2023年10月30日、伊豆半島東海岸城ヶ崎海岸からの日の出。
「おお!これは素晴らしい」と思ってくださる方もいるでしょう。
この辺りに住んでいて、東に海がひらけているなら「そうよね。ここではお日さまは大島の向こうから上る」と客観的に納得する人もいるでしょう。
「何の関係もない」とまったく無関心の人も、いやいや悩みが深くて「とても関心を持つどころではない」状態の人だっているかもしれません。
そのうちに日の出。
大島の南に連なる利島、新島にも朝がきました。
毎週木曜日に、新聞の下に週刊文春と週刊新潮の広告が掲載されます。わざわざセンセーショナルな表現で、読者の耳目を引こうとしていることは承知の上で、どうしても読んでみたくなる見出しに目が惹きつけられます。
11月2日号の週刊新潮。
「『梶原しげる』告白
『私がアルツハイマーと診断されるまで』」
(梶原さんはフリーアナウンサー)
上の朝日の写真と同じように、目にした人それぞれの受け止め方は様々でしょう。
一番多い反応は「梶原さんがアルツハイマーになったんだってお気の毒に」でしょう。
もう少し考えると「アルツハイマーっていうことは、今後大変な生活になるってことでしょう?よくカミングアウトされたこと」
いずれにしても、ちょっとでも深く読むと「将来的には日常生活全面も介助されて、それどころか昼夜逆転、徘徊、家族の顔もわからない。その他口にするのも憚られるような将来が待っている…」という感想につながるはずです。
城ヶ崎の吊り橋まで行くと太陽はしっかりのぼっていました。
私の感想は、全然違うものでした。
「また!側頭葉性健忘症をアルツハイマーという大間違いを!
そもそもアルツハイマーは人の名前であって、病名ではない。普通に社会生活を営んでいるのに、若年で発症して一気に進行してしまうのがアルツハイマー病。高齢者が、何かのきっかけで生きる意欲を無くして、ナイナイ尽くしの生活(生きがいもなく趣味や交遊を楽しまず、運動もしないような生活)を続けるうちに、使わないから働きが落ちる廃用性機能低下を起こして、数年もかけて徐々に自力で生活ができなくなるところまでいくのがアルツハイマー型認知症。
アルツハイマー型認知症はとにかく早期に見つけて脳をイキイキと使う生活に変えることで十分に改善させることができるのに。
認知症予防は、誰に聞いても『ボケたくない…ボケるくらいなら死んだほうがいい』というように個人の問題でもあるけど、介護費用が年間13兆円(2021年)にものぼって国が立ち行くかどうかという状況なのに。
予防も改善もできるアルツハイマー認知症が、認知症の90%以上を占めているのに。
国民が認知症というものを理解して、自分の問題として立ち向かって欲しいのに」
怒りというよりも悲しみが押し寄せてきました。
最近は本屋さんに行かなくても、自分のパソコンで週刊誌が読めます。
「徹子の部屋」収録時のことだったそうです。どういうやりとりだったかは、生で確認したい。
文字になっているのは、言葉の情報として理解する(左脳中心)のですが、コミニュケーションは表情や仕草、言葉の大小、高低などたくさんの情報(右脳中心)を処理しないと成り立ちません。つまり生のコミニュケーションにはそれだけの梶原さんの脳の働きが現れているということになります。
ほんとうに便利な世の中になっています。
TELASAというテレビ朝日の過去番組を見ることができるアプリがあって、それを使ってみてみました。
この写真でもわかるように、この穏やかな表情…番組途中での困惑の表情。ユーモアに包み込もうとする努力。
よくよく注意して聞いていくと、徹子さんの上手な誘導があってはじめて会話が成り立っていくところが見えました。直前の記憶が入っていかないのですから当然ですが、とくに気をつけていないと、会話はスムーズでチラッと違和感を感じても会話の流れに乗って視聴することはできると思いました。
いっぽうで、側頭葉性健忘症は、発症する以前の記憶は確実ですから(と言っても、高齢者は誰でも忘れていることは多々あります)結婚に至るエピソード、妻への愛情や感謝、妻の難病への理解。娘や孫の説明など、困惑や澱みは一瞬もなく生き生きと自分らしく語ることができます。
ハッピーハロウイン
記銘力がきかないため(つまり新しいことが覚えられない)に、幾つもの失敗をしたエピソードが語られました。「覚えられていない」というフィルターをかけると、ほとんどの事件はクリアに理解できます。
しかもその失敗が始まった時期が「だいたい去年の夏頃から」というふうに言えるのも側頭葉性健忘症の特徴です。
いずれにしてもアルツハイマー型認知症は、前頭葉機能低下から始まります。
その人らしさが消えていくのです。「以前なら考えられない」「おばあちゃんじゃあないみたい」とごく初期から家族が訴えます。その後「同じことを尋ねたり言ったりする」と記銘力の問題が出てきます。
側頭葉性健忘症の場合は、前頭葉機能が正常のまま、新しいことが覚えられないという症状が先に出てくるのです。
アルツハイマー型認知症の介護をしたことのある人が側頭葉性健忘症の人を見ると「これは違う。私が世話をしたおばあちゃんとは全く違う。おばあちゃんがボケなら、これはボケじゃあない。これがボケならおばあちゃんはなんだったの」と異口同音に言います。
脳機能、時に前頭葉機能という物差しを持たないと、こんなことが罷り通ってしまいます。
この間違いは世界中に蔓延っています。その理由はアメリカ精神医学会で使われているDSM(精神疾患の診断統計マニュアル)の認知症の要件の筆頭に「記銘力障害」があげられているからです。
認知症専門医であるほど重度の認知症患者に対応することが多いでしょう。日常生活の自立ができない、徘徊、不潔行為、粗暴行為などを訴える患者さんばかりを診て認知症と診断し続けたドクターにしたら、記銘力障害だけを訴える患者さんを、初期の認知症と診断するのも理解できるような気がします。
脳機能を考えないからともういちど言わせてください。
1枚目の写真とちょっと違います。色に注目してください。日の出の写真でも認知症の理解でも着眼点は大切です。
付言。
ブログのカテゴリー「側頭葉性健忘症」をお読みください。
もしも身近にいらしたら「新しいことを覚えることができない」この状態を治すことは現在の医学では考えられないのです。
ならばこの状態を、カバーしつつ日常生活を工夫するしかありません。
全部録音している青年もいます。
メモを取り続けている人もいます。
私がおすすめするのは、携帯に便利なように大きすぎないノートを用意します。1ページを1日と決めて、そこに予定、起きたことを書いていくという方法です。そして1日の決めた時間、起床時、食事やおやつの後などに確認するのです。身につくまで少し手間が必要な場合もあるでしょうが、視聴力に問題がある時のメガネや補聴器と同じ考え方です。
もう一つ。
側頭葉性健忘症を本人も周りも理解して、できる限り生活を維持することを考えてください。自信を失うような出来事が続きますから、それに負けて閉じこもってしまいがち…そうすると…
そうです!ナイナイ尽くしの単調な生活は前頭葉機能の低下をすぐに引き起こします。それこそがアルツハイマー型認知症への扉が開かれたことになるのです。
たとえ側頭葉性健忘症になられたとしても、どうぞくれぐれも前頭葉に気をつけて、自分らしい人生を完走されるようにお願いします。
by 高槻絹子