脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

かくしゃくヒント3ー1日10回感動する

2010年06月26日 | かくしゃくヒント

もう6月も終わり。あっという間に今年も半年が過ぎてしまいます!
歳をとるとともに、「時が早く流れる」と良くいわれます。
最近はネットを使う人も多いので、試しに「歳とともに時が早く流れる」とでもいれて検索してみてください。
わかりやすい言葉でいろいろな意見が書かれています。
先日上京した時の写真 (国立小劇場で文楽を!)

一番引用されているのはジャネの法則でしょう。
「時間の心理的長さは、生きてきた年齢に反比例する」
1歳児の1年は、10歳児なら1/10年だし、60歳なら1/60年に相当するということです。
その理由を
「子どもの毎日の生活は、新しい経験の連続で興味津津、小さな感動や驚きも多く充実している(から長い)。大人になると、生活の多くの時間は経験によって習慣化され、新しい経験が少なくなり、当然感動も減少する(から短い)」とするのが多いようです。

石原慎太郎の解説として

「時間の流れの速さに違いがあるはずがない。1時間は1時間、1年はあくまでも1年。つまり、時はいつも同じ速度で流れている川のようなものだが、その川のほとりを流れに沿って歩いていく人間の歩みの速度は、歳とともに肉体が老化してだんだん遅くなっていく。
遅くなっていく歩みの速度と川の流れの速度の相対的な差からして、
同じように歩いているつもりの人間にとっては、川の流れがにわかに速くなったような気がするのだ」
というのもありました。

心拍数から説明してあるのもあります。
いずれにしても、歳をとるとともに一年が早く過ぎる実感は皆さん共通でしょう。

今日のかくしゃくヒントは、加藤シヅエさんが、満100歳の時、目黒のお宅にお邪魔して直接伺ったことです。(脳機能検査をさせていただきにあがりました。) 雑談になって「月並みですが、かくしゃくでいらっしゃる秘訣を伺わせてください」とお願いすると、間髪をいれずに
「感動することですね。私は一日10回感動するようにしています。もちろん意識的に感動の種を見つけるのですよ!」


加藤さんのお話を聞きながら、つい30分前、検査の前にご挨拶をした時のことを思い出していました。
その日、手土産にマスクメロンと家庭菜園で当日の朝収穫したトマト、キューリ、ナスを少々お持ちしていました。
お土産を差し上げると、メロンはすぐに下げさせて、他の野菜をテレビの上に並べさせました。

「こんなに新鮮な野菜にはなかなかお目にかかれません。なんて素敵な色でしょう!ツヤツヤ輝いていてなんともいえませんね!飾っておきたいし、食べても見たいし…困ってしまいますね」と笑われました。
その時のお声は確かに、素人作りの朝どり野菜に感動していらっしゃいました。お話は続きます。


「年をとると、どうしても活動範囲が狭くなりますね。私はテレビは年寄りの味方だと思っているんですよ。深海の底、宇宙の果てまで、臨場感を持ってみることができますから。心がワクワクしますよね。
それからニュース。
ニュースは現役のつもりで見ることにしています。感動的なニュースだとお手紙を差し上げたりもします。幸いいろんなところに行き、いろんなことに首を突っ込みましたから、感動も他の方よりもしやすいかもわかりません」

加藤さんは日本で初めての女性国会議員になられた方ですが、「加藤さんのピンクレター」と言って、国会議員に激励や叱責の手紙を出されることがあることも、その時に初めて伺いました。

今日のかくしゃくヒントはいかがですか?
子どもは感動の塊。何にでも感動できます。
加藤さんは「積極的、意識的に感動の種を見つける」と言われました。充実した時間を作り出す生き方の重要性を強調なさったのだと思います。
加藤さんのテスト結果。満100歳ですよ(フロク)


改善と見るか・低下と見るか(続)

2010年06月07日 | 二段階方式って?

