脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

物忘れと前頭葉の関係

2010年04月25日 | 前頭葉の働き

中伊豆ワイナリーの花たち(4月19日)20100419140100002010041914020001

前回のブログの終わりごろに、相談された方から
「・・・日付がわからないので『携帯で見て書くようにしている』」
という発言があったことを書きました。
そして
「こんな中ボケの方はいませんよ」と結論付けましたが、その理由を解説したいと思います。

鍵はいつも通り、前頭葉にあります。
今日は記憶と前頭葉の働きについてお話ししておきます。2010041914140000

「物忘れはボケの始まり」と思っている人たちのなんと多いことか!

そして、歳をとった人で物忘れの自覚を持ってない人がいかに少ないか!
いかに少ないかではなく、物忘れの自覚がない人は皆無といってもいいでしょう。2010041914240000

物忘れに関した事件を話しながら、笑い飛ばしている人。

笑いながらも、本当は内心やや不安になっている人。

夫婦や親子で、物忘れしたというだけで「ボケ」呼ばわりする人。
ユーモアを込めた場合もあれば、もっとシニカルな場合もあります。

物忘れの話は講演会でもよくしますが、会場がもしかしたら一番盛り上がる時かもわかりません。
それは具体的に例示するから「私にもアル、アル」という反応なのでしょう。2010041914170000

冷蔵庫の前ではたと戸惑う「何を取るつもりだったのか?」
階段の途中ではたと戸惑う「何のために二階に行っているのか?」

知ってる人なのに名前が出てこない。

必ずしようと思った用事を忘れてしまう。

同じ人に同じことを得々としゃべってしまう。

それ以前に、人の名前、花の名前、その他名詞の数々・・・2010041914270000
覚えたつもりでも、出てこない。
というよりも、覚えていないという方が実感に近いでしょう。
新しいことが、覚えられなくなっていきます。

出来事だって、なんだかはっきりしないことが出てきます。2010041914250000

「絶対、あった!」とか「絶対、なかった!」と言い張ることは得策ではないと、自覚できているとしたら、それこそがボケていない証拠だと思っていいのです。

物忘れを自覚して、その対処を計画実行するのは前頭葉の役割です。

一つは「言い張らない」でしょう。

重要なもう一つは「工夫する」です。
覚え方、メモの取り方、さらには失敗した時のための防衛策など、工夫の対象はいくつも考えられます。

記憶は
①記銘(覚える) 
②保持(覚えておく)
③想起(思い出す)
という三つの段階から成り立っていますから、工夫はまず①記銘から始めます。
まず、きちんと意識を集中して覚える、これは前頭葉の注意集中機能をフルに働かせるということです。
能力に合わせて細分化することや、経験則にのっとって自己流に関連付けることもあるでしょう。すべて前頭葉機能です。2010041914230000

②の保持に関しては、短い時間で想起してみる。

③はあきらめないで努力を続けてみる。周りからちょっとしたヒントをもらっても、自力で思い出してみる。

こうして細かく考えてみると、重要なのは①記銘だということが分かるでしょう。
覚えてないものは思い出せません。覚えるためには前頭葉の注意集中力が不可欠です。
この能力が加齢と主に低下していく以上、もの忘れ問題が出てくるのはある程度は不可避だということになります。

もちろんその前に記憶力そのものも、加齢による能力低下があります。
ピークは20代、60代でその半分と言われていますが、①記銘に関してはまさにその通りだと膝を打つ高齢者は多いでしょう。

これほど悪い条件がそろっているのですから、記憶力低下に悩むのはバカバカしいといってあげましょう。20100419142700012010041914210000_2

上記の①記銘に関する工夫はすべきです。
でも、ある程度年をとれば、記憶力低下、物忘れはあるものだと認識したうえで、なお自分らしく生きるにはどのような方策を取ればいいのかを前頭葉にしっかり考えてもらうことが大切です。
体力が落ちても、自分らしく生きることができるのなら、記憶力が落ちても自分らしく生きられるはずですね。

一番大切なのは、前頭葉ですよ。
注意集中力や分配力は年齢と主に低下していきますが、自分らしさの中核を作り上げる前頭葉機能は、加齢に負けず十分に機能していくものです。

お祝い事がありました2010041615570000_2

物忘れを嘆く前に、どのように生きたいかを自問自答し、楽しみや感動を見つける生き方の方が、はるかにボケ防止になることがお分かりいただけたでしょうか?

と、大上段に構えてしまいました。
簡単にいえば、例えば二つの用事のうち一つ忘れた時に
「『この次この失敗をなくすには~をしよう』と工夫し
『おかげで、前頭葉の訓練になった』と喜んだり、もっと積極的に
『これで、私の馬車を動かす機会が増えた』
『せっかくだから、何か面白そうなものを見つけよう』とか考えましょう!」と言いたいのです。

ポジティブシンキングができることは、高齢者にとって「ありがタイ」のですよ。


「ボケてない?何か、ちょっと違うんです。」

2010年04月14日 | 側頭葉性健忘症

二段階方式では、
・脳機能と
・生活実態(小ボケ・中ボケ・大ボケ)と
・最近の生活歴(ナイナイ尽くしの生活が継続しているか否か)
この三つの情報をどれも同じように大切に解釈します。
写真は夕方の庭
2010040617410001 そして普通の認知症(アルツハイマー型)ならば、この三つの情報の意味するところはみごとに一致するものなのです。
脳機能が小ボケレベルならば、生活実態も小ボケ状態、そして小ボケに至るナイナイ尽くしの生活実態も確認できるという風に!

