脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

正常から認知症への移り変わり「ちっとも顔を見せないんだから・・・」

2008年04月29日 | 正常から認知症への移り変わり

脳の老化が加速された時、つまりボケ始めたら人に関する見当識にはどんなことが起きてくるのか、話してみましょう。
白鳥山ハイキング中に出会った花(雪もち草) 

おばあちゃんが、自分の娘に対していくら丁寧な言い方であったとしても
「どちらさまか存じませんが、ほんとにいつも親切にしてくださって・・・ありがとうございます」といったり、
自分の夫に対して
「こんなおじいさん、誰だか知ってるはずなんかない!」と怒鳴ったりしたら?

例えそれが今までに一度も言ったことがなく、初めての発言であったとしても「ボケてる」と暗澹たる思いに駆られることでしょう。
世の中では、このようにごく身近な家族に対してもその関係がわからなくなったら、安心して「ボケてしまった」といってるはずです。

ここで質問。
昨日まで、人に関する見当識に全く何の問題も無かった人が、突然こんな発言をするでしょうか?
その回答は「そんなことはない」以外考えられません。
だから、このような発言にいたる道筋を少し解説したいと思います。
勿忘草(わすれな草) 

 の機能レベルが小ボケ状態になったら、孫の説明に戸惑いが出てきます。
一番最初は年齢です。
それもほとんどの方(9割くらい)がより若く説明します。
例えば「幼稚園・・・」というと、実はもう小学生だったり「大学に行ってる」はずの孫が、とっくに社会人だったりするのです。

次に、名前もおかしくなってきます。
面白いことに子供の配偶者と取り違えるのです。女の孫だと息子のお嫁さん、男の孫だと娘の連れ合いという具合です。
子供の名前と取り違えることは、小ボケのレベルではまずないといっていいでしょう。

間違えるだけでなく年齢も名前もでてこないこともあります。いずれにしろ本人が
「おかしいなあ、どうしてわからなくなっちゃったんだろう。わかってるはずなのに」と素直に不思議がることもあれば
「この子はちっとも顔を見せないんだから。年に一度も帰ってこない」と不機嫌そうに言うことも、悲しそうにいうこともあります。

悲しそうに言われると、それ以上何も聞けなくなってしまいがちですが、そのとき同席している配偶者にたずねると、実にスムーズに
「アレ、どうしたの。~ちゃんでしょうが。今年中学に入ったといってきたでしょ」と年に一度しか帰省していないはずの孫の名前や年齢を説明できるのです。
(帰省が年一度かどうかは、更なる確認が必要です。小ボケの方の発言は、言葉どおりにとってはいけません)

二輪草(直径2センチくらい)の群生 

名前が出てこないときには、ヒントを出してみます。
ヒントの鉄則は語頭音ですから、同席している
方に聞いて例えば絹子なら
「き・・・(語尾を上げて)」という風に言います。

早いうちは、このヒントですらすらと名前が出てきます。
少し進むと、ヒントが全く役立ちません。

何人かいる子供のうち、とりわけどの子供かで、孫の説明に苦労することが目立つ場合には、その子供との関係性に問題があることが多いのです。
トラブルがあったとか、そのために接触がほとんどないとか。
このように疎遠な場合でも、正常老化の場合には、度忘れすることはあっても孫の名前も年齢もちゃんとわかっています。

中ボケレベルになると、子供の説明がおぼつかなくなります。
第1段階:子供の居場所が曖昧になったり間違えたりします。
「長男は大阪・・・」と口ごもると、家族が「お兄さんは、今東京でしょ!」と訂正するような状態が起こります。

第2段階:子供の数は正しいのですが順番を間違えます。3タイプ紹介します。
タイプ1

「男が2人女が3人で、長男の次が女の子、それから男・・・」といい始めると
「一番上は女でしょ。それからお兄さん」と訂正が入ります。

タイプ2
「一番上は静岡で、これが長男。次男は熱海にいて・・・」すかさず家族が「逆でしょ!どっちが長男なの?!」
タイプ3
「ここにいるのが娘のA子です。長女なんです」A子さんがびっくりして「私は末っ子でしょ!」

