続きです。
相談事例を整理すると、脳機能テストの結果は大ボケレベルになります。
30項目問診票によって確かめた生活実態は、①~⑩・⑪⑰⑱⑳・21と22は△という結果で、これは中ボケを意味しています。
母子ざる(幼いときは抱きしめて)
大ボケの22「汚れた下着を着る」は最も軽い症状ですから、それがたまにしかないということからも中ボケだということは明らかです。
大ボケの21は、「家族関係がわからない」ということですが、この症状は普通はセルフケアに問題が出てきた後でおきてきます。確認してもセルフケアにはまったく問題がないというところに、答えの鍵が潜んでいます。
「脳機能が悪いのに生活実態がいい」
このような方に会ったら、一番に考えるのが「失語症」です。
聞かざる 言わざる 見ざる(教育環境に注意)
家族の説明に間違いが生じると、家族はここまでも悪くなってしまったとショックを受けるものです。そしてその失敗は見落とされることがありません。
セルフケアにも問題がないのに、突然21に△であっても印をつける時
「家族関係がわからない」のではなく、
「家族関係はわかっていても、上手に表現できない」状態だと考えつかなくてはいけません。
それが「失語症」(マニュアルC 91p参照)です。
「何を聞かれているかがわからない」時に答えは間違ってしまいます。
「答えはわかっていても、それが口に出せない」時にも正答にはなりません。
「答えはわかっていても、口から出る言葉はまったく違うもの」の時にも間違いになります!
東照宮内五重塔
脳機能=生活実態の前提として、脳の老化が加速した時という条件があります。
老化が加速するには「生きがいなく趣味なく運動もしない」ナイナイ尽くしの生活が継続しなくてはいけません。
もうひとつ、必ずチェックすべきこととしてMMSの下位項目の低下順の確認作業があります。
これについては、マニュアルAの巻末データとマニュアルBの第1章を参考にしてください。
この方の場合は、前回のブログに書いたようにMMS の下位項目の低下順が通常の老化加速型とまったく違っています。
とくにMMSが低得点なのに、図形の模写がスムーズな時(立方体透視図も可のときが多い)は「失語症」の可能性が常にあります。
MMSの実施中に「失語症」と気づけたら、家族の生活実態の訴えについても「失語症」に起因するものと、通常の老化加速によるものを分けて説明が出来ますよ。
なるべく早く、検査を実施している時に「失語症」と気づけるようになりましょう。
実は、M保健師さんは「失語症」に気づいていました。
「『緩徐進行性失語』(マニュアルC94p・104p参照)ではないか?」とコメントが付いていました。
一方で生活歴の聞き取りでは、(青字は私の推理)
「H17.5.5一過性脳虚血発作(といわれたということは、後遺症はないといわれたということになる)にて救急搬送。(その後の経過を見ると、ここで左脳に障害=軽い失語症が残ってしまった)
2~3年前から物忘れが目立ってきた。(失語症のことがわからないため、失敗を繰り返し小ボケに入っていった)
H20より投薬開始(脳外科のDr.がボケの薬を出されたのだからやっぱりボケなんだと家族はあきらめてしまったに違いない)
H20.6海馬萎縮あり。(器質と機能はイコールではないのに)」とまとめてありました。
2007.6/21 2007.7/4のブログ「器質と機能」も参照してください。
大猷院(家光の墓所)夜叉門
「緩徐進行性失語」は何時ということなしに段々失語症になっていくという病気です。
このケースの場合はあまりにもぴたりとタイミングよく(実際は悪いことに)脳虚血発作がおきています。
ここで「失語症」という後遺症が生じ、「失語症」が原因のトラブル続きのその後の生活が、脳機能の老化を加速させたと考えたほうが納得しやすいと思われます。
家族は「認知症」と診断され、それなりに納得していますが、それでも何か出来るのではないかと悩んでいる状態です。
ボケはあるのですが、たかだか中ボケの入り口、それよりも、
・思ったことがいえない
・単語や簡単な文なら聞き取れるが、複雑に言われるとわからなくなる
・文に書かれるとよくわかる
・右脳の機能は保たれている
という状態に置かれていることを説明しなくてはいけません。
「失語症」という言葉を伝えるのではなく(診断になるのでしてはいけません)
MMS下位項目の特徴を伝えるのです。
日光駅
M保健師さんは「そういえば、模写の時に、奥さんが『こんなに上手に描けるんだ』とびっくりされました」
「失語症があっても右脳の機能があるほうが脳リハビリは容易なのよね」という私の言葉に
「計算ドリルとかさせていたようですが、違うんですね。
パズルとかゲームとか音楽・制作・・・そうだ、散歩もジムもいいんですね。ジムの係りの人に説明します」と明るく答えてくれました。
M保健師さん、「失語症」とわかったのは立派。
二段階方式を使いこなすには脳機能と生活実態のずれ、MMS下位項目低下順、生活歴聴取そのすべてを同じ重さで考えるようにしましょう。器質検査に惑わされないようにね。
もう一息です。