先日の相談事例です。
MMSは16/30ただし、再施行で合格できる項目があり実力的には19/30と言うところでしょう。「時」は季節と時刻のみの2点。
前頭葉テスト結果は立方体可、動物名想起(11,0)、かなひろい(15,38,不可)
以上を総合すると中ボケレベルということになります。2010040618030000 2010040618040000

生活実態は、妻の評価だと(④⑦⑨ ⑪⑫⑮⑯⑱⑳ ???)と大ボケに近い評価でした。
保健師さんのコメントがありました。
「本人がこのような状況になってしまったことを不満に思うために、少々厳しく○をつけているように感じました」
そしていくつかの丸を消していましたね。
そうですよ。パソコンでは、丸がついた項目だけの理解しかできませんが、「なぜ、この項目に丸がついたのだろう」というようなところへ踏み込んでいくことも、その人の理解を深めるためには必要なことです。2010040617510000

さて生活歴。
30年前、実家の料亭からのれん分けで支店を出し、現在もその食堂を経営している。さらに本人が調理師で厨房に立って料理をしている!
こんな生活をしていて、ボケるわけはないのです。
私のコメント
「開店休業状態じゃないの?実態はほとんどお客さんはないのに、もしかしたらお客さんが来るかもしれないから、外出も趣味も楽しめないということだってあります」
「店があるというのはいかにも現役のように感じられますが、脳は使っているという実態が大切なのです」
「馴れた仕事は、中ボケレベルでも結構こなせます。でもその時の『判断』が必要な状況だと、もうお手上げ。いろいろなトラブルが起きているはずですが」
「仕入れから、調理から、この脳機能でこなせるはずがありません」2010040617540000 2010040617590000

私の否定的な突き上げに対して、保健師さんは
「多分できていると思うんです。他に従業員はいないようですし、店は流行ってなくても開店休業ではないと思います・・・」と、頑張って反論してきました。
「仕事は、朝8時から仕込み始め、夜は11時近くまで片づけをする。休みは日曜日の午後くらいで毎日働いている。お昼前の休み時間には近所の池に行って魚を見るのが好きで日課になっているような人なんです!」とだんだん保健師さんが元気になってきます。
「この人はボケてないのではないか?どう考えても何か、ちょっと違う」と感じた、面談中のご本人の様子が思い出されてきたのでしょう。2010040617500000
 
私たちが個別の生活指導をするときには、本人や家族の訴えには心をこめて耳を傾けますが、この話は真実か否かと、客観的に評価し続けながらという条件が付くのです。
その評価のベースになるものは、
・脳機能と
・生活実態(小ボケ・中ボケ・大ボケ)と
・最近の生活歴(ナイナイ尽くしの生活が継続しているか否か)
この三つの情報がイコールになるはずであるという大原則なのです。
さらにこの三情報の、もっとも基本的なものはその方の脳機能ということになります。

今回のように一致しない時には、まず最初にチェックすべきは
「正しい情報を、伝えてくれているのだろうか?」ということです。
生活実態の時には、ズレの原因を保健師さんは推理していましたね。
生活歴の時も同様にズレの原因を探らなくてはいけません。
その第一が「正しい情報かどうか」疑うことなのです。
しつこく、「開店休業状態」と言って気付いてほしかったのは、「言われたことを丸のみにしてしまう危険性」ということだったのです。

2010040617560000 結論ですが、今回は
・脳機能は中ボケ、
・生活実態は大ボケ?と妻は評価したが、実態は調理師の仕事はほとんど問題なくやれている
・生活歴は一番悪くても小ボケ?(つまり、はっきりと何年間ナイナイ尽くしの生活だったという実態がない。自信がなくなりイキイキとしない生活が多少あったかもという程度)ということになりました。
これは普通のボケではないということです。

側頭葉性健忘。(プラス老化が加速してきている)マニュアルCの110P参照してください。
脳機能としては、前頭葉機能が正常値なのに、記憶力が働かないために、記憶力がかかわるMMS下位項目が正答できない状態になります。日時や7シリーズや想起が全くできなくなります。そのために一見すると中ボケのようなMMSテスト結果になってしまうのです。
A4版用紙を見てください。Img
これが脳機能が中ボケレベルになった人のものだと思いますか?

