて、「そうか少女マンガみたいなんだ」と思いました。

この『アップルパイの午後』は兄と妹の会話で成り立つ戯曲です。

年頃の妹が、何やら書き物をしているので、どうせつまらないものだろうと、兄はいきなり妹の頭をポンとたたきます。

怒る妹。

お互い一歩も譲らず言い合う姿は、今も昔も同じ♪

実はこの兄と妹。
それぞれが、ある女性、ある男性に恋をしているのですが、会話が進むにしたがい、それぞれの事情がわかってきます。

月夜のため息。
ヤカンのお湯。
アップルパイ。

「月夜のため息」というロマンチックな言葉と「ヤカン」といういやに現実的なものが同居する世界。

はなはだ乱暴かも知れませんが、「月夜のため息」と「ヤカン」が、私にとっては少女マンガなのです♪

そして読者だけに明かされる、妹の恋の相手。

『アップルパイの午後』は作者の他の作品と比べると、ハッピーエンドな作品です。

わりと片思いが多いかな?

その片思いにゆれる心情がこんなふうに表現されています。

『歩行』という作品では、主人公の女の子は、片手におはぎの入った重箱をさげて歩きながら、ある男性のことを想っています。

重箱を届けなくてはいけない。
それなのに、男性のことを想うとその重さを忘れ、重箱を持っていることさえ忘れ、心が勝手に歩き出す。
その重さを忘れないように、違う手に持ち替えるのだけれど、なかなか男性は消えてくれない。

この持っているのが「おはぎ」というところがいい☆

時に残酷で、時に美しく、幻を追い、悲しみに吹かれる。

以前、代表作ともいえる『第七官界彷徨』を読んだ時には、正直、とまどい、どう感想を表現したらいいのかわかりませんでした。

どこにもない小説だったのです。

その後、気になって他の作品をいくつか読みました。
ついつい読んでしまうのです。

「歩行」
「こおろぎ嬢」
「地下室アントンの一夜」
「初恋」
「少女ララよ」

どの作品も、それぞれに不思議な魅力をたたえていて、読書後、自分の中の何かが少し変わってしまったような感じがしました。

何かどう変わったのかはわかりません。

尾崎翠の作品は、それこそ「第七官」に訴える作品なのかも知れません。

作家としての尾崎翠が活動した年月はとても短く、苦労の連続で、文学界から遠のいた後年はほとんど断筆状態でした。
病に倒れ入院した時には「このまま死ぬのならむごいものだねえ」と大粒の涙を流してつぶやいたといいます。

この言葉も忘れることができません。

深まる秋の気配の中、読書の秋のお供に尾崎翠はいかがでしょうか?

温かい飲み物と、アップルパイが欲しくなるかも☆














尾崎 翠  著
中野 翠  編
ちくま文庫(「尾崎翠 集成」下巻収録)