脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

器質と機能ーCTでわかること、脳機能テストでわかること

2007年06月21日 | 画像だけにたよらない

今日の話題は、脳のCT画像の話です。
ケースの相談が何例か続きました。以下藍色部分はは保健師さんの原稿です。
①84歳女性。MMS24 かな(27,2,不可)
 立方体の模写
Mosya001
30項目本人4-1-0 
同居の娘4-2-0

61歳で夫他界。4人の娘を育て、舅・姑ともに見送る。
夫他界後はじめた習字は師範まで取る。趣味も多彩、さらには婦人会の役員も。
7年前に交通事故で右肋骨・右腕骨折。入院はしなかったが完治までに1年近くかかる。
MRIは異常なし。
3年前に世話役・発表会を辞める。食事のしたくも長女が行うようになる。サロンには現在も参加している。
確実に認知は出ている。家族も受診を定期的にしており脳の萎縮を指摘されている。本人はDr.から『年なりに忘れっぽくなっている』と言われている。

指導:交通事故をきっかけに脳機能が落ちている。特に右脳・前頭葉の働きが落ちている。サロンや旅行の継続を勧める。

私のコメント:右肋骨・右腕骨折の状態から、交通事故のとき右脳を打った可能性は十分に考えられる。
しかし7年もたってなお上図のように立方体模写が完璧であるから、右脳に後遺症として構成失行が残ったとは考えられない。
前頭葉そのもののダメージ、前頭葉以外の微細なダメージによる前頭葉機能が完全に発揮できないようなことが起きた可能性も否定はできないが、そうだとしたら、7年前から後遺症を抱えて生活を続けたことになる。現在小ボケの状態なので、脳機能は例外的によく持っていることになる。
ところが生活歴をよく聞くと、3年前に役職その他を退いたときがある。この方の前頭葉は、単なる趣味の会に参加するのでは、満足できないと考えれば、前頭葉の機能発揮の場として不十分な日々が3年前から始まり現在まで続いていることになる。としたら、ごく普通の老化が加速されたパターンと解釈することができる。
P1000004_8 P1000005_4

このケースのように、事故とか脳卒中とかが明らかなときにCTやMRIの画像の結果に振り回されることのないように気をつけなくてはいけません。
例え、梗塞巣や出血箇所がはっきり見えたとしても、気質的にそうなっている(形としてはこの状態)ということがわかるだけです。
機能がどうかは器質検査からはわかりません。
まして萎縮や多発性脳梗塞など、高齢者に多く見られる状態は、その画像の特徴が加齢によるものかどうかは、器質検査である画像を眺めていてもわからないのです。
とにかく機能検査を行わなくては、「働きがどうか=生活はどうなるか」はわからないのです。
その機能検査が私たちの「二段階方式判定スケール」です。

②72歳女性。MMS11かなひろいテスト不能
Mosya002 模写は左の通り。
30項目はケアマネさんの評価によると7-6-4

多弁だけどなんか気になるしゃべり方でした。
例えば時刻に対して「昭和・・・昭和じゃない・・・、昼前ご飯食べてないから、11時前(正答)」
命名で、鉛筆に対しては「これは普通の鉛筆」
時計に対しては「これは普通の・・・時計」
(キィワードがなかなか出てこない)

さらに、生活歴の聴取から7年ほど前に脳梗塞の既往があることがわかりました。

私のコメント:脳機能は大ボケ、生活実態も大ボケで安心しないでください。
まず、立方体が上手すぎる。(右脳の機能がよい)そして、「気になるしゃべり方」がある。
いずれにしても脳機能に左右差がありますね。

脳卒中の既往があるということと、上記のテスト結果から、脳梗塞は左脳におき、軽い感覚性失語症(入力障害・キィワードが出ない・流暢な話し方マニュアルC 95P参照)が後遺症として残ったことがわかります。

7年間も、失語症があることをわかってもらえず苦しいことだっただろうと胸が痛みます。CTもMRIも撮ったでしょうに。
脳梗塞は指摘されても「その結果、こういう後遺症があって、生活上はこういうことに気をつけるように」という指導はなかった・・・

私たちが生きていくときに、脳の形が問題なのではなく、脳の働きが問題なのです。器質検査にすぐる機能検査ができることに誇りを持ってください。

 

 

 


保健師さんは超能力者か?!

2007年06月13日 | 二段階方式って?

