脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

続ー典型的な小ボケ

2012年01月28日 | 二段階方式って?

題に「続―典型的な小ボケ」と書きました。多くの軽度認知症(小ボケ)の方とお話しすると、私はそのたびに「うわっ。この方も典型的!」と思えるのです。

人は、何かの目的をもってその人らしく生きていっています。その目的は本当にさまざまなものですね。生きる目的が仕事ということはとてもわかりやすいです。その仕事だって家族のための意味合いが強い場合もあるでしょう。
第二の人生に入って、ボランティアや趣味が生きがいの場合もあります。

横浜みなとみらいコスモクロック(大観覧車)から2012_0105_143100p1000039

軽度認知症(小ボケ)になったということを整理してみます。
1.脳機能。脳機能が教えてくれます。(前頭葉の機能低下がはっきりしています)

2.生活実態。その状態だと生活上に起きるトラブルを本人が自覚しています。

3.生活歴。軽度認知症(小ボケ)になったということは、その人らしいイキイキとした生活がなくなって、1~3年くらい経過していることが想定されます。

3に「その人らしいイキイキした生活」と書きましたが、ここが最も大切なところです。あくまでも「その人」が「その人らしく生きているかどうか」なのです。
はたから見て、「なかなかよく生きている」と評価してあげても、本人が「こんなはずではない」とか「あれができないなんて」とか「こんなことをやったって、やったうちには入らない」というような自己評価があれば「イキイキとした生活」ではないのです。

「あのことが気がかりで、何をやっても上の空(この時、周りの人は以前と同じように生活しているとみています)」という場合もあります。

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生きる目標を、きちんと掲げて人は生きていくものだということを、私は小ボケの人たちから教えてもらったような気がします。

もちろん、例えば定年退職や身体の不調などのように、否応もなく現在ただ今の目標を取り上げられることもありますが、多くの人たちは、また新しい目標を設定しなおして「自分らしい」人生を生きるように舵を切ります。

そうなのです。軽度認知症(小ボケ)の人たちにはその「生きる目標が、自分で感じられなくなっている」という共通点があります。

81歳の女性の方。(平成23年10月実施)
脳機能の結果です。前頭葉テストは、立方体の模写はきれいに描けましたが、動物名想起は一分間に6個のみ。かなひろいテストも内容把握に失敗と前頭葉機能低下ははっきりしています。
脳の後半領域のテストであるMMSの結果は想起のみできず27/30。
これはまさに軽度認知症(小ボケ)の脳機能です。

生活実態も、小ボケの症状1~10のうち、4・10以外のすべてに本人が当てはまると丸をつけています。

2012_0105_143200p1000040 脳機能と生活実態がともに軽度認知症(小ボケ)だということになりました。
次は、ここ3年間この人らしいイキイキとした生活がなかったということを確認しさえすれば、いいのです。
まずは、そのいきいきとした生活を失うことになったきっかけを聴き取っていかなくてはいけません。

平成21年5月。10年来の膝痛が耐えられなくなって手術。手術ミスでもあって予後が悪くなったというのならばこれはきっかけになりうるわけですが。
むしろ逆でしょう。確認したら日常生活にさし障るほどの痛みがなくなったとのこと。
そうするとこれはイキイキとした生活がなくなるきっかけにはならないけど・・・
実は膝の手術のための入院中、心臓病が見つかりペースメーカーを埋め込む手術をしたのだそうです2012_0105_143400p1000042

このように心臓の病気をした場合、ドクターがいくら「普通の生活が可能だ」と説得しても、おそるおそるということになって「イキイキとした生活」を失ってしまう方はとても多いです。
もちろん、水を得た魚のように生き生きと人生を楽しめる方もいらっしゃいますが。

