「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の根本的な問題点、特に若年性認知症の臨床的分類に関する考えをまとめておきたいと思います。
わざわざ「共生社会の実現を推進するための」という冠語をつけて、認知症基本法が6月14日成立しました。私の知る限りではニュースの扱いは小さなものだったように思いますが、どうでしょうか?皆さんは関心を持ちましたか?
冠語の意味は、いろいろな思いが込められていると思います。例えば産経新聞の見出しには「認知症基本法が成立 尊厳保持、本人の意見反映」と表現されていました。この見出しは「共存」に触れていませんが、2025年には認知症者が約675万人になると予測されている認知症 、これは65歳以上の国民の5人に一人という割合になります。共存する以外ないでしょう。
「尊厳保持」や「本人の意見」について基本法はもう少し具体的です。「尊厳保持」とは「認知症の人が尊厳を持ち、希望を持って暮らせる共生社会の実現」であり、「本人の意見反映」に関しては正確には「認知症の人が尊厳を持ち、希望を持って暮らせる共生社会の実現」を「認知症の人や家族らの意見を聞いたうえで基本計画を策定する」となっています。
さあ、今から私見を述べたいと思います。日本のみならず世界中の専門家に対してわかってもらわなくてはいけません。
現在、アルツハイマー型認知症(従来は老年痴呆と呼ばれていたものです)の発病の機序として、アミロイドβやタウタンパクなどを原因にする「仮説」が、日本のみならず世界の趨勢となっています。2002年に提唱されたアミロイドベータ仮説では、アルツハイマー病の病理は次のように説明されています。「まずアミロイドβ(Aβ)が脳の神経細胞外に蓄積し、老人斑を形成すると、タウ蛋白質のリン酸化が起こり、凝集し、神経原線維変化を起こす。次にAβの蓄積の過程で生じるオリゴマーや神経原線維変化が神経細胞の機能障害を誘発し、細胞死に至らしめる」
このような状況の中、今話題になっているレカネマブのような認知症治療薬の情報や、以下のような記事を読むと、アルツハイマー型認知症の薬物治療の道が広がる研究が進むことを願うのは当然の心理でしょう。東京医科歯科大学HPより。
「東京医科歯科大岡澤均教授の研究グループは、東京都健康長寿医療センター、名古屋大学、自治医科大学、慶応義塾大学、国立精神神経医療研究センター、国立シンガポール大学、バロー神経学研究所などのグループとの共同研究で、アミロイドベータ細胞外凝集の出現前の超早期段階に生じる細胞死が、その後のアルツハイマー病態進展の鍵を握ること、また、この細胞死を標的とする治療法(発症後にも適応可能)の開発が可能であることを実験的に示すことができたと国際科学誌Nature Communicationsに、2020年オンライン版で発表した。」
上記発表から転載して、アルツハイマー認知症治療薬のそもそもの流れをまとめてみましょう。
「アロア(ママ)・アルツハイマー博士が1904年に初めて報告したアルツハイマー病は銀染色での病理所見に基づいており、この時は物質沈着の有無も、それがアミロイドかどうかも分からなかった。その後、1980年代半ばに沈着物質が40アミノ酸ほどのアミロイドペプチドであることが解明され、さらにその元となる遺伝子がクローニングされた。これを受けて、1991年にJohn Hardy博士とDavid Allsop博士が、細胞外アミロイド沈着がアルツハイマー病の原因であるという仮説を提唱した。」
その後世界中の製薬会社がアミロイドβに標的を当てて創薬研究を行ったのですが、すべて失敗。その投資総額は60兆円超とも言われています。そして事業撤退やアミロイドβ仮説への疑問視まで起きてきました。その中での上記研究です。
ところが、私たちエイジングライフ研究所はここに大きな疑問を感じないわけにはいきません。
1.アルツハイマー博士が見つけた患者は、あまりにも普通の認知症と推移が違う。という前提が消え去っています。その違いは次の2点です。
①年齢が若い。受診時は51歳。死亡時は56歳。
②年齢が若いこと、症状の重症化が早いことなどの理由で死後解剖をしてみたら、脳の萎縮と老人斑(アミロイドβの沈着)と神経原繊維変化(アポリポ蛋白由来)が目立った。
2.診断の流れとしては、アルツハイマー博士は、当時老年痴呆(Senile Dementia)といわれていた「普通」の認知症の病態とあまりにも違う上記2点の特徴があるということでわざわざ「アルツハイマー病」と名付け区別しました。ところが1960年代に盛んに行われた臨床病理学的研究から、終末期の脳の解剖所見が同一のものであるとの結論に至り、それに伴いすべて「アルツハイマー病」と呼び65歳未満を早発型、65歳以上を晩発型と年齢による区分だけになったのです。
3.我が国においても、厚労省が2012年「若年性認知症支援のガイドブック」を上梓した時には、アルツハイマー病とだけ記載されていて、そこにはすでに早発型の文言すらなくなっています。
