脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

認知症につながる「きっかけ」は誰にでも起きる

2022年01月24日 | 正常から認知症への移り変わり

小冊子改訂中のお知らせはしましたね。昨日書いたところは皆さんにも読んでほしいと思いましたので、ちょっと加筆して転載します。

認知症の正体は、理解できましたか?脳の使い方が足りない「脳の生活習慣病」なのです。そのかなめは前頭葉の「意欲」や「注意集中力」に支えられた「注意分配力」を発揮する時や場が極端に減ってしまうことです。「人生の大きなできごと、生活の大きな変化」を「きっかけ」に、その状況に負けてしまって、三頭立て馬車の御者が役割を果たす状況を失くしてしまうことと言い換えることもできます。
趣味なく、生きがいなく、交遊もない。そのうえ運動もしない。ナイナイ尽くしの生活が継続してしまうことです。

ナイナイ尽くしの生活に入っていく「きっかけ」をまとめてみましょう。
①時間はあるのにすることがない状況
仕事一筋の人の定年退職(今までの感謝から、気ままにさせてしまう)
家業代替わり(切望していても、仕事がなくなったらすることがない)
家事をやめる(退職した嫁が、これまでの感謝を込めて家事担当に)

②病気やけがで長期安静
 病気やケガで、入院または退院後もふくめて長期安静にする。体調不良。
 脳卒中、心臓手術などの病後に、再発を恐れ生活が単調化。閉じこもる。
腰痛や膝痛のために、行動が制限される。それが習慣化してしまう。

③寂しい状況
わかれ:配偶者との死別。友人の死や転居。孫の成長(世話が不要、家を出る)。趣味の中止(仲間の減少、先生の都合、視聴覚などの肉体的理由。ペットを喪う。
なやみ:家庭内の問題(子供の離婚、リストラ、孫の非行、いじめ、発達障害など)自分や家族の健康問題。経済問題。相続問題。近隣とのトラブル。
さびしさ:ひとり暮らしで、趣味や近隣との付き合いを通じた交遊関係がない。 家族と同居していても、会話や交流がない。家族関係の問題(本人に起因する場合も、家族が原因の場合もある)。

まとめると「生きる意欲を支えた生活が、なくなる。生活を支えた意欲を、なくす状況がおきる」
上にあげたようなできごとは、誰にでも起こり得るものです。そのできごとが起きた時に、どのように対処するかは、前頭葉の役割。その状況をどうとらえ、どのように判断し、どう進んでいくかを決めるのです。認知症にならない幸せな老後をくらすには三頭立て馬車の御者が、「きっかけ」に負けないで、馬車を動かし続ける覚悟があるかどうかにかかっています。がんばってください。


認知症を治す薬はないと思いましょう

2022年01月10日 | エイジングライフ研究所から

今、以前作った認知症予防の小冊子「ボケは防げる・治せる」の改訂作業をしています。
「ボケ」という表現は問題があるのではないかという指摘を受けて重い腰をあげましたが、実はボケということばは今でも使って差しさわりはないのです。
厚労省が「痴呆」を「認知症」と表現を改めたのは2004年です。「痴呆」という言葉や文字に侮蔑的な意味があるということで変更されました。つまり「ボケ」という言葉を言い換える必要はないのです。

今日の写真は1/10ニューヨークランプミュージアムの写真です。おでんシスターズこんにゃくとはんぺん。東京から撮影旅行に来たそうです。

早期の認知症の人たちで、脳リハビリ訓練の結果、見事に改善した人たちの話をよく聞いてみると「人の話がよく分からなかった」「景色のきれいさにも心動かされなかった」「面白いとかかわいいとかの対象にも靄がかかってるみたいだった」といわれるのです。
「とにかく回りがなんだかぼやーとしていたんです」まさにボケということばは名言でしょう?