だから「きっかけ」を聞いて安心するのではなく、その「きっかけ」の後生活がどうのように変わったかを聞きとらなくてはいけないのです。

横浜夜景2012_0105_173500p1000045

この方の場合は、平成165月に夫が亡くなった後も農業を一手にひきうけてやってきたのですが、草刈り機の振動がペースメーカーに悪影響を及ぼすからとドクターストップがかけられてしまいました。
農作業にはどうしても草刈り機が必要ということで、結局仕事(農作業)を止めることになってしまいました。自家用野菜は作っていたのですが、そのことくらいではこの人の生きる目標にはならなかったということですね。

次第に元気を失っていったところに、平成232月に実家の甥の急死という事件が起こりました。
よく逆縁といいますね。子どもや孫の死は、「イキイキとした生活」を失うきっかけになりますが、例えば実の兄弟姉妹でも年上の場合は、きっかけになることはあまりありません。妹や弟はショックが大きいですが。(勿論兄や姉でも関係性が深ければ深いほどショックが大きくなります)

まして甥?
疑問に思ったら尋ねてみるのです。

実家の跡取りだった実兄とは年が離れていて、その10歳年下の甥とはほとんど姉、弟のようにして育ったとのこと。その甥が急性白血病で闘病1カ月という短期間に亡くなってしまった・・・
その寂しさや切なさはとっても納得できますね。2012_0105_201900p1000050

検査結果の脳機能は3年間くらいの「ナイナイ尽くしの生活」を示唆していました。

「心臓病の手術+仕事をやめる」というきっかけから2年半。そして半年前の甥の急死というマイナス要因が加味されて脳機能の老化が加速されたとしたら、まさに脳機能=生活実態=生活歴といえます。

つまり典型的なのです。


会話の中から小ボケを見つける

2012年01月25日 | 二段階方式って?

友人と普通におしゃべりをしていると、そのうちに話題がご両親や舅姑の話になって行くことがよくあります。そのような時に
「あっ、それ、小ボケだけど・・・」と思うことがなんと多いことか!
高校の同期会で上京。冬景色の日比谷公園

2012_0123_113900p1000069 最近気づくことは、その出来事(まさに小ボケの症状)に対して
「そうなの、ボケてきちゃっててね」と言いきってしまう人がけっこう多いことです。
ちょっと前なら
「こんなことはあるけど、ボケてるわけじゃないの」という方が多かったと思います。

ただ、問題は口では「ボケてる」と言いながら、緊迫感がないことです。
その理由をいろいろ考えてみるのですが、一番の要因は「ボケ」とか「認知症」という言葉自体を口にするのもはばかられる時代がそろそろ終わろうとしているのではないかということです。
さまざまなキャンペーンが、それなりに功を奏してきているのかなと思います。

もう重度に入ってしまった大ボケの典型的な症状、
  失見当識 ・今が昼か夜か分からない→夜中に騒ぐ
         ・ここがどこかわからない→徘徊
         ・人がわからない→家族もわからない

  激しい記銘力障害(ご飯をもらってない)

  不潔行為・粗暴行為
などなどが見られなければ、ボケとは言えなかった時よりはずいぶん楽になってきているといえますね。
もちろんこれには地域性もあるでしょうし、世の中の動きに先立って私の周りに起きていることかもわかりませんが。2012_0123_113600p1000068

