前回のブログの終わりごろに、相談された方から
「・・・日付がわからないので『携帯で見て書くようにしている』」
という発言があったことを書きました。
そして
「こんな中ボケの方はいませんよ」と結論付けましたが、その理由を解説したいと思います。
鍵はいつも通り、前頭葉にあります。
今日は記憶と前頭葉の働きについてお話ししておきます。
「物忘れはボケの始まり」と思っている人たちのなんと多いことか!
そして、歳をとった人で物忘れの自覚を持ってない人がいかに少ないか!
いかに少ないかではなく、物忘れの自覚がない人は皆無といってもいいでしょう。
物忘れに関した事件を話しながら、笑い飛ばしている人。
笑いながらも、本当は内心やや不安になっている人。
夫婦や親子で、物忘れしたというだけで「ボケ」呼ばわりする人。
ユーモアを込めた場合もあれば、もっとシニカルな場合もあります。
物忘れの話は講演会でもよくしますが、会場がもしかしたら一番盛り上がる時かもわかりません。
それは具体的に例示するから「私にもアル、アル」という反応なのでしょう。
冷蔵庫の前ではたと戸惑う「何を取るつもりだったのか?」
階段の途中ではたと戸惑う「何のために二階に行っているのか?」
知ってる人なのに名前が出てこない。
必ずしようと思った用事を忘れてしまう。
同じ人に同じことを得々としゃべってしまう。
それ以前に、人の名前、花の名前、その他名詞の数々・・・
覚えたつもりでも、出てこない。
というよりも、覚えていないという方が実感に近いでしょう。
新しいことが、覚えられなくなっていきます。
出来事だって、なんだかはっきりしないことが出てきます。
「絶対、あった!」とか「絶対、なかった!」と言い張ることは得策ではないと、自覚できているとしたら、それこそがボケていない証拠だと思っていいのです。
物忘れを自覚して、その対処を計画実行するのは前頭葉の役割です。
一つは「言い張らない」でしょう。
重要なもう一つは「工夫する」です。
覚え方、メモの取り方、さらには失敗した時のための防衛策など、工夫の対象はいくつも考えられます。
記憶は
①記銘(覚える)
②保持(覚えておく)
③想起(思い出す)
という三つの段階から成り立っていますから、工夫はまず①記銘から始めます。
まず、きちんと意識を集中して覚える、これは前頭葉の注意集中機能をフルに働かせるということです。
能力に合わせて細分化することや、経験則にのっとって自己流に関連付けることもあるでしょう。すべて前頭葉機能です。
②の保持に関しては、短い時間で想起してみる。
③はあきらめないで努力を続けてみる。周りからちょっとしたヒントをもらっても、自力で思い出してみる。
こうして細かく考えてみると、重要なのは①記銘だということが分かるでしょう。
覚えてないものは思い出せません。覚えるためには前頭葉の注意集中力が不可欠です。
この能力が加齢と主に低下していく以上、もの忘れ問題が出てくるのはある程度は不可避だということになります。
もちろんその前に記憶力そのものも、加齢による能力低下があります。
ピークは20代、60代でその半分と言われていますが、①記銘に関してはまさにその通りだと膝を打つ高齢者は多いでしょう。
これほど悪い条件がそろっているのですから、記憶力低下に悩むのはバカバカしいといってあげましょう。
上記の①記銘に関する工夫はすべきです。
でも、ある程度年をとれば、記憶力低下、物忘れはあるものだと認識したうえで、なお自分らしく生きるにはどのような方策を取ればいいのかを前頭葉にしっかり考えてもらうことが大切です。
体力が落ちても、自分らしく生きることができるのなら、記憶力が落ちても自分らしく生きられるはずですね。
一番大切なのは、前頭葉ですよ。
注意集中力や分配力は年齢と主に低下していきますが、自分らしさの中核を作り上げる前頭葉機能は、加齢に負けず十分に機能していくものです。
物忘れを嘆く前に、どのように生きたいかを自問自答し、楽しみや感動を見つける生き方の方が、はるかにボケ防止になることがお分かりいただけたでしょうか?
と、大上段に構えてしまいました。
簡単にいえば、例えば二つの用事のうち一つ忘れた時に
「『この次この失敗をなくすには~をしよう』と工夫し
『おかげで、前頭葉の訓練になった』と喜んだり、もっと積極的に
『これで、私の馬車を動かす機会が増えた』
『せっかくだから、何か面白そうなものを見つけよう』とか考えましょう!」と言いたいのです。
ポジティブシンキングができることは、高齢者にとって「ありがタイ」のですよ。