 その小冊子にQ&Aのページがあります。歩くことやCT画像のことや食べ物のことなど解説しています。その中に「ボケを治す、またはボケを予防する薬は?」という質問がありました。回答は「脳血流改善剤、脳代謝賦活剤を飲んだ群と、脳リハビリ指導だけの群を統計的に検討しても差はない。散歩や右脳刺激などを中心とした脳リハビリの実践なしには予防も回復もない」とシンプルですが正しい回答でした。
その時、この小冊子を書いた時から、今までの時間がどっと押し寄せてくるような気持ちになりました。当時は「脳血流改善剤」や「脳代謝賦活剤」を処方すればどうにかなるというのが製薬業界の基本的スタンスだったのですね…

その後の製薬業界は、様々な測定法の発展に伴いアミロイドベータやタウタンパク犯人説、脳全体の萎縮説などが繰り広げられました。特にアミロイドベータにターゲットをあてると解決できるはずという見通しのもと、莫大な開発費をつぎ込んだようです。そして結論が数年前に出ました。
「アミロイドベータを原因物質としての創薬は不可能」!なんとそれまでに費やされた開発費用は60兆円というのですから科学者たちの悲しみはいかばかりだったか・・・

なぜこんなことになったかというと、認知症を発症した人の脳にはアミロイドベータ由来の老人班がたくさん見られたから「きっとこれが犯人だろう」という推測から研究が始まったからです。とんでもないことだったのですが。だって、高齢になった人の脳にも老人班はみられるものなのですから。
昨秋も、少し見方を変えてまとめてありますので、興味があればお読みください。
質問「脳を元気にする食べものやサプリはあるか」


ついでに言うと脳の萎縮も同様で、重度の認知症の人の場合、確かに萎縮は伴っています。ところが認知機能に問題がない高齢者でもはっきり萎縮している人もいるのです。これは脳ドックの治験です。
もうひとつついでに言うと、多発性脳梗塞が見つかったから血管性認知症ともいえないのです。
(椎間板ヘルニア≠慢性腰痛の原因)=(多発性脳梗塞≠血管性認知症の原因)


「アミロイドベータの蓄積による老人斑は、それが認知症を引き起こす原因ではなく、結果(脳の老化、生きてきた結果)ではないのか」この考え方はもっと国民に知ってもらわなければいけないことだと思います。
それに、アミロイドベータの作用にターゲットを当てた薬は、少なくとも製薬業界ではあきらめ宣言が出されていたことも周知されるべきものだと思います。

ところでこのブログを読んでくださっている方はすぐに期待の認知症治療薬「アデュカヌマブは?」と疑問を感じられたことでしょう。
今まで開発を進めようとしてきた薬は、アミロイドベータの作用に働きかける、うまく作動しないようにするという方針だったのですが、今回はアミロイドべータをできるだけ早く排出させるという全く新しいやり方です。だから対象者は早期患者とかMCIに限るといわれていますよね。

アメリカでは2021年6月に異例の速さで承認されました。ところが専門家11人のうち3人が辞任。その理由は「アミロイドベータが減少することは事実だが、アミロイドベータが減少すれば認知機能低下の防止に寄与したことになるのかどうかのエビデンス不足なのに、認可してしまうことには無理がある」ということらしいです。もちろん継続的な研究を促されているそうです。

日本でも、認可されるかどうかと期待を込めて待たれました。2021年12月22日、厚労省薬事・食品衛生審議会は、製造販売承認申請を行ったエーザイとバイオジェンに対して、継続審議の結論を取り、追加データの提出を求めたと報道されました。
さきだって、フランスは認可を出しませんでした。
2つの問題点をお話ししておこうと思います。
 ・アミロイドベータの蓄積の結果である老人班が、病態に関与していることは認められるが、原因か結果か不明である点。
 ・もう一つは費用のことです。
アメリカで承認されたニュースの時に、薬価が56,000ドル/一人/1年の数字に驚いた人もいたのではないでしょうか?600万円!


追記(1/12)「去年12月20日米バイオジェンは20日、日本の製薬大手エーザイと開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」について、米国での価格を来年1月に半額に引き下げると発表した。年5万6千ドル(約630万円)から年2万8200ドル(約320万円)に値下げとなる。」
この新聞記事を今朝発見しました。


日本の方が薬価は低く設定されるもののようで、半額程度という報道も追いかけてされましたが、日本の場合は公的な保険制度が充実していますから使えるということになったら莫大な薬価が継続的に支払われることになります。
ちょっと調べてみました。厚労省による令和2年の医療費のまとめです。

認知症の人は600万人といわれています。この600万人は重度認知症の人たち。
アデュカヌマムは早期患者が対象なのですが、重症者よりも軽症者の人が多いことは当然ですから、600万人以上ではあるでしょう。薬価が今のままだと、100万人に一年間投与すると考えるだけでも6兆円!
軽症の人を健康にさせることは、本人を大切にし、家族ひいては行政までの介護負担をカバーできるわけですから、支出を恐れる必要はないともいえるのですが、上の表にプラスすることはできるのでしょうか?


