永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(595)

2009年12月19日 | Weblog
09.12/19   595回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(10)

 落葉宮は、

「聞き入れ給ふべくもあらず、くやしう、かくまでと思すことのみ、やるかたなければ、宣はむ事、はたまして覚え給はず」
――(夕霧の話など)お聞き入れになる筈もなく、残念な、こんな目にまで遭って、というお気持でいっぱいですので、まして、お返事の言葉など浮かんでもきません――

 夕霧はさらに、

「いと心憂く若々しき御様かな。人知れぬ心にあまりぬる、すきずきしき罪ばかりこそ侍らめ、これより馴れ過ぎたる事は、さらに御心ゆるされでは御覧ぜられじ。いかばかり、千々にくだけ侍るおもひに堪えぬぞや」
――何という情けない幼げなご様子でしょう。心一つに抑えきれず浮気めいた振る舞いをいたしましたのは申し訳ございませんが、これ以上の立ち入った事は、お許しの無い限り、決して致しますまい。ただこれまでも、どれほど千々に砕ける思いに堪えかねていたことでしょう――

 また続けて、

「さりともおのづから御覧じ知るふしも侍らむものを、しひておぼめかしう、けうとうもてなさせ給ふめれば、聞こえさせむ方なさに、いかがはせむ。心地なくにくしと思さるとも、かうながら朽ちぬべき憂ひを、さだかに聞こえ知らせ侍らむとばかりなり。言ひ知らぬ御気色のつらきものから、いとかたじけなければ」
――いくら何でも、自然に私の想いを分かってくださる時がありましたでしょうに、わざと分からない振りをなさって、よそよそしくなさるようですから、何と申し上げたらよいのでしょうか。無分別で怪しからぬとお思いになっても、このまま知られずに終わってしまう煩悶を、はっきりお知らせしようと思うだけなのです――

 と、おっしゃって、ひたすら心を抑えて、情け深そうに気を配っておいでになります。落葉宮が障子を押さえてはいらっしゃるけれども、何とも頼りなげな固めです。が、夕霧は無理に手を掛けて開けようとはなさらず、「このくらいの隔てをさえも、強いて守ろうと思召すお心が愛おしい」とお笑いになり、それ以上困ったお振舞いをなさる風でもありません。

ではまた。