旅の目的は何?と自問してみると、いろいろ思い浮かびます。
海でも山でも景色を見るのは好き。特に満開の花に出会えると一期一会の気持ちが湧き上がってきます。
興味関心の持ち方が恥ずかしいほど広く浅いのです。大体何にぶつかっても楽しい時間を過ごすタイプで、事前学習もやる方だと思います。
ところが、旅先で誰かと親しくなると、その先の予定は全部キャンセルになってもその出会いこそ旅の醍醐味という気分になってしまうのです。
木曽町にも、思い浮かべると「お元気かな」と懐かしさが込み上げてくる人たちがいます。
いつものように、前泊で木曽町へ。宿に入る前にお寄りしたいところがありました。
木曽町の長福寺。辞去した夕方の一瞬に写すことができました。
もう15年くらい前になるでしょうか。講演の後、長福寺のお嬢さん(高校生?)が「心理職」について質問に来てくれました。認知症についての質問ならたくさん経験がありますが、こんなに若い方が来てくださっただけでも嬉しく、またまっすぐな生き方が感じられるような魅力的なお嬢さんでもあり、とても印象的な出会いでした。その時以来、時々は会ったり電話でおしゃべりしたり、賀状交換したりという交流が続いています。彼女は社会人として長野市在住ですから、せめてお寺に伺ってお母さまにお会いしようと思いました。
本堂を眺めながら長福寺檀信徒会館へ招かれました。
久しぶりのK沼さん。お茶のおもてなしを受けながら、お話が弾むこと…
エイジングライフ研究所は、お寺がかつて寺子屋として子供の教育を担ったように、この高齢社会ではお寺こそ高齢者に対して認知症予防の働きかけができるところだと思っています。その話の流れから写経についてお話ししてくださいました。「写経は皆さんいらっしゃるんですよ。それとは別にお檀家さんを中心に絵手紙教室も少し」
私「みなさんで集まって、楽しい時間をすごすことが認知症予防。絵手紙教室はきっと楽しい会だと思いますよ。色や形がテーマになるので右脳訓練ですね。ピリッとした言葉がいるでしょう?言葉は左脳」
K沼さん「みなさん楽しみにしていらっしゃるようです」
私「認知症予防なら、良いところを見つけて褒める。なんでも準備してあげてお客さま扱いをしない。例えば画材の用意はしてあげないほうがいい」
K沼さん「あ、やってます。作品を見ると褒めたくなります。それにご自分の描きたいものを持ってきていただいてます。
中学生にも教えています。中断もありましたが15年になるでしょうか。3年間続ける子もいたり、高校でも続けたり本当に嬉しい思いをさせてもらってます」
私「中学生と高齢者との交流はできないでしょうか」
思い出しても、楽しいエキサイティングな時間が過ぎていきました。
檀信徒会館の入り口です。縦横に立派な檜が使われて、心がスッキリする長福禅寺でした。
翌日の講演にも来てくださり、こんな素敵な袖カバーをいただきました。生地の選び方にセンスがひかり、縫製が素人離れしてました。
右脳が豊かなK沼さん、ありがとうございました。大切に使います!
名に違わず、まさに中山道に面した宿。以下はHPから。
「蔦屋は、江戸時代中期(元禄元年)に中山道・木曽路の宿場「福島宿」の旅籠として創業いたしました。
現在も変わらぬ場所で、木曽川沿いの露天風呂と地元素材の創作和食の心和む宿としてお客様をお迎えしております。
近年では、創業から守り抜く「おもてなしの心」と併せて、
四季を通じて美しい山々と江戸情緒が残る木曽路を歩く楽しさを提供しております。」
(最後の一文も泊まってみれば納得です。外国の方がたくさんというか外国の方のほうが多かったのです)
帳場の雰囲気を残したフロント。素晴らしい宿の看板を見ただけで、老舗の旅館ということはすぐに納得できました。箱階段も今に生かされていますね。
館内の設えも、古いものを上手に活かして、宿の長い歴史を感じさせるものでした。これは女将の心情が反映されていると見ましたが、いかが?
露天風呂からみた木曽川。玄関は中山道に面し、一番奥は木曽川に面している宿です。
食事処で目を引くディスプレイ発見。ここにも、おん宿蔦屋の姿勢が感じられます。
御岳山を写した木製盆の前菜から食事はスタートしました。「山型と言っても富士山ではありません。御岳です」という説明はちょっと誇らしげに聞こえ、微笑ましかったですよ。
地元素材を生かした少しずつのおかずは、朱塗りの器で供されました。たしかに健康志向です。完食の器の綺麗なこと。
馬刺しと淡水魚のお刺身。包丁さばきが綺麗でした。馬刺しのつけ醤油も「私たちが試行錯誤して決めたんです」って。
陶版焼きの蓋を取るタイミングがちょうどぴったり。それに蓋の取り方が機械的でない。この時もスタッフの心配りが実感されました。
トロロ汁の絶妙な味付けと器。味噌汁の具の多いこと。
お肉料理は豚肉のしゃぶしゃぶ。
前日の夕食が、やはり豚肉のしゃぶしゃぶ。こだわりがある店だったので、夫がいろいろと担当の方に説明していました。
「今はお忙しいんだから」と私が制するほどでしたが、「いえいえ。大丈夫ですよ!」と笑顔で確かに興味があるという対応をしてくださいました。
お料理の説明にも心がこもっていて、そのおかげで珍しいことに夫も真剣に耳を傾けています。
さて、翌日の朝食。
テーブルの上の一合枡にサンキューカードらしきものが。
「ああ昨日の担当の方。サンキューカードを下さって…お忙しいでしょうに」と思ったのですが、裏面にメッセージを書き添えてくださっていました。
通り一遍でないこの文面にびっくりするやら感激するやら。
「友人たちにも教えてあげたい。料理も温泉も風情も全部素敵だけど、一番のおすすめ点は『スタッフの皆さんが持っているもてなす心を感じられること』という言葉を添えて。本当にまた伺いたいです」
「友人たちにも教えてあげたい。料理も温泉も風情も全部素敵だけど、一番のおすすめ点は『スタッフの皆さんが持っているもてなす心を感じられること』という言葉を添えて。本当にまた伺いたいです」
講演会場の木曽町文化交流センターまで中山道を横切って1分という理由で選んだ宿でしたが、とんでもない拾い物をした気分です。
ありがとうございました。
by 高槻絹子