第3段階:自分の生んだ子供の数がわからなくなります。

「4人だか5人だか・・・」
こういう答えに対しては「幼いころに亡くしたお子さんがいるのかな?」と考えがちですが、正常老化の人たちはこのようには答えません。
「5人授かったんですが、1人亡くしまして」これが正しい答えです。
子供の数が曖昧になるということは、中ボケでもかなり進んだ状態です。

第4段階:同席しているのが自分の子供ということはわかるのですが、何番目の誰かがはっきりしなくなります。
「あんたはどっちだったかねえ。A 子?B子?」とか、2人いれば「どっちがお姉さんだったかねえ?」
一輪草(直径4センチくらい)

ここまでくれば、もう家族すらわからなくなる大ボケはすぐそこまで迫っています。
老化が加速していくにつれて、自分の年齢がだんだん若く逆戻りし始めます。(中ボケから2~3歳くらいの違いは見られ始めます)
自分が若くなってるものですから、息子を夫と間違えたり、さらに若くなると兄弟と間違えたりします。その次の段階で誰だかわからない状態になるのです。
こういう方に会ったことがあります。
初めてお会いしたときが既に大ボケでした。
数年の経過でしたが、最初
「実家に帰ったら、母しかいませんでした。父は病気で死んだんですって」から始まり、次には
「実家に帰ったら、父も母もいるんです」とニコニコ話してくれました。
この次の段階で、未婚の気分になり、女性の場合は旧姓をいったり書いたりすることもあります。この人は
「仕事は忙しい」と訴えました。娘時代と同じ仕事をしているつもりらしいのです。                           
大ボケの人が、老人ホームやデイで、仕事をしている気分になっていることがよくありますが、そのときには年齢もかなり若返っていると思います。
山路来てなにやらゆかしスミレ草

大ボケの人は体調の影響も受けやすいので、体調の波に従って多少よくなったり悪くなったりすることはありますが、人に関する見当識が全く正常に戻ることはないと覚悟しなくてはいけません。
ただし、ここに至るまでは「人に関する見当識が揺らいでいる」という数多いサインを発し続けるということはわかっていただけたでしょうか。

サインを見落とさないことも大切ですが、もっと簡便で重要なことは脳機能検査をして、客観的なその時々の能力を知るということですよ。
その指標がないと、早い段階での生活改善指導はとてもやりにくいからです。

小ボケの多くの人は言い訳をします。
「だってこの子はちっとも顔を見せないんだから・・・」などとね。


           



子育て支援とボケ予防ー12億円/600万円

2008年04月24日 | エイジングライフ研究所から

静岡県臨床心理士会主催の子育て支援研修会に行ってきました。
P1000007 会場は静岡市のグランシップ。すばらしい施設です。

研修会は二部制で、一部は静岡県教育委員会・社会教育課の先生が「地域における家庭教育支援基盤形成事業」について県の取り組みを話されました。

この「地域における家庭教育支援基盤形成事業」というのは文部科学省が家庭教育支援事業として本年度から始めるものだということでしたが、実際は昭和39年頃からの市町村の家庭教育学級への補助金交付から始まる息の長い取り組みでした。P1000005_5

私が子育てをはじめたのは、もう遥かに前の話ですが、確かに「家庭教育学級」がありました。でもPTAの活動とどこが違うのやらあまり認識がなかったような気がします。

平成14年には「社会の宝として子どもを育てる」という答申がなされ、それを受けて、親たちへの講座や子育てサポーターリーダー養成が始まったという経緯を聞きました。
続けて、現状は、問題を抱えた親たちは参観会に出席しない・家庭訪問してもいない(夜の仕事に従事)などが多く、そのような親に対する講座が可能な唯一のチャンスは入学説明会と入学式という説明を聞き嘆息しました。

布人形の展覧会開催中でした。大急ぎで見学しました。P1000002
子育てサポーターとは
「妊産婦や乳幼児~中学生くらいまでの子どもを持つ親に対して、子育てやしつけについて、友人のような関係で気軽に相談に応じたり、きめ細やかなアドバイスなどを行ったりし、人格円満、健康でその地域の実情に詳しく、親が気軽に相談できるものが考えられる」人だそうです。
問題を抱えた親ではなく不安を抱えた親に対して働きかけを行うことになっています。

