永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(588)

2009年12月12日 | Weblog
09.12/12   588回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(3)

 夕霧が頻繁に小野に行くようになって、

「なほつひにあるやうあるべき御中らひなめり、と、北の方けしきとり給へれば、わづらはしくて、参うでまほしう思せど、とみにえ出で立ち給はず」
――そのうちきっと、なるようになるご関係らしいと、北の方雲井の雁が感づかれたようで、夕霧は当惑気味で小野に行きたくても、すぐにはお出かけになれません――

 八月の二十日の頃、野辺の景色も秋の風情で、あの小野の辺りの景色を見たいものだとお思いになって、夕霧は雲井の雁に、

「なにがし律師のめづらしう下りたなるに、切にかたらふべきことあり。御息所のわづらひ給ふなるもとぶらひがてら、まうでむ」
――あの何とかという律師が珍しく山(比叡山)を下ったそうだが、それに是非相談したいことがありましてね。御息所がご病気のことでもあり、お見舞いかたがた出かけようと思う。――

 と、尤もらしい口実を設けて、前駆の供人は大袈裟ではなく五、六人にして狩衣姿でお出かけになります。

「ことに深き道なれねど、松が崎の尾山の色なども、さる巌ならねど、秋の気色づきて、都に二なくとつくしたる家居には、なほあはれも興もまさりてぞ見ゆるや」
――たいして山深い道ではありませんし、松が崎の小山の色なども、それほどの岩山ではないものの、秋の気配が漂って、京の二つとない数寄をこらしたお庭よりも(六条院の庭)、こちらの山荘は、味わい深く作りなして、風情も面白みも優れたたたずまいでいらっしゃる――

お目当ての落葉宮と御息所のお住まいは、ちょっとした小柴垣を巡らせて、清々しくなさっておいでです。寝殿らしい建物の東廂にある臨時のお部屋に修法の壇を造って、落葉宮は反対の西のお部屋にいらっしゃる。

御息所は、

「物の怪むつかしとて、とどめ奉り給ひけれど、いかでか離れ奉らむと、慕ひ渡り給へるを、人に移り散るを怖じて、すこしの隔てばかりに、あなたには渡し奉り給へはず」
――物の怪が煩わしいので、落葉宮だけは京にお留めになりましたが、宮はどうして離れて居られましょうと、付き添って来られましたのを、物の怪が他に移るのを恐れて、少しの隔(へだて)でもと、宮を御息所のお部屋にはお入れしません――

◆さる巌ならねど=小野へ入る山口。そこには氷室があったという。

◆物の怪=もののけは、移るものと思われていた。

ではまた。