私は、浜松医療センター脳外科(脳精密検査外来)で認知症を恐れて受診する人たちに対して、脳機能検査や生活指導をしました。1985年ごろから始まったこの外来は、当時まだ日本にはなかった脳外科医の診断ということで、日本各地から年間約2000人という多数の受診者がありました。もう一つ特筆すべき点は、その受診者は正常者からセルフケアすらできないレベルまで、さまざまな重症度の人たちであったということです。(1997年退職)
いま、さまざまな重症度と表現しましたが、一般的には認知症の重症度は周りの人の介護困難度で決まるともいえるでしょう。その時には人間関係が影響しないはずはないし、家族ともなれば長い歴史まで反映されることになるのです。ところが浜松医療センター脳外科では、もともと手術や投薬による効果測定は、発足当時からすべて客観的な脳機能検査をベースに行うのが当然でした。そのうえ脳外科的な検査設備はすべて整っていてCT、MRI、SPECT最終的には日本にまだ数台というPETまで駆使できる恵まれた環境で、脳機能検査という独自のツールを持って多数の認知症患者に対応しました。
臨床の中でないとわからないことがあると思います。脳精密検査外来でクリアにわかったことを列挙すると
1. できなくなっていく脳機能に順番がある。
2. その機能に呼応した症状が緩やかに進行する。
3. そのため病態も重症度に沿ってまとめることができる。
4. 改善するためには、早期発見が必須。(症状からではなく脳機能低下の初期をとらえる)
5. 高齢者がほとんどである。
6. 共通した生活実態がある。(何らかの出来事をきっかけにした無為な暮らしの継続)
受診者の累積数が積みあがるほど、90%以上が上記1~6に当てはまるという結果で、これこそがアルツハイマー博士の時代に老年痴呆(Senile Dementia)といわれた認知症の主流をなすものでアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病晩発型)というべきものだと確信しました。アルツハイマー博士の提唱した、若年発症や急激な症状悪化をきたすアルツハイマー病とは全く違う病態であることに注意してください。
7. 上記に一致しない場合は、珍しいタイプ。全受診者の10%程度。
①アルツハイマー病(アルツハイマー病早発型)。詳細後述。
②脳の器質的変化によるもの。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など。
③厳密な意味での脳血管性認知症。
後遺症がそのまま認知症症状となるタイプは、全卒中の5%程度。損傷部位もだいたい特定できる。認知症の定義は「いったん完成された脳機能が全般的に衰え、社会生活や家庭生活に支障が起きる」だが、「全般的」なのかどうかは脳機能検査をしてみるしかない。そのほとんどは卒中を起こした側を原因とする機能低下が主でそれはあくまでも後遺症。一般的に言われる血管性認知症は卒中後に後遺症に負けて無為な暮らしを続けた結果、後遺症以外に脳機能低下をきたし、全般的な脳機能低下を起こしているもので、このタイプは、血管性認知症ではなくアルツハイマー型認知症。
④入力障害が主症状の、感覚性失語症(卒中や事故後の後遺症)。
話すことは流暢でも、聞き取りが悪いので、頓珍漢な行動が多く認知症と間違えられる。
⑤卒中や事故を起こさないのに、左脳や右脳に変性が起こり、次第に機能が低下していく原発性失語、原発性構成失行。鑑別できる医療機関が少ない。
⑥新しく記憶することができない側頭葉性健忘症。
覚えられなくなった時がいつか、ある程度わかる。前頭葉機能が健全なのでその人らしさが保持されている。状況判断ができ恥じらい・抑制・創意工夫・ユーモアなど健在。
⑦付記。
③や④のように発症した時は、脳機能低下が限局的であっても、自信を失ったり大事を取り過ぎたりして無為な生活を続けることが多く、脳全般の機能低下につながることになって、アルツハイマー型認知症になっていくのです。もちろん⑥の側頭葉性健忘症も同じです。ここからも脳機能検査を行って、早期に状態を把握して、適切な生活指導が必須ということがわかります。
エイジングライフ研究所が、全国400以上の市町村で指導展開した認知症予防活動を通じてもアルツハイマー型認知症は90%を超えました。そのほとんどが高齢者のため、分類の問題は「若年性認知症」に集約されます。
次に、厚労省のスタンスを見てみましょう。
「若年性認知症支援のガイドブック」によれば、下表のように20歳や30歳未満の「認知症」者がいることになっています。もちろんアルツハイマ―病(早発型)も皆無とは言えませんが、あまりにも発症者が稀ですから、これは、多分事故による後遺症を持っている人たちをカウントしたのだと思います。(ごくごくまれに、年若くても脳卒中を起こす場合もあります。)
種類のグラフです。厚労省(若年発症)
エイジングライフ研究所(全認知症)