趣旨はよくわかりますが、専門職でない良さは、発達障害児や情緒障害児への対応の危うさにもつながるのではと思いながら聞いていました。
P1000001
ボケの場合、普通の「アルツハイマー型認知症」にその他のもの例えば、アルツハイマー病とか失語症とかがどのくらい混じり込むか考えてみると、ほんとに1割に満たないのです。
(だから、保健師さんたちは「普通のボケ」を鑑別することが求められるのです。脳機能テスト結果A=生活実態B=生活歴Cになれば生活改善指導を行い、ならなければ専門医に回せばよいのです)
子どもたちの場合、知的障害や軽度発達障害、情緒障害などがどのくらいの割合で存在するのでしょうか?出現率が高いほど、専門家がかかわらなくてはいけませんよね。

勿論そのあたりは考えられていました。
子育てサポーター・保健師・民生委員・臨床心理士などからなる「家庭教育支援チーム」の設置です。
原則小学校区にひとつ、学校や公民館に設置し、曜日や時間を決めて子育てサポーターが常駐し、専門職は非常勤でかかわるという趣旨が述べられました。
子育てで不安を抱えた親は、身近な学校や公民館にある相談室にフラリと立ち寄れば、まず子育てサポーターが友人のような関係で気軽に相談に乗リ、必要ならば専門職につなげる。うまく機能すれば助かる親たちがいるに違いありません。
静岡県では本年度モデル地区が牧之原市と焼津市を含み8市町決められていました。

                              去年植えたラナンキュラス出現。1年草のはず!P1000011

私の感想
・保健師さんの仕事の分野が広いことを改めて感じました。
また仕事が増えてしまう?とちょっと心配にもなりました。
・「小学校区を一塊として、活動させていく」というのはボケ予防教室の考え方と同じだし、人的社会資源をなるべく有効活用しようというのも同じです。
大崎市の取り組みを思い出しました。多くの協力団体がボケ予防教室を支えています。
テーマが「子育て」と「ボケ予防」どちらの方が、住民の方が取り組みやすいか考えてみてください。
・ボケ予防ができなければ、大ボケがたくさん生まれてしまいます。その介護費用は年間500万円~600万円必要だと言われています。多数になればなるほど、その他にまわす予算はないのです!
この「地域における家庭教育支援基盤形成事業」の国全体の本年度予算が11億5300万円。全国でモデル事業として282ヶ所展開する予定になっています。
1ヶ所の年間予算が約400万円。400万円で何人の親たち(と子どもたち)を助けることができるでしょうか?楽しみですね。
一方、12億円を大ボケの一年間の介護費用600万円で割ると200ですよ。
この事業予算は、大ボケ200人の一年間の介護費用と同額・・・
子育て支援をするにもボケ予防は必須だということになります。

付録(第二部より)P1000010            
軽度発達遅滞の分類
学習障害Learning Disorders:LD
注意欠陥/多動障害
Attention Deficit / Hyperactivity Disorders:ADHD
高機能自閉症
High-functioning Pervasive Disorders(Autism):HFPD
アスペルガー障害
Asperger's Disorders


ガーゼははがさない?でも生活歴はきちんと聞く

2008年04月17日 | 二段階方式って?

P1000002 キズをしたら、きちんと消毒して、薬をつけてガーゼを当てて包帯を巻く。

翌日包帯を解いて、ガーゼをはがして、消毒して、薬をつける。

その後、またガーゼ、包帯の手順で今日の手当てはおしまい。

こうして書いただけでも、アー、痛い!特にガーゼをはがすときの痛みといったら。
パッとはがしてもらうほうがいいのか、ゆっくりジワジワとはがしてもらうほうがましなのか?