毎年この時期開かれる「伊東祐親まつり」では、町中に流れる松川に舞台を作って、薪能や伝統芸能が演じられます。初めて行ってきました。
開演前の準備2010053017320000

うしろの建物は東海館という、元旅館だった木造三階建ての古い建物を伊東市の文化財として保存しているものです。

川のこちら岸に仮設の桟敷があってそこから見学します。
夕方からでしたから、かがり火をたいてなかなか風情がありました。
ちょっと寒かったのですが、なかなか見ごたえがあって、何でも体験してみるものだと改めて思いました。

さて今日は前回のケースをもう少し深く考えてみたいと思います。(私の発言を青字で表記します)
解説をした後で
「テスターや教室のスタッフは、この方が悪くなってると思ってないでしょ?むしろはっきり改善例と思ってるはずですよ。それは想起が満点、そして実力から言えばMMSが満点に近いところまで改善したという事実から言ってるのです。
前頭葉機能も改善していますね。
このくらい改善すれば、例えば、笑顔が増え表情が豊か。反応が早くなって、ノリがよくなった。教室を楽しむことができるようになった。おしゃれになったり派手目な洋服を着るようになったりする人もいますよ」
と続けました。      伊東太鼓2010053017530000

S保健師さんは
「確かに生活実態は悪くないというよりも、よくなってるというか・・・」

「そうですよね。質問にも『自宅での役割も継続でき、老人会やクラブにも参加しているし、意欲が低下したわけではないので、MMSの得点が低下したことに疑問が生じた』って書いてありましたよね。MMSの得点が低下した理由は?」

「テスターのやり方がちょっと悪く、実力を反映させられなかったということですね」

「その通りです。テストをする人は、点数を測定するというのではなくその人の脳機能を知るという気持ちが大切です。生活実態を知るために脳機能を知る必要があるからです。
さて、この方は脳機能が改善しました。
ということは、21年10月から今回の検査日まで、この方は生活していくうえで脳の使い方が変わったということです。よりよい使い方ができたということですが、何がその変化を生んだのでしょうか?」

「認知症予防教室に行ったこと?」

「その通りだと思いますが、確信が持てないなら去年から今年にかけてどのように生活が変わったのか、変わらなければもっと脳機能は低下しているのですから、必ず変化があると思って生活の変化を確認すればいいのです。教室以外にないと思いますよ」

「教室でよくなったんですね!」とようやく自信が持てた口調になりました。
伊東大田楽2010053018420000 2010053018340000

こういうやり取りを通じて、保健師さんたちが脳の使い方次第で、老化が早まったり、それが改善したりすることを実感してくださるだろうと、うれしくなります。それも、脳機能テストを通して理解できるのですから!

「ところで、去年の10月の一回目の検査の時、結果から脳が老化を加速させたきっかけはいつごろと推定しますか?」

「2~3年前です」

「そうですね。『21年4月に原付バイクをとりあげられ行動範囲が狭くなった』という生活上の変化が書いてありましたが、それはすでに小ボケになっていたという証拠ですから、きっかけそのものはもっと前、19年の春ごろでしょうか。もう少し聞いてみたらいいでしょう」
(後で気づきました。19年5月に『夫が亡くなる』との記載がありました)

「今回の成績から言うと、もちろん実力ですよ。そうするとMMS≒29点、かなひろいテスト不合格ですから、きっかけは?」

「そうか!1年以内になってしまう・・・」
日舞も2010053020030000

「今回のように教室の前後で比較するときには、一回目のテストの時に、脳機能低下のきっかけをよく聞いておかなければ、真相がわからなくなってしまいますよ。そしてきちんと生活改善指導しなくてはいけません。教室参加の意義を伝えることにもなります。

そのための検査です。

教室がうまく作用すると、今回のように脳機能は変化しますから」


改善とみるか・低下と見るか

2010年06月06日 | これって認知症?特殊なタイプ

質問が来ましたので、皆さんも考えてみてください。
Img_0003_2

脳機能テスト結果は
H21.10 :MMS: 25/30(計算-3・想起-2)
       かなひろいテスト:正答数=0 内容=不可
       立方体模写=不可
H22.4:MMS: 23/30
      かなひろいテスト:正答数=0 内容=完璧
      立方体模写=可

Img_0002

今日は岩月先生が花のPhoto写真を送ってくださったのでご紹介します。

二枚目を読むと、MMSの低下順のおかしさに気付いていますね。
何しろ想起3/3ですよ。
それなのに時 3/5。
正常な老化や、単純な老化の加速ではないことになります。ここが一番おかしいことがわかりますか?