本来ならば、前頭葉機能は完璧に合格のはずだったのですが、どうもこの状態が2年間は継続してきているために、小ボケが連動して起きてきていて、かなひろいテストが不合格になってしまったというように解釈できます。

本人が現在の状態についてこのように述べています。
「2年くらい前から気になっていた。客が頼んだ注文を今までは頭の中で覚えていられたけど、今はメニューを間違えないように一つ一書いている。日付がわからないので『携帯で見て書くようにしている』」
検査後「記憶がないことに驚きました」と感想を伝えたそうです。

こんな中ボケの方はいませんよ。


かくしゃくヒント1ー1日の計は寝床の中で

2010年04月09日 | かくしゃくヒント

「かくしゃくヒント」っていい表現でしょ?
私がお会いした高齢の方の「これそ、かくしゃくと生きるためのヒント!」と思われる生活ぶりやお話を紹介する記事です。
時々アップしていきますのでよろしく。

83歳の女性です。
(今日の写真は、全部その方の庭に咲いていた花で、名前も教えていただきました)
ヒマラヤユキノシタ2010032710410001_2                   ヒメリュウキンカ2010032710420000

「私はね、だいたい家の整理はしておく方なんですよ。だって気持ちがいいでしょ?それにあぶなくもないし。物も取り出しやすいし」
「そして夜は結構きちんと片づけるんですよ」
ケマンソウ2010032710410000_2                   シラユギゲシ2010032711010000

「だって、朝目を覚ますでしょ。その時ベッドの中で『さあ、今日はあれをして・・・
これをして・・・』って考えることにしてるんです。それも楽しくなるようにワクワクしながら考えるんです」

「そして目覚めて、居間や台所に立って、まず片づけからしなくてはいけない状態だったら、せっかくのワクワク感が消えてしまうでしょ。だからきちんと片づけてから休むことにしています

私もまねをし始めました。今年の目標です。

夫が誕生日の食事のリクエストに「巻寿司弁当」と言いました。
一本巻くのも、二本巻くのも手間は同じですから、お昼ごはんにと思ってお弁当を届けました。
巻寿司弁当2010040510310000                     昼過ぎに届いたお礼状Img

生活を楽しむ鍵は、前頭葉ですが、やっぱり右脳が豊かなタイプはすばらしい!


新年度が始まりました 積極的に認知症予防を!

2010年04月04日 | 二段階方式って?

今年は、4月に伊豆高原に雪が降るほど寒かったり、20度を超すほど暑かったりしているうちにサクラのシーズンも終わりを迎えそうです。2010032710390000
しばらくご無沙汰しているうちに、世の中は新しい年度に入りましたね。
あちこちの保健師さんたちのお顔が目に浮かびます。
皆さんの異動はなかったのでしょうか?
異動なさった方は、前頭葉をフル回転させて、新しい環境で頑張ってください。

 

新年度ということでちょっと堅い話をさせてください。Photo_2

このような数字は、皆さんの頭の中に叩き込まれているのでしょうか?

保健師さんの多くは、「目の前のこの人のためにしてあげられることは何なのか」ということを必死になって考え、探して・・・そのような姿勢で仕事をされている方が多いように思います。

 

 

 

この表は、木曽郡広域連合での去年後半の介護認定者の数です。

Photo_4

この表を送っていただいた経緯をお話しします。
先日伺った木曽町での講演会の折に、山田保健福祉課長さんがご挨拶なさいました。
「木曽町の人口は13,300人。65歳以上の高齢者は4500人で高齢化率は33.8%。現在介護保険の認定を受けている方は800人です。
木曽郡広域連合での、直近半年間での新規認定者は169人。そのうち認知症は53人31%です」
うかがいながら詳しい数字が知りたいと思ったものですから、送っていただきました。

表の右側の方、認知症以外の疾患でも、もちろん予防を心がけなくてはいけないものはありますし、予防が功を奏するものもあるでしょう。でも、病気やけがは不可避の部分もありますね。

2010032711440000認知症について考えてみてください。
(認知症については、種類や介護度認定が低く出るなどの問題がありますが、そこは今回は置いておきます)
介護度が上がるほど、当然必要な金額も高くなっていきますが、突然介護度が高くなるのでしょうか!

認知症というのは、「正常だった人が次第に社会生活や家庭生活に支障をきたす様になった状態」というのが定義ですから、現在たとえ大ボケであったとしても、さかのぼれば必ず正常に社会生活を営んでいた時があるものなのです。

この表を見て、いろいろんばことが頭をよぎります。
重度化する前に相談するシステム作りがいること。
少なくとも、生活習慣で支えられる認知症(それが大部分!)にはさせないこと。

各地で実施されている認知症予防教室では、うまくいった場合には参加者全員が脳機能の維持や改善が可能なこと、低下をきたす場合は個人的な事情(病気や家族間での問題など)の影響が大きく例外的なのです。
つまり認知症予防教室の試みをもっと、もっと徹底させなくてはいけません。
それは同時に財政面からも有効で、教室一か所を開催するのにかかる経費を試算してみてください。参加者お一人が介護認定を受けずにすんだら生み出せる金額くらいなものですから。2010032711440001_2

「元気で長生き」
それは体だけではなくて、脳も元気でなくては意味がありません。

「脳の健康」を指導する立場にある保健師さんたちに期待されるものは大きいです。

 


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