私は幼稚園のとき、BCG接種をした後が化膿してしまって、切開してもらったことがあります。その後毎日病院へ通って包帯交換をしてもらったのですが、今でもガーゼをはがすその時の緊張感がまざまざと思い出されます。

だいたい、看護婦さんはパッとはがしてくれる人が多かったように記憶しています。
「ちょっと我慢ね、すぐ済むからね」
ついでに白状すると「小さいのによくも泣かずに我慢ができて、お利口さん」といわれ、帰りに毎日何かご褒美を買ってもらっていました(笑)Img_2

この手当て法が一昔前の話になったようですね。

最近では、ガーゼ交換をしないほうが早く傷が治るというのが主流みたいです。

何しろ痛くないので、手当てするのに気が楽です。
そして早くよくなるというのですから、日常生活に取り入れない手はありません。

もっと簡便なことに「消毒するのも水道水が一番。塩素が入っているから」ということも聞きました。

医学は日進月歩ですね!

でも、

2006年5月「ガーゼを引っ剥がして」http://blog.goo.ne.jp/ageinglife/d/20060508

をもう一度読んでください。

生活歴聴取の時には、今でも、これからも、必ずガーゼを引っ剥がすように、生活の有り様が変化したそのきっかけをはっきりくっきりと聞き出さなくてはいけません。

ピンクの八重桜と黄色の桜・ウコン桜P1000013

先日の質問です。77歳の女性。

脳機能テスト=小ボケ状態
MMSは27/30
前頭葉テストは立方体透視図模写は不可。
動物名想起は11
かなひろいテストは(1,7+10,可)

生活実態=小ボケ状態 (4-0-0)

生活歴
H17年12月に夫が死亡(癌手術後在宅→入院→死亡)し一人暮らしになった
その後、息子の同居が始まった。

大まかに考えても、A=B=C
ごく普通のアルツハイマー型認知症、小ボケレベルですよね。

保健師さんの質問は、「普通の生活指導でいいのでしょうか?」
かなひろいテストの誤答が気になっているようでした。
「この件に関しては、マニュアルA108Pに書いてあるように変わり者の指標と考えればいいのです。誤答が多発する場合は、そこに配慮した指導を心がけてください。なかなかいうことを聞いてくれませんから、覚悟がいります」と返事をしましたが、どうも保健師さんの声に力がありません。

上記のように生活歴もよく聞き取っているのですが、一歩踏み込まずに印象を中心に「わかってあげた」かたちで聞き取ったようです。
やはりそこのところで自信がもてないらしいのです。
きっかけをたずねる時は「人生にいろいろと起こってくる単なる出来事」として聞くのではありません。踏み込んで「人生のターニングポイント」として聞くのです。P1000009

ガーゼ交換をするときに、「痛いでしょう」とジワジワとガーゼを持ち上げて、痛そうな顔をしたらそこで中止してしまうようなガーゼ交換よりも、パッとガーゼを引っ剥がしてその後丁寧に消毒し薬をつけてくれる方が治りが早いのと似通っている、と私は思ってきました。

幼い私の腕を持ちながら
「すぐ済むから、ちょっと我慢ね」と痛いことを知らせた上で我慢させてくれた看護婦さんの方を,私は幼いながら好み、この怪我と戦う同士のような気持ちになったことと通じるものがあるように思ってきました。

と・こ・ろ・が、最近のガーゼ交換は、引っ剥がさないどころか、交換もしないということです。

でも、生活歴聴取は従来どおりですよ。


正常から認知症への移り変わりー花の色は移りにけりな・・・

2008年04月17日 | 正常から認知症への移り変わり

庭のジャーマンアイリスが咲き始めました。ほんとに花は季節をたがえず(多少のずれはあっても)咲いてくれますね。
小野小町の和歌です。
「花の色は移りにけりな徒(いたずら)に我が身世にふるながめせしなに」
解釈は掛詞があって難しいですよね。
前の部分は、当時のことですから「花」は当然さくらですが、とにかく花が咲き盛りが過ぎてしまったということを意味しています。
考えてみれば、突然咲く花はありません。
「つぼみが芽を出し、膨らんで、その後にようやく花が咲く」という手順を踏んで咲きますね。庭のジャーマンアイリスを10日間写してみました。4月17日から27日まで。つぼみがちらりと見えたところから最初の花がしおれるまでです。

4月17日。このつぼみから、さて何色のジャーマンアイリスが咲くのでしょうか?

