永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(600)

2009年12月24日 | Weblog
09.12/24   600回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(15)

 夕霧は、帰り際に(歌)

「『荻原や軒ばのつゆにそほじつつやへたつ霧をわけぞゆくべき』濡れ衣は、なほえほさせ給はじ。かう理なうやらはせ給ふ御心づからこそは」
――「軒端に近い荻原の露にぬれながら、幾重にも立ち込めた霧を分けて、私は帰ってゆかねばならないのか」あなたも濡れ衣を免れないでしょう。このように私を追い払おうとなさるから――

 と、申し上げます。

落葉宮は、いかに浮名が世に漏れ出ようとも、せめてご自分の良心にだけは潔白でいたいとお思いですので、お返事にもたいそう用心されて、取り合おうとなさらない。(歌)

「『わけゆかむ草葉の露をかごとにてなほ濡れ衣をかけむとや思ふ』めづらかなる事かな」
――「朝露を分けて濡れたことを口実に、わたしにまで濡れ衣を着せようとなさるのですか」世にもめずらしいお話でございますこと――

 と、たしなめられる宮のご様子は、まことに優雅で、こちらが恥じ入るようでございます。

「年頃人に違へる心ばせ人になりて、さまざまに情けを見え奉る名残なくうちたゆめ、すきずきしきやうなるが、いとほしう、心はづかしげなれば、疎かならず思ひ返しつつ、かうあながちに従ひ聞こえても、後をこがましくやと、さまざまに思ひ乱れつつ出で給ふ。道の露けさもいとところせし」
――今まで人並み外れた親切心を、さまざまにお見せしておいて、落葉宮を油断させ、浮気者の本性を現したように思われたことが、宮にもお気の毒であり、極まり悪くもあり、よくよく自省はしながらも、こう宮に従って断念したとても、後で馬鹿を見たことになりはしないかなどと、さまざまに迷いつつお帰りになります。窮屈な身の上に、帰り道は朝露まで邪魔をする――

 夕霧はこのまま自邸に帰れば、雲井の雁が、このような朝帰りを怪しいと、感づくに違いなく、足は六条院の花散里(源氏の女方で、子供の時から母代りの人)の邸に向かうのでした。

◆心ばせ人=心馳せ人=こころ使いのある人

◆うちたゆめ=打ち弛む=心がゆるむ。油断する。

◆写真:山の朝霧に紛れて。

ではまた。