◎青山杉作、高名な画家の役を好演
昨日の続きである。中村登監督『我が家は楽し』(一九五一)という映画で、植村家に「二番目」に起きる事件は、内田三郎(佐田啓二)という青年の死である。三郎は、長女・朋子(高峰秀子)の恋人だが、肺病のため湘南療養所に入院しているという設定になっている。快方に向かっているはずが、ある日、電報が来て、朋子は、三郎が危篤であることを知る。
長女・朋子は、画家志望で、仕事につかず、油絵の製作に集中していた。しかし、展覧会に出品する作品は、毎回、落選。その上に、この三郎の死で、画家志望を断念しようとするが、ここで、母親・なみ子(山田五十鈴)が、思わぬ行動に出る。
なみ子は、朋子には内緒で、朋子の油絵数点を持って、大宮京治画伯(青山杉作)のアトリエを訪ねたのである。この大宮京治画伯は、朋子が尊敬する高名な画家であった。なお、大宮京治の名前は、夫婦が朋子にプレゼントした画集のタイトルとして、すでに映画の最初のほうで登場している。アトリエを訪ねたものの、なみ子は秘書から面会を断られ、帰って行こうとするが、たまたま大宮画伯が、二階からその姿を見て、秘書に追うように命ずる。
画伯は、なみ子が持参した朋子の油絵数点をていねいに見た上で、批評する。ここで映画の視聴者は、母親・なみ子に感情移入し、朋子の油絵が画伯によって、破格の評価を受けるというストーリーの展開を期待するわけだが、残念ながら、画伯の評価は、「やはり落選ですね」というものであった。しかし、なみ子はあきらめない。画伯から「努力次第では」という言葉を、なかば無理やりに引き出して帰ってゆく。
大宮京治画伯を演じた青山杉作は、当時、俳優座養成所の所長だったはずである。重厚というか、渋いというか、いかにも「巨匠」らしい演技を見せており、感心した。【この話、続く】