そう、ボケも突然ボケるわけではありません。
エイジングライフ研究所(二段階方式)では、ボケを軽度(小ボケ)・中度(中ボケ)・重度(大ボケ)と分類します。もちろんその順に推移していくのです。「何か変。だいぶ変。いよいよ変」「指示待ち人、言い訳のうまい幼稚園児、脳の寝たきり」
それではなにを持って分類するかというと、脳機能です。脳機能という物差しを当てると、簡単明瞭に分類が可能になります。

まずジャーマンアイリスの移り変わりを見てください。色や大きさを測定しなくても見ただけでその変化がよくわかります。しかも一日一日の変化の激しいこと!
4月20日
                       
4月22日

 4月25日

さて、ボケはどうでしょうか?
見ただけでその変化がよくわかるものでしょうか? 一日一日、この花のように開花に向けての直線的な変化があるはずもありません。
むしろ、変化をはっきり感じるときがあったり、前とちっとも変わってないと思ったり。
することは変なのに、言ってることはなんともなかったり。
ボケかどうかはっきりしない期間が大体5年くらいは続くものです。

花の場合はつぼみを見ればどのくらいで咲くかわかります。これは右脳の独擅場。
つぼみを計測して、形と色を客観的に数値化する必要はありません。円錐形のつぼみの直径や長さを測り、色は明度や彩度を厳密に言わなくても、「まだまだ」とか「もうすぐ」とかわかりますね。
慣れると、つぼみが色づいてくると花色の予測も立つようになります。

花の色や形が、開花の推移を正確に表して、そして私たちはその微妙な色の違いをキャッチすることができるのです。 だからこれから先の開花予想がつきます。
ジャーマンアイリスの推移はわかりやすいですが、ボケはなかなか。だから、脳機能というものさしを使うのです。

長年やってきていて体に染み付いたような行動には、ほとんど支障がありません「話す事だけ聞いていると、何も変じゃないし昔のままです」とは、家族の皆さんが口をそろえて言う言葉です。ずいぶん進んで中ボケの加減になっても、まだそういわれます。表面的に現れた行動や発言は、もちろん脳の働きの結果です。だから、ついだまされがちな表面的なものではなく、べースの脳機能を測るというのは、当然といえば当然のことですね。

いつも言うように、脳機能を測るのはその人を理解するための方策であって、評価することが目的ではないことは、私たちがテストをするときに心しなくてはいけないことですよ。
脳機能を知ったうえで、その人をよく観察すると、小ボケレベルではどういうことをし、中ボケになるとどう変化する。大ボケでないと起こらないことなどの整理ができてきます。
4月27日真ん中がしおれています。

それをコンピュータ処理したものが二段階方式の30項目問診票です。
次回から、問診票に入っていない,細かい症状の推移をお話していきましょう。
例えば、「家族の説明」「食事つくり」「洋服の着方」などに分けて、小ボケ・中ボケ・大ボケで、どのように変化していくのかを話します。
でも、「脳機能検査をする方が確実で役に立つ」ということは忘れないでください。

 

 



もう一度ー相貌失認

2008年04月09日 | 右脳の働き
相貌失認の話が続きますが、こういうことは珍しいということは忘れないでください。
でも、知識として知っておくことは必要でしょうし、何より右脳の機能がいろいろあることを実感してほしいので話しているのです。
今日咲いていた庭の花たちP1000008
エイジングライフ研究所が発足してから、全国の保健師さんから多くの相談事例が寄せられました。
そのほとんどが、見事に普通のボケ。
その他の中では、失語症が少し目立ちます。
それから神経症の傾向が強いタイプ。
側頭葉性健忘もたまにはあります。
器質障害は極端に少ないけれど、見つけた保健師さんもいます。
脳腫瘍も見つかりました。
知的障害もありました。
今までの相談事例中、数年前にたった1例、相貌失認のケースがありましたからその紹介をしておきましょう。P1000004_3