さてどんな時に
「あっ、小ボケ!」と思うか並べてみましょうか。

・「実家の母の様子を見に帰るんだけど、必ず喧嘩になってしまうの」

・「やたらと鍋を焦がしてね」

・「冷蔵庫がパンパンでね」

・「料理は作ってくれるけど、不思議なほど手際が悪くて」

・「食事の時にびっくりしたの。お行儀が悪くなっていて。寄せ箸とかねぶり箸とか」

・「どうも、いつもやってた振込なのにトラブルを繰り返してるみたい」

・「もっともらしい理由は言うけど、あれもこれもやらなくなった」

・「会話についてこられないみたいで、突然違うことを話し始めるのが目立つの」

・「食事がすむと、以前のようにおしゃべりをしないですぐに自室に引っ込むようになったの。行って見るとたいがい寝てる」

・「とにかくよく寝てる。テレビ見ながら、新聞読みながら。言うと寝てない!って答えるけどね」

・「仕事が中途半端。やりかけのことばかりが多い」

・「なんだか、部屋の片づけが方が前と違っていて、整理ができてないというか・・・」

・「おしゃれだったのに、構わないのよね」2012_0123_113500p1000067

これらはみんな前頭葉の機能障害、小ボケの症状です。

口々にこのように気づいていることを言いたてながら、そして
「ちょっとボケが来てるのよ」と言いながら、その実、切迫感はないのです。

その時に
「そうね。ちょっと脳の老化が早まってるみたいね」と答えるとそこで二通りの反応に分かれます。

1.「それでも、こんなことが言えるのだから大したことはない」
2.「えっ、やっぱりこれってボケなの」

どちらかと言えば、1の方が多いと思います。
ボケや認知症という言葉を口にすることはできるけれども、頭の中のイメージはあくまでも従来の大ボケ(重度認知症)の症状こそがボケと思っているのですね。
そのような時には
「話すことではなく、やっていることを見てください。やっていることこそが現在の脳の能力なんですから。話す力はとても、持ちます。ことばを聞いているとまるで以前と同じに思えるんですが、やっていることは、以前と比較したらびっくりすることばかりです」               

続けてこういいます。
「三年にはなってないと思いますが、その方の生活が大きく変わってしまうことがあったはずですが、それは何ですか?(絶対にあるという前提で聞きます)」

こういう訴えをする2012_0123_113400p1000066場合、それがあるんですよね!
「そういえば、1年前or2年前or3年前に・・・・」
・「配偶者を亡くしました」

・「心臓発作を起こしてしまったんです」

・「仕事を退いた」

・「孫が手離れた」

・「心配事が起きた」

・「足腰が不自由になった(そのため~ができなくなった)」

・「親しかった友達が亡くなって話し相手がいなくなった」

大切な作業がもう一つ残っています。
「そのことがあってから、その方の生活が大きく変わってしまって、それまでのような生活ができなくなったんですよね。楽しみも変化もない、淡々とした生活になったんでしょ」という確認です。
「その通り」という回答をもらってから、
「身体と同じようにただでも老化していく宿命のある脳の能力が、老化を加速させてしまった結果なのです。その出来事の後、脳の使い方が足りなかったのですよ」

時間が許せば、左脳・右脳・運動脳、そして前頭葉の話をしてあげるのです。Photo_3


典型的な小ボケ

2012年01月18日 | 二段階方式って?

久しぶりに勉強しましょう。2012_0114_151800p1000033_2                冬桜(1/14写す)

二段階方式では
   A:脳機能検査
   B:生活実態
   C:生活歴
この三条件から、認知症の種類・レベルなどを理解します。
そして、ナイナイ尽くしの生活のために脳が老化を加速させていったいわゆる「アルツハイマー型認知症」の場合には、どのような生活上の変化が認知症を引き寄せていったのかを明らかにしたうえで、どのようにして改善させていくのかを提示するのです.

昨年末に送られてきたケースが、あまりにも典型的なパターンでしたから復習していきます。
81歳の女性の方です。

まず、A:脳機能検査
大脳後半領域のテストMMSの得点は26点/30点。できなかったのは想起がマイナス3点と計算がマイナス1点の計4点。(まず、これから典型的!)
一応合格ですね。
ところが前頭葉テストになると、立方体透視図模写はできません。動物の名前を言ってもらうと1分間に8個ただし繰り返しが2個という結果です。(これは不合格)
さらにかなひろいテストに至っては、2分間についた丸の数は5個。見落とした数は16個。内容把握も曖昧でした。
結論としてA:脳機能テストの結果は「小ボケ}

Img

こうしてみると、同じように見える図形の模写でも5角形相関貫図に比べて、立方体の模写は難しいことがよくわかりますね。

その理由は前頭葉機能がうまく働いているかどうかにかかっています。
立方体の奥行き知覚そのものも前頭葉機能が働いた結果ですし、次には反転していく奥行きの方向を一方向にとどめなくては、この図形は描けないのですが、その時にも抑制という前頭葉機能が発揮されなくてはいけないのです。