想起が満点の場合は、低下してもおかしくない下位項目は「計算」だけです。(例外的に「三段階口頭命令」で「机上」があります。MMS=29点で出現率7%)
もしこれが実力だとしたら、どう予測を立てていくことになるのでしょうか。Img_0001

質問された方は
「A4版用紙を左側しか使ってない→右側が見えてない→左脳の障害。計算も1/5だし。
ついでに立方体模写=可なので右脳はOK」と推理しました。

A4版用紙の使い方に注目したことは良いことですが、「左側しか使わない」と考える場合は、ほんとに左だけにしか描いてなくて、このように真ん中の立方体・右上の日付がかかれることはありません。

また、左脳障害を考える場合には、テスト項目からだけでなく、検査中の応答まで含めて言語の障害はないのかどうかを考慮しなくてはいけません。

以下の説明はちょっと難しいのですが、頑張って読んでみてください。
脳が見るとき、左視野のものは目に入った時は右側に入ります。
そして左眼の右視野(に入った現実の左視野)の情報と右目の右視野(に入った現実の左視野)の情報は「視交叉」というメカニズムを経て右後頭葉視覚野に到達するのです。つまり今見ている左視野の情報はすべて右後頭葉視覚野に入るということです。
(右視野の情報は、左後頭葉視覚野に入ることになります)Photo

図形を処理するのは、右脳の分担ですから右脳に入った情報の方が処理されにくいのです。右脳障害の時に左半側空間無視はよく見られる後遺症です。(左脳障害の時に右半側空間無視が起きることはとても珍しいです)
古くなりますが、2008年3月14日から「右脳障害後遺症ー右脳が壊れるということ」として続けてブログに書いてありますから、興味がある人は再読してみてください。

MMS下位項目の低下順がおかしい時は、脳の老化が加速されたものではないという観点から解釈していきます。なぜ「時」が3点になるのか?ここが突破口になります。
マニュアルA44Pに解説してあるように、「時」が想定外の低下を起こす時には①心理的な要因は考えられないか(神経症のような場合も含めて)②失語症はないか、この二点の可能性を考えます。
A4版用紙の使い方にはちょっと変わったところが見受けられますが(書き順)、それが神経症レベルまでとは考えにくいでしょう。
失語症もなさそうです。Photo_2

1/20のブログ「テストができないということは・・・」に書いたように、正答でなかった場合には、その理由を考えなくてはいけません。
①テスターが悪い
②テスティーの前頭葉が悪い
③テスティーの脳機能に問題がある
④神経症レベル

①か②か・・・
今回のテスト結果をよく見てみるとテスト実施日は22年4月12日だったのですが、「4月17日?」「平成なんか気にしてない」ということで「時」が3/5になったのです。A4版もかなひろいテスト用紙も30項目質問票までもすべて22年4月12日と書かれています。
「時の見当識」がわからないのではなく、ちょっとあいまいにはなっているが、前頭葉が集中を掛けると正答できるレベルということです。限りなく5点に近いということになります

上記の理由②に相当するわけですね。

テスターが、MMSの下位項目の低下順を知っていれば、もう少し丁寧に「時」を尋ねることができたでしょう。Photo_4

二段階方式では、正確に検査をするように皆さんに伝えますが、「正確」というのはその人の本当の実力を知ってあげるという意味です。
今回はより良い点数が実力であったと思いますが、よりよく見てあげなさいというのではありません。

「時の見当識」はどういう風に認識されて生活しているのかを知るために、私たちは検査をするのです。

さてこの方は、前回の検査がMMS=27点、今回がMMS=22点ということで低下と判定することになりますが、「時の見当識」を実力レベルで判定したら限りなく5点になり、そうすると模写のみ減点のMMS=29点。
これではMMS下位項目低下順がおかしいことになりますが、質問にも書かれていたように、一方が六角形で立方体模写ができるという状態なら再挑戦で合格は間違いないでしょう。
つまりこの方のMMS得点は、満点に近いということになります。Img

左が前回のA4版用紙です。
立方体を比較してみてください。
単に「不可」が「可」になったというだけではなく、形も線もきれいになったこと、図形のサイズが大きくなったことまで含めて改善と理解するのです。

前述してありますが、かなひろいテストは前回も今回も正答数=0でした。
内容把握を見てみると前回は「おじいさんとおばあさん・・・・」だったのに対して、今回はパーフェクト!

実態はみごとな改善例ということになりました。
S田さん、よかったですね!(この項続きます) 


 


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