北海道M町Y川保健師さんからの事例です。
男性43歳
まずテスト結果。MMS成績は26/30でした。想起=0。低下順はOK。
前頭葉テストは立方体透視図の模写は完璧にできましたが、動物名想起は4個。
かなひろいテストは「忘れてしまった字があり、実施できず。ひらがなが読めない」との注釈があり未実施でした。
このように、かなひろいテストが実施できなければ不合格の扱いになります。
(もちろん練習問題を説明して理解できないときもテストは中止にして不合格の扱いになります)
結論的には、脳機能は前頭葉はうまく機能していないけれども、MMSは一応合格。
いわゆる小ボケ状態ということになります。
ただ注意が必要なのは、かなひろいテストが不合格になっている理由は、「ひらがなが読めない」ためだけではない可能性もあることです。P1000010
かなひろいテストが不合格であることははっきりしていますが、その理由としては実は二つ考えられます。
①ひらがなが読めないから、前頭葉機能はあるのに発揮できない
②ひらがなが読めない上に、それとは別に前頭葉機能もうまく機能できていない
①の場合でも②の場合でも、かなひろいテストは不合格になります。
前頭葉機能のうち、立方体透視図模写にかかわる機能は下図のようにOKです。Img
それならば①のケースだと言い切れるかというとそれは無理です。
「ひらがなが読めない」ということと「動物名想起が4個」ということは、脳機能から見て直接的には関係がありません。もし①ならば、なぜ動物名想起がたった4個にとどまっているかの説明ができなくなります。
前頭葉機能は、「感動」や「倫理観」のようにテスト評価しにくい領域もあり、もともと非常に多岐にわたります。
エイジングライフ研究所の二段階方式では、できるだけ簡便に、なおかつ補完的に前頭葉機能を捕捉するために三つのテストを組み合わせてあるのです。どのテストも、テストをする意味があることをもう一度認識しておいてくださいね。
今回のように、
  ・かなひろいテストが実施できない
  ・立方体透視図模写は可能
  ・動物名想起が極端にできない
という3テスト結果からは前頭葉機能そのものにも障害があることを推定しておいたほうがいいということになります。
生活実態は、同居の実母が4・5・6・7・8・11・13・17・22に丸をつけていました。
これは、脳機能が小ボケ状態である反映といえそうです。
脳機能=生活実態になりました。
P1000006 次は生活歴聴取です。小ボケになるような、ナイナイ尽くしの生活が何をきっかけにして始まったかを探らなくてはいけません。
でもその前に考慮すべき点があります。それは年齢です。
普通のボケ(アルツハイマー型認知症)の前提条件は「高齢者」です。
高齢者が何らかのきっかけでナイナイ尽くしの生活に入って脳の老化を加速させ次第にぼけていくというのがごく普通のボケです。
43歳というような若い人の場合は、「脳の老化が加速して~」といえるのはただひとつ、遺伝子異常が原因で起きる狭義のアルツハイマー病の発症しか考えられません。このときは生活ぶりとは無関係です。詳しくはマニュアルC30p参照。
最近の生活歴を詳しく聞いていくことで、判別するのです。
さてこのケースの場合ですが、以下のように書かれていました。青字は私のコメントです。
経過:
17歳のとき、交通事故で脳挫傷。(障害部位は?)
高校中退し農業手伝い。(はっきりした後遺症なければ前頭葉障害か?)
このころから金銭感覚がなく、お金を持っているだけ使ってしまったり、農薬をお金に変えてしまうなど問題行動があった。(まさに前頭葉障害!事故後から後遺症としての前頭葉機能障害があったということが判明)
33歳のとき、A県で仕事をするために転出(社会生活は困難なはず。どんな仕事か?単純労働?)
金銭管理は職場の人がしていた。(やはり前頭葉障害がある)
43歳のとき、A県のS病院に入院。交通事故らしいが詳細については本人もわからず。(やはり前頭葉障害がある)
3ヵ月後、M町に戻り脳外科受診。脳梗塞(右)と診断される。(事故で脳梗塞は考えにくいが・・・とにかく右脳に新しい病変があるということは確か)P1000007

