永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(578)

2009年12月02日 | Weblog
09.12/2   578回

三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(8)

 女三宮には、

「御封のものども、国々の御庄、御牧などより奉るものども、はかばかしき様のは、みなかの三條の宮の御蔵に納めさせ給ふ」
――(女三宮の)御領地から上がる収入、諸国にある荘園、牧場などから奉られるものの中から主だったものは皆、三條の宮の御蔵にお納めさせになります――

 なおその上に源氏は蔵を建て増しされて、さまざまの宝物や、朱雀院の形見として数多くの物など、女三宮所有の財産はみな三條の宮のお蔵に移され、厳重に保管なさいました。一方、

「明け暮れの御かしづき、そこらの女房の事ども、上下のはぐくみは、おしなべてわが御あつかひにてなむ、いそぎ仕うまつらせ給ひける」
――日常の宮のお世話や、大勢の女房たちのこと、上下の使用人の暮らし向きなどは、みな源氏のご負担として、あちらの三條の宮のご増築を急がせるのでした――

 こうして秋になって、

「西の渡殿の前、中の塀の東の際を、おしなべて野につくらせ給へり。閼伽の棚などして、その方にしなさせ給へる御しつらひなど、いとなまめきたり」
――尼君(女三宮)の御殿の、西の渡殿の前の、中の塀の東の際を、一面の野原の風情にお造りになりました。閼伽の棚などを設えて、尼宮に相応しいご設備がたいそう優雅でいらっしゃる――

 女三宮の後を慕って当座の興奮から、我も我もと競争のように出家を希望されましたが、源氏は、

「あるまじき事なり。心ならぬ人すこしも交じりぬれば、かたへの人苦しう、あはあはしき聞こえ出で来るわざなり」
――それはよろしくない。本心から望むのでない人が少しでも交じっていると、はたの者が迷惑するし、浮ついた評判も立つものだからね――

 と、お諌めになって、出家を願った人々のうちで、乳母や老女房はもちろん、若い女房の中でも道心固く、一生尼で過ごせそうな者だけを選んで、源氏はお許しになります。そこで、十人ほどが尼姿になってお仕えすることになったのでした。


◆女三宮の財産=出家後の女三宮の主な収入となるものに、内親王としての俸禄、荘園各地からの収入、牧場からの収入があり、さらに朱雀院からの財産分与、母君の遺産と、かなりの財産をもっていた。

ではまた。