題に「続―典型的な小ボケ」と書きました。多くの軽度認知症(小ボケ)の方とお話しすると、私はそのたびに「うわっ。この方も典型的!」と思えるのです。
人は、何かの目的をもってその人らしく生きていっています。その目的は本当にさまざまなものですね。生きる目的が仕事ということはとてもわかりやすいです。その仕事だって家族のための意味合いが強い場合もあるでしょう。
第二の人生に入って、ボランティアや趣味が生きがいの場合もあります。
軽度認知症(小ボケ)になったということを整理してみます。
1.脳機能。脳機能が教えてくれます。(前頭葉の機能低下がはっきりしています)
2.生活実態。その状態だと生活上に起きるトラブルを本人が自覚しています。
3.生活歴。軽度認知症(小ボケ)になったということは、その人らしいイキイキとした生活がなくなって、1~3年くらい経過していることが想定されます。
3に「その人らしいイキイキした生活」と書きましたが、ここが最も大切なところです。あくまでも「その人」が「その人らしく生きているかどうか」なのです。
はたから見て、「なかなかよく生きている」と評価してあげても、本人が「こんなはずではない」とか「あれができないなんて」とか「こんなことをやったって、やったうちには入らない」というような自己評価があれば「イキイキとした生活」ではないのです。
「あのことが気がかりで、何をやっても上の空(この時、周りの人は以前と同じように生活しているとみています)」という場合もあります。
生きる目標を、きちんと掲げて人は生きていくものだということを、私は小ボケの人たちから教えてもらったような気がします。
もちろん、例えば定年退職や身体の不調などのように、否応もなく現在ただ今の目標を取り上げられることもありますが、多くの人たちは、また新しい目標を設定しなおして「自分らしい」人生を生きるように舵を切ります。
そうなのです。軽度認知症(小ボケ)の人たちにはその「生きる目標が、自分で感じられなくなっている」という共通点があります。
81歳の女性の方。(平成23年10月実施)
脳機能の結果です。前頭葉テストは、立方体の模写はきれいに描けましたが、動物名想起は一分間に6個のみ。かなひろいテストも内容把握に失敗と前頭葉機能低下ははっきりしています。
脳の後半領域のテストであるMMSの結果は想起のみできず27/30。
これはまさに軽度認知症(小ボケ)の脳機能です。
生活実態も、小ボケの症状1~10のうち、4・10以外のすべてに本人が当てはまると丸をつけています。
脳機能と生活実態がともに軽度認知症(小ボケ)だということになりました。
次は、ここ3年間この人らしいイキイキとした生活がなかったということを確認しさえすれば、いいのです。
まずは、そのいきいきとした生活を失うことになったきっかけを聴き取っていかなくてはいけません。
平成21年5月。10年来の膝痛が耐えられなくなって手術。手術ミスでもあって予後が悪くなったというのならばこれはきっかけになりうるわけですが。
むしろ逆でしょう。確認したら日常生活にさし障るほどの痛みがなくなったとのこと。
そうするとこれはイキイキとした生活がなくなるきっかけにはならないけど・・・
実は膝の手術のための入院中、心臓病が見つかりペースメーカーを埋め込む手術をしたのだそうです。
このように心臓の病気をした場合、ドクターがいくら「普通の生活が可能だ」と説得しても、おそるおそるということになって「イキイキとした生活」を失ってしまう方はとても多いです。
もちろん、水を得た魚のように生き生きと人生を楽しめる方もいらっしゃいますが。
だから「きっかけ」を聞いて安心するのではなく、その「きっかけ」の後生活がどうのように変わったかを聞きとらなくてはいけないのです。
横浜夜景
この方の場合は、平成16年5月に夫が亡くなった後も農業を一手にひきうけてやってきたのですが、草刈り機の振動がペースメーカーに悪影響を及ぼすからとドクターストップがかけられてしまいました。
農作業にはどうしても草刈り機が必要ということで、結局仕事(農作業)を止めることになってしまいました。自家用野菜は作っていたのですが、そのことくらいではこの人の生きる目標にはならなかったということですね。
次第に元気を失っていったところに、平成23年2月に実家の甥の急死という事件が起こりました。
よく逆縁といいますね。子どもや孫の死は、「イキイキとした生活」を失うきっかけになりますが、例えば実の兄弟姉妹でも年上の場合は、きっかけになることはあまりありません。妹や弟はショックが大きいですが。(勿論兄や姉でも関係性が深ければ深いほどショックが大きくなります)
まして甥?
疑問に思ったら尋ねてみるのです。
実家の跡取りだった実兄とは年が離れていて、その10歳年下の甥とはほとんど姉、弟のようにして育ったとのこと。その甥が急性白血病で闘病1カ月という短期間に亡くなってしまった・・・
その寂しさや切なさはとっても納得できますね。
検査結果の脳機能は3年間くらいの「ナイナイ尽くしの生活」を示唆していました。
「心臓病の手術+仕事をやめる」というきっかけから2年半。そして半年前の甥の急死というマイナス要因が加味されて脳機能の老化が加速されたとしたら、まさに脳機能=生活実態=生活歴といえます。
つまり典型的なのです。