昨年10月、義母が亡くなりましたので、喪中の気持ちで年賀状を失礼しておりましたが、それでもいただいた年賀状を読むのは心躍るものですね。
一番うれしかった年賀状のご紹介をしましょう。
ある町の保健師さんからいただきました。
「8月に受けた胃がんの手術をきっかけに、小ボケになってしまった義父でしたが、何とか元の状態に戻り、元気で一人暮らしができるまでに回復しました(83歳です)
エイジングライフ研究所の二段階方式を学んでいてほんとうによかったです」
この文章を読んだだけでは、多くの疑問符が湧いてくるでしょう。でも私にはよくわかります。少し読み解いていってみましょうか。
まず大前提として、「元の状態」は「元気に一人暮らしをしていた」というところから始まります。
83歳の男性が「元気に一人暮らしができる」としたら、男性ながら交友関係が豊かなはずです。家族との触れ合いかもしれませんし、世話役・リーダーのような形かもわかりません。趣味などの楽しみを通じて、単純に友人がたくさんいるのかもしれません。
いずれにしても、人とのかかわりなしに高齢期を「元気に(ということは楽しく)」暮らすことはできないからです。
男性には珍しく、生活能力が高かったのですね。
日常生活をこなしていくときには、さまざまな状況に臨機応変に対応することが必要になってきます。
たまに料理をすることと、継続的に料理をすることは、気の配り方がちょっと違うのです。
たまならば、そのときの献立の事だけを考えれば済みます。
毎日のことになると、その日の体調、気候、冷蔵庫の残り物、財布との相談などなど条件が押し寄せてきます。
それだけではありません。
継続的に料理をするときには健康や栄養の知識も多少は必要です。
家事は天気にも合わせなくてはいけません。もちろん自分の気分にも!
今しなくてはいけないこと、今日すること、この季節にしておくべきこと、今年中に片づけること・・・物事に順番を付けなくてはいけません。そして放り出すことなしにやり遂げていかないと生活は回りません。
この様に83歳の男性がどのように生活しているかを具体的に想像していくのです。
一人暮らしができているということは、まず意欲を持っていて、その場その場の状況判断もでき、見通しも立ち、行動にもつなげられているということです。
これらのすべてが脳の司令塔である前頭葉の機能です。つまり素晴らしく前頭葉が働いてくれていることがわかりますね。
前提として、いつも気にかけてくれるお嫁さん(保健師さん)の存在を忘れてはいけません。
気を付けてみてあげる目がないと、生活の細部を見ないままに「一人暮らしができている」と言ってしまうこともありますから。「中ボケ(生活遂行能力は幼児なみ)」でも、「一人暮らし」している人もいます。→このことはまた詳しく書きましょう。
そんなにいきいきしていたのに、胃がん発覚。
このハガキからは、病気の経過はわかりません。
体調が悪い期間があったとしたら、そのあたりから、脳の老化は加速され始めます。
今までのように意欲的な生活ができなくなっていくので、前頭葉の出番が少なくなるからです。
検診で見つかった場合などのように、急に入院する場合もありますね。
それでも、検査や手術などが続けば心身ともに負担は大きく、安静のまま時間が過ぎて行ったことでしょう。
「一人暮らし」でなら使う脳も、入院中ならば使う場面がありません。足腰も衰えたことはすぐに想像できますね。
一般的に言って、元気な状態で入院しても3か月絶対安静(前頭葉の出番がなくなる)が続くと前頭葉機能が万全でなくなります。脳の機能は前頭葉から老化が加速されるのです。
意欲がない、状況判断がおかしい、同じことを何度も言ったり、つじつまの合わないことを主張したりすることもあります。これが小ボケ。
「何とか元の状態に戻り」
ここが一番関心があるところだと思います。
ところが、私は、一緒に暮らしていませんしそばで見てもいませんから、具体的には説明できません。
ただ、「脳も体と全く同じように、使わなければ老化が加速する。」というのがエイジングライフ研究所二段階方式の主張です。
前頭葉を使わない期間があったから、前頭葉の老化が加速され、小ボケの状態になった。
それならば、前頭葉の出番を増やす!
退院後、きっとお嫁さん(保健師さん)は話しかけたことと思います。
「おとうさん。できることはなんでしょうね。まず散歩を少しずつはじめてくださいね。足腰も元に戻るけど、歩くときには脳が歩かせてるんだから脳も元気になります。
炊事は?ごはんは炊けるかしら?おかずは最初は持っていくけど、少しずつ作ってね。何なら作れそうですか?味噌汁は?煮物は?(この辺はより具体的に)」
さらに生活を元に戻すようにも働きかけたと思います。
「家庭の中だけでなく、友達に来てもらったり出かけたり。元のようにしましょう。」
手伝ったリ、励ましたり。
何しろ司令塔である前頭葉が元気をなくしていますから、ちょっと背中を押してあげないと、何もできないのですよ、小ボケの人は。
もちろん、「言う」ことは簡単です。
けれども、お父さんの気持ちに届くためには「ことば」だけでは足りない・・・
その「気持ち」を伝えなくてはいけないのですが、ここに問題が一つあります。
その「気持ち」のキャッチボールがどうしてもできない、もともとの関係性に問題がある場合もよくあるのです。どちらが悪いとも断言しにくい(あえて言うならスタート時には高齢者の方に問題があることが多いでしょうか)そのような時には、なかなか回復に結びつかないのです。
今回の場合は、その問題がないからこそ半年で元に戻ったと書かれているのですね。たった4行の文章から、魅力的なお父さんの姿、温かみのある家庭の様子、様々のことを思い浮かべました。