症状:
本人の訴え

「物覚えが悪い。
分ではやろうと思っても中途半端になる。
やる気がないわけではない。
普通の人のように付き合えない。
みんなと同じことをしようと思ってもできない。
行動力が落ちて思うように動けない」

(これは前頭葉機能障害を自覚し社会生活が困難と表明している。
前頭葉機能だけが年齢を超えて低下した状態(小ボケ)の人が社会生活に支障を起こすのと同様)

母の訴え
「やる気がない。付いていて指示しないとすぐにやめて1日中寝ている。(前頭葉は脳の司令塔。小ボケの別名は指示待ち人)
お金に対する執着心が強く、家のお金を探して勝手に使うので家に一人にすることができない。(これも前頭葉がらみ?)

ここまでが前頭葉障害を家族が説明している部分です。続いて、

「ひらがなも忘れている。(もともとひらがなも読めないなら高校には入学できなかったはず。事故後読めなくなったのなら脳の器質障害を意味している。忘れているのではなく脳障害のため読めない。失読症
草取りをするようにいっても草と花の区別が付かず全部抜いてしまう 。(これは、中ボケの症状。脳機能と一致していない。ここからも脳機能障害を考慮すべき)
野菜の区別が付かなかったりする(相貌失認の野菜バージョン!「3/28右脳が壊れるということー相貌失認」も読んでください)

その他
「人の顔の区別が付かず、母親のことも『声でわかる』という。(相貌失認)
ひらがなを書いてくださいというと書けるが、読めない
(失読症)

右脳には「顔の認知」「形や字の認知」という機能があることと、そこに障害を受けたら、当然その機能が発揮できなくなって「相貌失認」や「失読症」を起こすと言うことを知っていさえすれば、A県での事故の時に右脳にダメージを受けたために、この不思議な症状が起きていることが理解できます。

ついでに、生活歴を聞き取る中で、高校生の時の事故の後遺症では前頭葉機能障害という後遺症をこうむったこともわかります。

P1000009_2この人は、一見したところ何の後遺症も無いように見えるのですが、じつは社会人として生きていくには大変困難な状態であることがわかりましたか?

大まかに言って、発症後半年までは脳機能が目覚しく改善していける時期です。その後1年くらいはまだ改善が続きます。
もちろん長期間にわたって改善できたという報告もありますが、その幅は小さくなります。

この人は受傷後まだ3ヶ月ですから改善は見込めますので、脳リハビリを勧めなくてはいけません。そして半年たった時点でできないことがあれば、それは後遺症として覚悟しなくてはいけないのです。

すべて治せるとか改善できるというのではありませんが、エイジングライフ研究所の二段階方式の手法を用いることによって、その人の置かれている状態をより深く理解することができます。
テスト結果と生活実態と生活歴聴取のすべてが、私たちの手法を支えます。

特に今回のように脳の器質障害を持つ人のテスト結果や訴えに対して、心を込めて聞き理解しようとする姿勢は、脳の神秘を知る扉だと私は思っています。


続々ー相貌失認

2008年04月05日 | 右脳の働き

みなさんは相貌失認の話を読んで、こんな世界があるのかとびっくりされたでしょう。
右脳には、日常的にはあまり気が付かれていない大切な機能が秘められているという意味で、相貌失認の紹介をしていますが、実際に相貌失認の人に出会う確率は、非常に小さいと思われます。一例で、学会発表されるくらいでしたから。
私は具体的には二人しか知りません。そのうちの一人が前に紹介した大学生です。

もう一人が、今日の方です。
77歳の男性。開業医をなさっていました。以下はご本人からの話の再現です。

「夜、ある会合から、車を運転して家に向かっていました。確かに家の近くまで帰ってきたのですが、不思議なことにどうしても家にたどり着けません。

四苦八苦した挙句に、敷地内にある大きな高い木が目に入ってようやくたどり着いたのです。そこまではよかったのです。続きがあって、なんと自分ちの車庫にバックで入れるのに、二度三度とぶつけてしまったのです。