このA4版白紙の使い方からは、5角形相関貫図は描けて立方体透視図が描けないということの他にも、いくつかのこの人を理解させる情報があります。2012_0114_152900p1000034                       

1.名前が用紙のまん真ん中。
2.用紙全体を使っている。
この2点からはエネルギーの大きな人だろうという予想がつきます。

3.文章は正確に書けているように見えますが
「ぼげきている」は「ぼけきている」か「ぼけがきている」のはずですね。
このような間違い方は、もちろん失語症のように脳機能のの異常からでもおきますが、本来ならば完全正答になる脳機能を持っているはずなのに、「ちょっと、つい、うっかり、間違ってしまう」場合もあるのです。
このようなことは小ボケレベルでよく起きてきますから、この「文を書く」の時点で小ボケの可能性があることを考慮しなくてはいけません。

B:生活実態
小ボケの人の場合は、生活実態を知るための30項目問診票で、1~10までの症状のうちに4症状以上の自覚が必須条件になります。
⑤⑦⑧⑨ここまでならまさに小ボケにぴったりですが、さらに⑬⑭にも丸が付いていました。
よくよく尋ねると最近二度ほど失敗したことを厳しく自己評価していたことがわかりました。
このように脳機能レベルが小ボケで、生活実態を小ボケ以下に自己評価することは割合によく見られます。逆に言うと脳機能レベルが中ボケになって中ボケに自己評価で丸をつけることはないのです。(これも原則通り)2012_0114_101300p1000019                                             箱根ガラスの森から大涌谷            

C:生活歴
3年間、この人らしくいきいきと生きてこなかった結果が、この脳機能を生んだのだと、二段階方式では考えます。
言いかえれば、3年前にこの人の生活が大きく変わってしまう生活上の変化が起きた(そして、その結果それまでとは全く違う生活実態になってそれが続いた)ということですから、3年前に絞ってその変化を聴き取っていきます。

「3年前に起きた生活上の大きな変化と言えば、同居の婿が退職して家にいるようになった」と即答されたそうです。

多分それで正答なのでしょうが、でも、安心してはいけません。
婿が退職してこの人の生活がどのように変わったのかを聞きとらなくてはいけないのですよ。
箱根富士屋ホテルを望む2012_0114_095300p1000018_2

30代で夫を亡くしてからは、郵便局に勤めて一人娘と義母の生活を支えてきた。

母屋に娘一家を住まわせて、退職後は、母屋の裏に離れを建てて義母と生活。義母は半年後死去。娘は公務員、婿は警察官だったので家事と孫の面倒を見てきた。

退職後は書道、三味線、編み物など多彩な趣味を楽しんでいた。

婿の退職までは、自分で自転車に乗って買い物をし食事の支度もしたが、退職後は買ってきてもらったり車で連れて行ってもらったりになった。面倒なのでお弁当でいいとする日も増えた。

こうして話してもらっているうちに
「婿が毎日いるようになってとても気を使うこと」
「娘はまだ働いているのに、婿が働いていないことをよく思っていないこと」
「警察官だったせいか、硬くてうるさくて、監視されているようで生活が楽しくない」と言うことがはっきりしてきました。

ここまで聞きとるようにしましょう!
テスターも納得できますが、何より小ボケの本人が「その通り!」と思うはずですから。
このケースの場合なら、元来が負けず嫌いでがんばりやさんですから、ここまでのやり取りの中で胸のつかえが下りた気分になるものです。
指導内容はこのように書かれていました。
「食事の支度は頭の体操だと思って工夫しながらいろいろなものを作りましょう。止めてしまった趣味の中で再開できそうなものをまたやりましょう。保健センターの貯筋体操にも涼しくなったら来てください。散歩もいいですよ」

もし追加するとしたら、
「この3年間の生活では、脳の使い方が足りません。そのために老化が早まって元気をなくしています。もっと楽しくもっと生き生きと生きることが脳の元気を取り戻すことですよ。そのために」を指導の頭につけることでしょうか。


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