◎取材班は条件に該当する人物を追った
『文藝春秋』六月号のスクープ記事〝朝日襲撃「赤報隊」の正体〟について、感想などを述べている。
本日は、以下の箇所について感想を述べる。
「阪神はあんたがやったんか」
では、朝日新聞阪神支局を襲撃した「赤報隊」は何者なのか。
Mは自ら目撃した「実行犯」と思しき男について、 野村から「自衛隊出身の銃マニアで、北陸地方に在住、既存の右翼団体に属していない」と聞かされていた。
取材班はこうした条件に該当する人物を追った。その結果、野村と一水会の周辺で、事件当時は東海、関西、北陸を拠点に活動していた自衛隊出身者を含む、あるグループが浮かび上がった。
長期にわたる情報収集の末に、取材班はようやくそのグループのメンバーらにたどりついた。メンバーの一人が重い口を開く。
「当時、東海に住んでいた国民前衛隊にも絡んでいた人間が阪神事件の実行役だと思っていた。グループには自衛官出身者や、散弾統を所持し統を撃てる人間がそろっていた。野村さん、鈴木さんの思想の共鳴者だが、民独のテロは手ぬるいと不満を持っていた。一連の事件後、一人が暴力団組長になっている。『阪神はあんたがやったんか』と何度も尋ねたが、『墓場まで持っていく』とニヤニヤして否定も肯定もしなかった」
野村から三〇〇〇万円の逃走資金を提供されたことは認めなかったが、メンバーが阪神支局事件に関わった可能性は否定しなかった。〈115~116ページ〉
文中に「民独」とあるのは、「日本民族独立義勇軍」のことで、これは「赤報隊」の前身だという(記事110ページ)。
「自衛隊出身の銃マニア」に相当する人物を追った取材班の努力には、頭が下がる。しかし、そもそも、「自衛隊出身の銃マニア」という情報は信じるに足るものだったのか、という疑いを私は持つ。
この点に関し、「野村の元側近」が取材班に語ったという言葉に注意したい。「Mさんが事務所で見たという男も野村先生以外、誰も正体はわからない。謎なんだ」(114ページ)。おそらく、この人物は、取材班に対し、「自衛隊出身の銃マニア」を追っても、あまり意味はないよ、と忠告したのだと思う。
さらに、この人物は、「犯行声明文を作って投函するグループと実行役は別々」ということも語っている(114ページ)。これは、この事件の構造を私たちに示唆する、極めて重要な指摘ではないのか。
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