和歌山県白浜町での勉強会の席上、ある保健師さんが
「この前の生活指導のとき『保健師さんは超能力者か?!』って言われたんです」と笑いながら話してくれました。
その時、他の保健師さんは
「集団かなひろいテスト不合格の方たちに個別検査をやったんですが、生活が変わるきっかけって、皆ありました。それもちゃんと自分で言えるんですね」と感心しながら話してくれました。
Dsc01550 Dsc01551 白浜アドベンチャーワールド

先日の実務研修会のレポートが次々と届いています。
実父(小ボケ)のケースでしたが、A=B=Cが成立し、納得したうえで
「私が今まで知らなかったことまでも話すんですよね」とちょっとびっくりした感じで付け加えた方がいました。

また別の保健師さん。
「本当に涙を流されたんです。そのことをきっかけに老化が加速されたんだろうとわかったのですが、何も言えずに一緒に黙っていました。それでよかったんでしょうか?」
「もちろんそれでいいのです。続いて『それはおつらかったでしょうね』などという表現で共感を伝えた上で、『その試練に負けずに乗り越える必要がある』ことを説明しなくてはいけませんが。」
「はい。言いました。」
「終わったときの様子は?」
「それが、涙を流されたのに、結構すっきりした感じで、『今日はほんとにありがとうございました』と挨拶して帰られました。」とやはりびっくりした感じが伝わります。
P1000016_5
高野山蟠龍庭

脳の使い方という観点から、生活歴を聞き取っていくところに二段階方式の醍醐味があります。そのために脳機能テストをし、聞き取った生活歴から今後脳にとっての健康的な生活指導をするのが二段階方式です。

生活歴聴取が難しいとよく言われますが、わからないときにはまずマニュアルBの第3章を読んでみましょう。テスト結果からきっかけ(ターニングポイント)を聞くタイミングがわかります。

保健師さんのほうでは、その変化をきっかけにして「あなたの前頭葉はどのように働くのかor働かないのか」を聞き取り、理解することが大切です。
前頭葉は、自分が評価できることに対してはよりイキイキと関与します。習慣的にできることや、生きる支えにならないようなつまらないと感じることに対しては、前頭葉は自分の出番と感じることなく引っ込んでしまうのです。
その時老化は加速されるのです!ここが小ボケの始まりということになります。
Dsc01530 配偶者に死に別れたら、必ずボケ始めるのではありません。その別れの結果、生活はどのように変わったのか?前頭葉の出番はどのように変化したのか?
その聞き取りと理解が大切です。

間違いないだろうという生活上の変化を聞き取っていながら、はっきりそれかどうかの自信がない保健師さん。
もう一度「その人の脳、特に前頭葉の使い方」という側面から整理してみてください。
そうするとあなたもまた「超能力者か?!」といわれること請け合いです。


骨粗しょう症検診

2007年06月11日 | 二段階方式って?

不肖,私は今年60歳。還暦を迎えます。
  ・意欲はまあまあ。元気なほうかな。
  ・容色は、これはどうしようもない。
  ・体力は、自覚的にはまあまあ。実態は↓↓↓。
さて、市役所から「骨粗しょう症検診」のお知らせが来ました。
今年は還暦ですから、「検診でも何でもこい」の心理状態ですから、もちろん予約をしました。 Dsc01448

保健センターに行くと、中年女性が約20人。
「ウワーあの人は若いなあ」
「フムフムあの人よりは私は若く見えてるはずだ」
「60歳って大体こんな感じ?」
などと勝手に品定めを楽しんでいました。

骨密度を測って結果が出るまで保健師さんによるお勉強。
その間に、今日は60歳の人の検診だと思っていた私が間違っていることがわかりました。
つまり、若い方も年配の方(私より)も混ぜこぜの検診だったのです。
私より若い人も年取って見える人もいて当然。
なあ~んだ。  
ま、これが当たり前の世の中の事象ですね。
歳は歳ということ。

P1000009_3 P1000011 検診結果の読み方や、歯周病予防の話、栄養や運動の話、カルシウムたっぷりの料理試食会の後、再度全員集合。
連絡事項のお知らせがあって
「今からお名前を呼ぶ方は、もう少し詳しくお話を聞きますから残ってください。他の方はそのままアンケートを書いてお帰りください」

伊東市の保健師さん(多分)はごく自然にこのように言ったのです。
オットット。どこかで聞いたせりふだなあ。
集団かなひろいテストの後のせりふ!
自然に言えるようになるまでには、ちょっと時間とエネルギーが要りませんか?
正確に言うと体験がいるのではないでしょうか?
テストから始まって生活指導までがきちんとでき、さらにはその方が改善していったという体験。
そのときに、「あなたのために生活指導してあげます」という気持ちが持てるのです。
「骨密度なら言いやすいけど・・・」
そう「認知症の可能性があるかもしれませんからお話を聞きます」は言いにくいでしょう。
だから「脳機能」というアプローチが有効なのです。

「認知症」という表現は人格を否定するような響きがありますね。だから「脳の健康」とか「脳のイキイキ度チェック」というようなアプローチにするのです。骨も歯も、もちろん体も全部大切ですが、生きていくときにその根底をなすものは「脳機能」だということを生活指導をする皆さんはよく理解しておいてください。
P1000012_1
ところで、私の結果を報告しましょう。正常範囲で直帰組。
でも、保健師さんと1対1で話をしてもらっている人たちに、ちょっぴり羨望の気持ちが湧いたことも報告しておきましょう。


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