普通の、ごくありふれた認知症は、「高齢者が人生の大きな出来事や生活の変化をきっかけに、それまでその人がその人らしく生活していたその生活ができなくなって、ナイナイ尽くしの生活になるところ」からはじまっていきます。
その出来事や生活の変化の事を二段階方式では生活が変わるターニングポイントという意味を込めて「きっかけ」というのですが、最近「こんなこともきっかけになる!」というケースに出会いましたので、報告します。
70歳過ぎた妹が離婚。
このことをきっかけに、兄である相談者の方が意欲をなくして、趣味もやめ世話役も降りて何もしない生活になり、脳の老化を加速させて小ボケ状態になっていました。
「きっかけ」をいろいろな方から教えてもらううちに、ひとつわかったことがあります。
自分よりも年上の、兄や姉との死別に関しては基本的には覚悟ができている方がほとんどです。
兄を亡くしたことがきっかけでボケていったおばあちゃんがいましたが、
・その兄はほとんど親代わりのように育ててくれたこと、
・未亡人になっての子育てにも惜しみない協力をしてくれたこと、
・病気の進行が早くて思いがけないほど早い別れであったこと、など
お話を聞いていくうちに、悲しみの深さがしのばれる気がしました。
その人が、生活上の変化をどのようにとらえるか、十人十色です。
一般的な傾向を知っておくことは、必要なことですが、その人を理解するには、ちょっと足りない・・・
同じようなことが起きてもその人がその変化や出来事をどのようにとらえているかを知ってあげなくてはいけません。それは「聞くこと」に尽きると思います。
確かに妹が70歳を過ぎて離婚すれば、気がかりではあると思うのですが、それにしても?と思いました。
ところが、お話をよくうかがっていくと、この方の場合は
・妹さんが離婚により経済的に困窮する事が目に見えている。
・それにもかかわらず、援助できる余裕がない。
・さらに、入院中であり、簡単には回復のめどが立たない状態である。
・妹さん夫婦には子供がない。
・一番大切な条件は、本当に仲の良い兄妹だった。
「妹のことが気になって、いつも頭から離れません。子供もいないしこのまま人生を終えるのかと思うと・・・不憫な奴です」
「きっかけ」になったということが、胸にストンと落ちました。
さて生活指導ですが、これは思いがけないくらい簡単ですよ。
「妹さんの事がほんとうに心配で、心配でという生活がもう半年も続きましたね。それだけ気になるときに、趣味も世話役もそれどころではないということはとてもよくわかりますが、今日の脳のイキイキ度チェックの結果はこの半年間の生活のせいで、脳は老化を早めてしまっているということを表しています。ご自分ではどう感じられていますか?」
「そうですね・・・確かに何もしたくないのがいくら何でもと思っています。妹の事を考えているようでいて、考えてないというか、まとまらないというか・・・頭の中に霧がかかっているみたいなんです。これに負けたらいけないということですね」
「その通りです。(脳の機能図を見せながら)体を使うこと、一日1時間の散歩。趣味を復活させること。家の用事も率先してやること。妹さんが精神的に頼れるお兄さんでいてください」
こういう時に、この方のように趣味(郷土史研究、それを小学生に教えること。囲碁)や楽しみを持っている方はほんとにラッキーだと思います。