今、以前作った認知症予防の小冊子「ボケは防げる・治せる」の改訂作業をしています。
「ボケ」という表現は問題があるのではないかという指摘を受けて重い腰をあげましたが、実はボケということばは今でも使って差しさわりはないのです。
厚労省が「痴呆」を「認知症」と表現を改めたのは2004年です。「痴呆」という言葉や文字に侮蔑的な意味があるということで変更されました。つまり「ボケ」という言葉を言い換える必要はないのです。
今日の写真は1/10ニューヨークランプミュージアムの写真です。おでんシスターズこんにゃくとはんぺん。東京から撮影旅行に来たそうです。
早期の認知症の人たちで、脳リハビリ訓練の結果、見事に改善した人たちの話をよく聞いてみると「人の話がよく分からなかった」「景色のきれいさにも心動かされなかった」「面白いとかかわいいとかの対象にも靄がかかってるみたいだった」といわれるのです。
「とにかく回りがなんだかぼやーとしていたんです」まさにボケということばは名言でしょう?
その小冊子にQ&Aのページがあります。歩くことやCT画像のことや食べ物のことなど解説しています。その中に「ボケを治す、またはボケを予防する薬は?」という質問がありました。回答は「脳血流改善剤、脳代謝賦活剤を飲んだ群と、脳リハビリ指導だけの群を統計的に検討しても差はない。散歩や右脳刺激などを中心とした脳リハビリの実践なしには予防も回復もない」とシンプルですが正しい回答でした。
その時、この小冊子を書いた時から、今までの時間がどっと押し寄せてくるような気持ちになりました。当時は「脳血流改善剤」や「脳代謝賦活剤」を処方すればどうにかなるというのが製薬業界の基本的スタンスだったのですね…
その後の製薬業界は、様々な測定法の発展に伴いアミロイドベータやタウタンパク犯人説、脳全体の萎縮説などが繰り広げられました。特にアミロイドベータにターゲットをあてると解決できるはずという見通しのもと、莫大な開発費をつぎ込んだようです。そして結論が数年前に出ました。
「アミロイドベータを原因物質としての創薬は不可能」!なんとそれまでに費やされた開発費用は60兆円というのですから科学者たちの悲しみはいかばかりだったか・・・
なぜこんなことになったかというと、認知症を発症した人の脳にはアミロイドベータ由来の老人班がたくさん見られたから「きっとこれが犯人だろう」という推測から研究が始まったからです。とんでもないことだったのですが。だって、高齢になった人の脳にも老人班はみられるものなのですから。
昨秋も、少し見方を変えてまとめてありますので、興味があればお読みください。
質問「脳を元気にする食べものやサプリはあるか」
ついでに言うと脳の萎縮も同様で、重度の認知症の人の場合、確かに萎縮は伴っています。ところが認知機能に問題がない高齢者でもはっきり萎縮している人もいるのです。これは脳ドックの治験です。
もうひとつついでに言うと、多発性脳梗塞が見つかったから血管性認知症ともいえないのです。
(椎間板ヘルニア≠慢性腰痛の原因)=(多発性脳梗塞≠血管性認知症の原因)
「アミロイドベータの蓄積による老人斑は、それが認知症を引き起こす原因ではなく、結果(脳の老化、生きてきた結果)ではないのか」この考え方はもっと国民に知ってもらわなければいけないことだと思います。
それに、アミロイドベータの作用にターゲットを当てた薬は、少なくとも製薬業界ではあきらめ宣言が出されていたことも周知されるべきものだと思います。
ところでこのブログを読んでくださっている方はすぐに期待の認知症治療薬「アデュカヌマブは?」と疑問を感じられたことでしょう。
今まで開発を進めようとしてきた薬は、アミロイドベータの作用に働きかける、うまく作動しないようにするという方針だったのですが、今回はアミロイドべータをできるだけ早く排出させるという全く新しいやり方です。だから対象者は早期患者とかMCIに限るといわれていますよね。
アメリカでは2021年6月に異例の速さで承認されました。ところが専門家11人のうち3人が辞任。その理由は「アミロイドベータが減少することは事実だが、アミロイドベータが減少すれば認知機能低下の防止に寄与したことになるのかどうかのエビデンス不足なのに、認可してしまうことには無理がある」ということらしいです。もちろん継続的な研究を促されているそうです。
日本でも、認可されるかどうかと期待を込めて待たれました。2021年12月22日、厚労省薬事・食品衛生審議会は、製造販売承認申請を行ったエーザイとバイオジェンに対して、継続審議の結論を取り、追加データの提出を求めたと報道されました。
さきだって、フランスは認可を出しませんでした。
2つの問題点をお話ししておこうと思います。
・アミロイドベータの蓄積の結果である老人班が、病態に関与していることは認められるが、原因か結果か不明である点。
・もう一つは費用のことです。
アメリカで承認されたニュースの時に、薬価が56,000ドル/一人/1年の数字に驚いた人もいたのではないでしょうか?600万円!
追記(1/12):「去年12月20日米バイオジェンは20日、日本の製薬大手エーザイと開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」について、米国での価格を来年1月に半額に引き下げると発表した。年5万6千ドル(約630万円)から年2万8200ドル(約320万円)に値下げとなる。」
この新聞記事を今朝発見しました。
日本の方が薬価は低く設定されるもののようで、半額程度という報道も追いかけてされましたが、日本の場合は公的な保険制度が充実していますから使えるということになったら莫大な薬価が継続的に支払われることになります。
ちょっと調べてみました。厚労省による令和2年の医療費のまとめです。
認知症の人は600万人といわれています。この600万人は重度認知症の人たち。
アデュカヌマムは早期患者が対象なのですが、重症者よりも軽症者の人が多いことは当然ですから、600万人以上ではあるでしょう。薬価が今のままだと、100万人に一年間投与すると考えるだけでも6兆円!
軽症の人を健康にさせることは、本人を大切にし、家族ひいては行政までの介護負担をカバーできるわけですから、支出を恐れる必要はないともいえるのですが、上の表にプラスすることはできるのでしょうか?
国民のコンセンサスが何処にあるのか聞くべき時が来ているのではないでしょうか?
一番大切な情報は「認知症の正体は、脳の生活習慣病。脳の使い方が悪いということ」「前頭葉を駆使して自分らしくイキイキと生き続けることこそ認知症予防」ということだと思います。
みなさんは日常的に「あの人はボケないよねえ」「あの人は危ない…仕事辞めたらボケるんじゃない?」とか言ってるはずです。その判断基準はなんでしょうか?
「あの生き方なら」。その通り!生き方は他ならぬその人の前頭葉が決めるものなのです。「体の健康」を手に入れ世界に冠たる長寿国になったからこそ、今度は「脳の健康」を保つ秘訣を国民が共有できるようになりますように…
以上「夢」のようですが、新年の抱負でした(笑)