その日は早々に寝て、翌朝になっても『なんだか変だから』受診したのです。何度となく来たことのあるこの病院の玄関に立ったときに、なんともいえない不思議な感覚が襲ってきました。
外来はどこ、トイレはどこ、検査はどこってわかってるはずなのに、だって何度も来たことがあるんですよ。まるで始めて来た建物のように、どこに何があるか何にもわからなかった・・・」

脳外科での精密検査の結果、右頭頂・側頭葉皮質下出血がわかり早速吸引術を受けました。手術は成功、経過も順調で機能検査のために私のところに見えました。(上記は初回検査のときの説明です)

手術は成功、経過も順調なうえここまでの説明ができて、もちろん体にマヒも無い状態ならば、普通の病院では機能検査は行いません。
できうる限りは機能検査というのが、病院の方針でしたから検査をしたのです。 3回分の検査をまとめたものがありますので見てください。

おなじみの立方体透視図模写です。
左空間失認があることがよくわかりますね。
5月8日はまったく描けません。
5月15日はまだまだ苦労しているのがよくわかります。
5月26日は一応完成しています。間違いなく回復はしてきていますが、実際は模写はとても大変で、立体視ができたような結果になっただけでした。

こうして検査をすることで、とくに「できない」結果がある場合には、そこから理解が深まっていく体験を何度も持ったものですが、このときも5月26日の検査の後で「実は、看護婦さんを覚えられなくて」と話が始まりました。最初は日常的に言われる程度の「人の顔がおぼえられない」状態かと思いましたが、話し振りが真剣で、なぜかどうしても区別が付かないと強調します。
相貌失認の可能性を頭に入れて、話を聞いていきました。

「主治医はわかります。問題は看護婦さん。ほんとに困るんですよね」
「家族は困りません」
例の写真テストをやりました。
有名人に関しては、大体判別が可能でしたが完璧ではありませんでした。
男女や老若もほとんど大丈夫。

退院前に言い出されたので、発病直後はもっと困っていたのかもわかりません。他の機能がどんどん改善してきましたから、相貌失認も改善してきた可能性は高いでしょう。
また、相貌失認の責任病巣は右後頭葉といわれています。この人は右頭頂・側頭葉皮質下出血ですから、少し場所が違うために軽症ですんだのかもわかりません。

例えドクターといえども脳機能障害に関しては素人に近いものがあることを、私はこのドクターから学びました。
入院時の玄関先での出来事は、右脳障害による「地誌的見当識障害」ですし、看護婦さんの顔が覚えられないのは「相貌失認」です。
ご自分におきた右脳障害後遺症を、「なぜか不思議なことがおきる」と捉えていました。


立方体透視図模写よりも簡単に実施できる検査があります。
線分二等分法といって、直線を提示して「真ん中と思うところに印をつけてください」といいます。
右のスライドの一番上の線が正確に二等分したものです。
それと比べると1回目は、左空間失認が、非常に大きかったことがよくわかります。
2度目と3度目は少し改善してきています。①は最初に自発的に印をつけてもらったもの、②は「それでいいですか?」と注意を促した後で再度付けた印。
3度目のほうがより中心よりですね。
4度目は約3ヵ月後ですが、中心点を越えて左に寄っています。
(皆さんも実験するとわかりますが、正常に脳が機能している私たちは半分のところに印をつけることができます。線分を二つ折りにしてみると、その正確さにびっくりします)

やや左寄りだということを指摘したら「左空間失認の傾向を持っていることを十分に承知しているため、失敗しないように意識的により左に印をつけた」と説明をしてくれました。
ということは、いまだに空間認識には支障が残っているということを意味します。
相貌失認については「患者さんの顔はやはりわかりにくい」といわれていました。

改善したとはいえ今後後遺症として残っていくという覚悟はいります。

皆さんがエイジングライフ研究所の二段階方式を実施するときも、検査をすることで、その人の今の状態を理解するのです。そして、生活改善指導をしますね。
よくなったにしろよくならなかったにしろ、本人の発言や家族の説明だけでなく再検査や再々検査が、その後の状態がどう推移したのかを把握するのにどうしても必要だということを、こういうケースを通じて理解してほしいと思います。


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