永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(184)

2009年12月21日 | Weblog
09.12/21   597回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(12)

 落葉宮は、

「世を知りたる方の心安きやうに、折々ほのめかすも、めざましう、げに類なき身の憂さなりやと、思し続け給ふに、死ぬべく覚え給うて」
――(確かに結婚した女として)一度夫を持った身であるからといって、相手にしやすいように、折につけ仄めかす夕霧の御態度を、ひどく不快に思われ、本当にこんな不運な身の上がまたとあろうかと、思いつめられて、いっそ死んでしまいたいと、――

「憂き自づからの罪を、思ひ知るとても、いとかうあさましきを、いかやうに思ひなすべきかはあらむ」
――亡き人との浅かった私の身を、これも前世の罪からと考えましても、(それをご存知で)こうまで浅ましいあなたの御態度を、どう考えてみたらよいのでしょう――

 と、かすかなお声で、あわれ深くお泣きになって、(歌)

「われのみや憂き世を知れるためしにてぬれそふ袖の名をくたすべき」
――(結婚)という過去に男を知っていた不幸な私だけが、さらに悲しい辛さを重ねて、わが名を汚すような、人の噂に晒されなければならないのでしょうか――

 と、途切れ途切れに言われるお歌を、夕霧はまとめて反復なさる。宮は「ああ、見苦しいことを口にしてしまったこと」と思っておりますと、夕霧は「たしかに悪い事を申し上げましたね」とおっしゃりながらも、(返歌)

「おほかたはわれぬれぎぬをきせずともくちにし袖の名やはかくるる」
――大体、私が濡れ衣をお着せしなくても、一度立った噂というものは、打ち消せるものではないのです――

「ひたぶるに思しなりねかし」
――あれこれお考えにならず、きっぱりお心をお決めください――

◆げに類なき身の憂さ=早くに夫を亡くした身は前世からの罪、落度と考えられた。その上内親王の身でありながら、未亡人の浮名を流したり、二度目の夫を持つなど、恐ろしい身の破滅と考えられていた。

ではまた。