6月24日、MHKのクローズアップ現代は「”誤診”される認知症 適切な治療を受けるには」というテーマでした。
”誤診”というのなら正しい”診断”があるはずですが、実はそこに問題があって、エイジングライフ研究所は、現在流布されている認知症の診断そのものに大きな疑問を持っています。
そろそろ巣立ち
世の中で行われている診断の大きな前提は、アルツハイマー型認知症発症の原因を、アミロイドベータの蓄積による老人斑が正常な神経細胞にダメージを与えて萎縮が起き、その結果として脳機能を衰えさせるということに帰着させています。アミロイドベータを追求していくと行き詰るためにタウ蛋白に原因を求める立場もあります。
この前提のもとに開発された認知症治療薬アデュカムマブやレカネマブについても、いくつか記事を書きました。
認知症治療薬―天動説と地動説(2023.6.5)
またまた認知症治療薬「レカネマブ」登場(2022.9.29)
エーザイの株価12,765円(2021.5)→5,266円(2022.5)(2022.5.31)
スモモ
アミロイドベータに関する歴史をまとめておきましょう。
アルツハイマー博士は、のちにアルツハイマー病と名付けられる若年発症、急速に認知症症状が進行して亡くなった患者の死後剖検で多くの老人斑と顕著な脳萎縮を発見。その老人斑がアミロイドベータからなっていることは、ずっと遅れて1980年代に入ってから判明しました。
サンゴバナ
1991年、John HardyとDavid Allsopが「細胞外アミロイド沈着がアルツハイマー病の原因である」と仮説発表。
2010年、「アミロイドベータの毒性で神経細胞が死滅して脳萎縮が起き認知症を発症する」といういわゆる「アミロイドベータ仮説」が提唱され、この仮説が現在に至るまでアルツハイマー型認知症発症の原因と信じられています。
世界中の権威あるところや人にとっての最重要な聖典のようです。
トゲあるウチワサボテン
前掲の記事にも書いたように、アミロイドベータを標的にした創薬はすべて失敗に終わり、アメリカ食品医薬局のアデュカムマブの迅速承認に対して、職を辞した委員たちがいたのは、アデュカムマブによって認知機能が改善するという根拠に対する疑念があったからです。
アクあるゴボウの花
さらに付け加えます。2022年に報道されたこのニュースは、どうして大きな動きを生まないのでしょうか?正確を期すために引用します。
Newsweek (2022.7.27)
「アルツハイマー病の原因はアミロイドβ、とした重要論文で画像操作の可能性が明らかに」
米ミネソタ大学(UMN)のシルヴァン・レーヌ准教授らの研究チームは、2006年3月16日付の学術雑誌「ネイチャー」で、「『アミロイドベータスター56(Aβ*56)』というオリゴマー種がアルツハイマー病に関連する認知障害に寄与している可能性がある」との研究論文を発表した。
アルツハイマー病の早期治療における有望な標的として「アミロイドベータスター56」が注目され、この研究論文はこれまでに2269本の学術論文で引用されている。
しかし学術雑誌「サイエンス」は2022年7月21日、6カ月にわたる調査の結果、「この研究論文は画像操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じた。
また、「ネイチャー」ではこの研究論文に7月14日付で「一部の図表について疑義が指摘されている。ネイチャーは調査をすすめ、すみやかに回答する予定だ。この間、この研究論文で報告された結果を使用する際には注意するよう勧める」と追記している。
Business Insider(2022.7.29 )
「アルツハイマー病研究の重要論文に改ざんの疑い」
2006年に発表され、その後のアルツハイマー病の研究に大きな影響を与えた論文に、改竄された内容が含まれている可能性があるという調査結果が、科学誌「Science」で発表された。
2006年に発表され、その後のアルツハイマー病の研究に大きな影響を与えた論文に、改竄された内容が含まれている可能性があるという調査結果が、科学誌「Science」で発表された。
この調査によって、ミネソタ大学の研究者、シルヴァン・レスネ(Sylvain Lesné)を筆頭著者とする2006年の論文に画像の改竄があったことを示唆する証拠が示された。
2200以上の学術論文に参考文献として引用されたこの論文は、アルツハイマー病の早期治療の有望な標的としてアミロイドβ*56というタンパク質への関心を呼び起こした。
クルクル飛翔する紅葉の種
後半のナンレポートをぜひ読んで考えてみてください。
「100歳の美しい脳」デヴィット・スノウドン著
*アルツハイマー変化は脳重量・萎縮の状態・アミロイドβ沈着状態からみます。
*ステージというのがアミロイドβが沈着している状態です。0が最小、増えるとともに数値があがっていきます。
*青欄は状態が良好、赤欄は状態がよくないことを表しています。
*アルツハイマー変化は脳重量・萎縮の状態・アミロイドβ沈着状態からみます。
*ステージというのがアミロイドβが沈着している状態です。0が最小、増えるとともに数値があがっていきます。
*青欄は状態が良好、赤欄は状態がよくないことを表しています。
82歳の例のようにアルツハイマー変化がほとんどなく、絶対ボケてるはずがない脳を持ちつつ、重度の認知症をきたした例。91歳と?歳の例のようにアルツハイマー変化が大きくても、全く認知症がない例。さらに100歳という超高齢でありながらアルツハイマー変化がなく、認知症状も皆無であった例。
これは実証研究ですが、どう考えますか?
脳のアルツハイマー変化と認知症の発症には関係がないということにならないでしょうか?
脳のアルツハイマー変化と認知症の発症には関係がないということにならないでしょうか?
スカシユリ
そろそろアミロイドベータの呪縛から逃れてもいいのではないかと思うのです。
認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症の正体は、脳の使い方が悪くて、特に前頭葉の出番がなくなって脳機能の老化が加速されてしまったもの、廃用症候群です。その立場に立ちさえすれば、
「脳の使い方生き方によって認知症は防げる」「いきいきと自分らしく、楽しい日々を工夫して過ごす」という高齢者にとって希望的で納得のいく指針を示してあげられると思います。
by 高槻絹子
by 高槻絹子