国民のコンセンサスが何処にあるのか聞くべき時が来ているのではないでしょうか?
一番大切な情報は「認知症の正体は、脳の生活習慣病。脳の使い方が悪いということ」「前頭葉を駆使して自分らしくイキイキと生き続けることこそ認知症予防」ということだと思います。

みなさんは日常的に「あの人はボケないよねえ」「あの人は危ない…仕事辞めたらボケるんじゃない?」とか言ってるはずです。その判断基準はなんでしょうか?
「あの生き方なら」。その通り!生き方は他ならぬその人の前頭葉が決めるものなのです。「体の健康」を手に入れ世界に冠たる長寿国になったからこそ、今度は「脳の健康」を保つ秘訣を国民が共有できるようになりますように…

以上「夢」のようですが、新年の抱負でした(笑)

 

 

 

 

 

 


りんがふらんかでお正月

2022年01月05日 | 私の右脳ライフ

去年オープンしたりんがふらんかに行きました。「リンガフランカ」は違う母語を持っている人たちの共通語というような意味ですが、伊豆高原のりんがふらんかは入場無料のミュージアム。もともと、城ケ崎文化資料館といって全国各地から長い年月をかけて収集したおもちゃや生活用具などのレトログッズや文化財、民俗資料の博物館でした。それを上手にリノベーションして企画展のためのギャラリー、まなびやステーション、収蔵品の展示エリア、観光インフォメーションなどなど多面性を持つコミュニティセンター的な施設に生まれ変わりました。
毎回の企画展はバラエティに富んでいて、切り盛りなさっている安田支配人のセンスにあふれています。2022年最初の展示は浮世絵展。
入り口でポスターを確認しました。

午前中に生けこみがあったそうです。玄関わきのコーナー全体を使った大きな作品がお正月らしさの演出に一役買っていました。

りんがふらんかは昔の建物を生かして小屋組みをそのまま見せることで、高い天井が解放感とモダンさを感じさせてくれます。展示場所も床も無垢の木ですから、それもまた好印象。

近づいてびっくり、有名な作者、作品のオンパレード。浮世絵ですから、版木があって摺り師がいれば作品はできるわけです。考えてみれば当然のことですが、歌麿、北斎、写楽!
2017年には「浮世絵を体験する」という新しい切り口の展覧会にも行きました。「日本橋でスーパー浮世絵展を見る」
去年は「巨大映像で迫る五大絵師 北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界」展で3面ワイド45mというスクリーンで巨大な映像も見ました。
うーん。もともと浮世絵は手に取って眺めたものでしょう?今あげた大きな展覧会にもその良さを言う人たちはいると思いますが、りんがふらんかの目の前にある作品は息づいているようでした。大きなファイルブックに美人画がたくさんセットされていて、めくって見られるというあまり考えられないような企画もありました。確かにポスターにはちゃんと「手刷り木版画」とうたってましたが、特にインパクトを感じるでもなく入場し、生の作品を見て初めて「うわー、なんという眼福」。左脳で言葉を理解しても、上滑りになることはよくあります。右脳の直接的な刺激は、無視できないことを実感しました。

左『凱風快晴』右『深川万年橋下』
仕事で10年以上毎年2回、小布施に行っていますから、特に北斎は親しみがあります。北斎の名がある展覧会などにはできるだけ足を運びたくなるのです。
「冬晴れの一日、美術館巡りーすみだ北斎美術館」
「取りまとめて右脳訓練の報告ー展覧会」
東京の展覧会と違って、これだけ近くで、多くの人に煩わされることもなくゆっくり堪能できました。

