今日の話題は、脳のCT画像の話です。
ケースの相談が何例か続きました。以下藍色部分はは保健師さんの原稿です。
①84歳女性。MMS24 かな(27,2,不可)
立方体の模写
30項目本人4-1-0
同居の娘4-2-0
61歳で夫他界。4人の娘を育て、舅・姑ともに見送る。
夫他界後はじめた習字は師範まで取る。趣味も多彩、さらには婦人会の役員も。
7年前に交通事故で右肋骨・右腕骨折。入院はしなかったが完治までに1年近くかかる。
MRIは異常なし。
3年前に世話役・発表会を辞める。食事のしたくも長女が行うようになる。サロンには現在も参加している。
確実に認知は出ている。家族も受診を定期的にしており脳の萎縮を指摘されている。本人はDr.から『年なりに忘れっぽくなっている』と言われている。
指導:交通事故をきっかけに脳機能が落ちている。特に右脳・前頭葉の働きが落ちている。サロンや旅行の継続を勧める。
私のコメント:右肋骨・右腕骨折の状態から、交通事故のとき右脳を打った可能性は十分に考えられる。
しかし7年もたってなお上図のように立方体模写が完璧であるから、右脳に後遺症として構成失行が残ったとは考えられない。
前頭葉そのもののダメージ、前頭葉以外の微細なダメージによる前頭葉機能が完全に発揮できないようなことが起きた可能性も否定はできないが、そうだとしたら、7年前から後遺症を抱えて生活を続けたことになる。現在小ボケの状態なので、脳機能は例外的によく持っていることになる。
ところが生活歴をよく聞くと、3年前に役職その他を退いたときがある。この方の前頭葉は、単なる趣味の会に参加するのでは、満足できないと考えれば、前頭葉の機能発揮の場として不十分な日々が3年前から始まり現在まで続いていることになる。としたら、ごく普通の老化が加速されたパターンと解釈することができる。
このケースのように、事故とか脳卒中とかが明らかなときにCTやMRIの画像の結果に振り回されることのないように気をつけなくてはいけません。
例え、梗塞巣や出血箇所がはっきり見えたとしても、気質的にそうなっている(形としてはこの状態)ということがわかるだけです。
機能がどうかは器質検査からはわかりません。
まして萎縮や多発性脳梗塞など、高齢者に多く見られる状態は、その画像の特徴が加齢によるものかどうかは、器質検査である画像を眺めていてもわからないのです。
とにかく機能検査を行わなくては、「働きがどうか=生活はどうなるか」はわからないのです。
その機能検査が私たちの「二段階方式判定スケール」です。
②72歳女性。MMS11かなひろいテスト不能
模写は左の通り。
30項目はケアマネさんの評価によると7-6-4
多弁だけどなんか気になるしゃべり方でした。
例えば時刻に対して「昭和・・・昭和じゃない・・・、昼前ご飯食べてないから、11時前(正答)」
命名で、鉛筆に対しては「これは普通の鉛筆」
時計に対しては「これは普通の・・・時計」
(キィワードがなかなか出てこない)
さらに、生活歴の聴取から7年ほど前に脳梗塞の既往があることがわかりました。
私のコメント:脳機能は大ボケ、生活実態も大ボケで安心しないでください。
まず、立方体が上手すぎる。(右脳の機能がよい)そして、「気になるしゃべり方」がある。いずれにしても脳機能に左右差がありますね。
脳卒中の既往があるということと、上記のテスト結果から、脳梗塞は左脳におき、軽い感覚性失語症(入力障害・キィワードが出ない・流暢な話し方マニュアルC 95P参照)が後遺症として残ったことがわかります。
7年間も、失語症があることをわかってもらえず苦しいことだっただろうと胸が痛みます。CTもMRIも撮ったでしょうに。
脳梗塞は指摘されても「その結果、こういう後遺症があって、生活上はこういうことに気をつけるように」という指導はなかった・・・
私たちが生きていくときに、脳の形が問題なのではなく、脳の働きが問題なのです。器質検査にすぐる機能検査ができることに誇りを持ってください。