『山下白雨』

『神奈川沖裏富士』は大きさの違うものが三種類展示されていました。当然のことながら多少は色も違い、それがまた手刷りの特徴を伝えてくれて近くで見られて幸いでした。
上の写真の手前は版木です。人気作品の版木はすり減るので作り直しが必要ということでしたが、江戸時代の古い版木もあるそうです。
現在でも、彫り師も摺り師もいて浮世絵の伝統は守られていると伺い、ちょっと安心しました。

ばれん。道具に見られる「用の美」

ITOまなびやSTATIONでは͡鏝絵の展覧会が開催中でした。東伊豆町在住の大内守さん(87歳)

石灰、フノリ、麻を原料としてつくられる漆喰だそうですが、乾くのが早いので時間との勝負ということは知らなかった気がします。ばれんと同じで、鏝そのものもきれいでした。

繊細なものから躍動感あふれるものまで、まあみごとなものです。立体的、具象的な羽の様子が伝わるでしょうか?

ITOまなびやSTATIONのシンボルのシロクマさん。

大分県の安心院(あじむ)町に行ったときに、たくさんの鏝絵を見ました。私が見たのは戸袋や壁に描かれているものが多く、遊び心が感じられるようなデザインと素朴な色使いが印象的でした。
防火の意味があるので、海や波模様はよく見られますが、この作品の波の躍動感、しぶきがかかってきそうでした。寄せては崩れ大きく波しぶきをあげる、ちょっと荒れた海。海は荒れていても赤らんだ朝の空(東伊豆町にお住まいなので、朝日かなと)からは明るさが伝わってきます。漆喰を材料にして、鏝で仕上げたので鏝絵というのでしょうが、一般的な鏝絵とは一線を画していることは確かです。

たった一つでしたが、いわゆる漆喰細工。洋風天井に飾られるような作品がありました。

ありがとうございました。お正月らしいよい体験を楽しみました。

 


「池地区」山神社へ初詣

2022年01月02日 | 私の右脳ライフ

あけましておめでとうございます。
IMG 2021
車で10分ほどの池地区。伊東市では珍しく水田が広がる地域で、その入り口に山神社があります。規模は大きくなくとも巨木に囲まれた落ち着いたお宮です。

ここで、天城連峰太鼓の奉納、カウント花火の年越し行事、年が改まると初詣客に、お神酒、ぜんざい、猪汁のおふるまい。さらには餅投げまであると教えてもらったのは数年前。それから毎年お参りしていましたが、去年はコロナで中止。今年は復活と聞き喜んでいきました。

寒空の下ですが、和太鼓を演奏される皆さんは汗をかく熱演です。コロナで発表の場が極端になくなったと耳にしました。こんなところにもコロナの影響があるのですね!
演奏がすんで、10分ほど待ったらカウントダウン花火が始まります。
都会に住んでいる方たちには想像もできないでしょうが、花火が上げられる前に寄付者のお名前、そして一口コメントが放送されます。とっても家庭的なものが多く心温まります。子や孫の成長を喜ぶもの、結婚や長寿の幸いを伝えるもの、お店からお客さんへの感謝とか。最後、池地区の代表の方のコメントは世の中の安定と平和を祈るこれまた素敵なものでした。その後にフィナーレを飾って上の動画の花火が打ちあげられたのです。

優しい照明が、神秘さを際立たせているように思いました。例年は参拝するまで、行列になって時間もかかりますが、今年は参拝する人たちが少なくてすぐお参りできました。

元旦の朝、友人が世界各地のカウントダウン花火の動画を送ってくれました。「すごいなあ!」と思いながら見せてもらって、ここの動画を送りました。するとうれしい返信が。
「新鮮味があって キレイですね😄 却って 心洗われます😄」
そうなんですよ。華やかさはないかもしれませんが、心に染み入るような花火なのです。
少し元気が出る景色もアップしておきましょう。
年末の熱海港。

空の青と海の青。どちらも見事な美しさでした。明るさからも心に訴えてくるものはあります。
目を転じると、足元の花も輝いていました。

コロナの終息ははっきりせず、しばらくはウイズコロナで対処しなくてはいけないでしょう。気を付けるべきことには十分気を付ける必要があると思いますが、脳も体も廃用性の機能低下を起こさないようにも気を付けてください。


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