認知症の定義として「いったん完成された脳機能が全般的に衰え、社会生活や家庭生活に支障が起きる」といわれます。「全般的」なのかどうかは脳機能検査をしてみるしかないのですが、保険点数が低いなどの理由でほとんど行われていないのが現状です。脳にダメージを受けた後の後遺症は、損傷を受けた半側にとどまっている限りは、認知症とは言えません。このような基本的なことすら見ようとしないのが、我が国の専門家たちだということになります。
付言すれば、認知症を専門にしている研究者は生身の患者に接することが少なく脳のアミロイドベータや神経原繊維変化や神経伝達物質などの「研究」に注力し、認知症専門医ということになればなるほど、重症化した患者を診ることになるでしょう。つまり、正常な高齢者がしだいにセルフケアもできなくなっていくという経過を無視し、世の中に存在している一般的な傾向からも遠ざかってしまいがちで、その結果がアミロイドベータ説に固執することにつながるのだろうと思います。
厚労省による若年性認知症の内訳ですが、血管性認知症は、脳機能から判断する視点がありませんから、正確に診断すればそのほとんどは脳卒中後遺症でしょう。頭部外傷後遺症を認知症と呼ぶのは間違いです。前頭側頭変性症やレビー小体型認知症は基本的には高齢者に発症するといわれていますが例外はないといいきれないところから、カウントされていると思います。前頭側頭変性症は症状から診断するのが通常ですから客観性に欠けるといえなくもありませんし、レビー小体型認知症は死後の解剖所見から確定診断をしていたわけですからこの数値の信ぴょう性にも疑問が残ります。アルコール性認知症と診断するにはいくつかのステップが必要です。
何もかもごちゃ混ぜにしているのはなぜかと驚くばかりです。理由は一つです。脳機能から症状を理解することをしないからです。厚労省のグラフでは表れていませんが、発症年齢だけで分類する厚労省のやり方によると、若年性認知症といわれている人たちの大部分は側頭葉性健忘症です。
ただしこれを認知症と診断するのははっきり間違っています。その経緯をまとめてみます。
側頭葉性健忘症
「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」これは2006年国連で採択された世界障害権利条約の合言葉ですが、「認知症者の声を聞いて」とか「忘れるだけだから、そこに対して寛容に」「急がせないで。失敗も許せるような社会を」などと「認知症」の当事者が、発言し始めました。この最初は1995年46歳で「認知症」と診断(誤診)された当時豪州政府高官であったクリスティーン・ブライデンさんでしょう。
クリスティーン・ブライデンさんのデビューが鮮烈だったので、それに導かれるように側頭葉性健忘の人たちが声をあげたのです。日本でも、いろいろな方の講演が開かれたり、テレビ番組の特集があったりします。これは全部「認知症」ではありません。側頭葉性健忘症という認知症とは別の病態です。脳機能から説明すると、前頭葉機能は正常で、記憶に関する機能だけに問題が起こるのです。認知症のように徐々に進行するのではなく、「あのころから記憶障害が始まった」といわれることがほとんどです。もちろん少しずつは進行してどんどん問題が明らかになってきます。
実は私のブログにもカテゴリー「側頭葉性健忘症」としてたくさん紹介していますので、興味がある方はぜひお読みください。すべてが本人または家族からの情報で書いてあります。https://blog.goo.ne.jp/ageinglife
テレビも雑誌も「認知症」についてもっと正しい情報を伝えてほしいと願っているのですが、考えたら専門家が理解していないのです。脳機能からみるとすぐにわかることですが、症状からだけ見てしまうと側頭葉性健忘症の人の「記憶障害」だけ前面に出ている状態を「物忘れはボケの始まり」ということばに惑わされて「認知症」の初期と見誤っています。その時前頭葉機能は、万全なのです。前頭葉機能はその人らしさそのものですから、イキイキと自分の主張を表情豊かに自分らしく表現できることになります。ただその直後に自分の発言したことを忘れてしまいます。
「テレビで出てくる人と、うちのおばあちゃんは全く違う。とてもあんなことは言えない。どころか考えられもしない」という声は小さな声としては耳にしますが、大きな声にならないのは「権威あるマスコミが言うことだから間違ってないはず。おばあちゃんとは違うタイプの認知症なのかな?」と思い込んでいるのでしょうか。
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病晩発型)
世の中でごく普通に見られるものです。高齢者が何らかのきっかけで、前頭葉の出番の少ない閉じこもった生活を続けていくうち、段々に脳機能の低下が起きてくる。あたかも歩かなければ筋肉の衰えが加速すること(廃用性委縮)と同じように廃用性機能低下が起きてくるのです。
脳機能を測ってみれば、一目瞭然。最初に機能低下を起こすのは前頭葉。最早期では、前頭葉不合格でも、一般的に使われている認知検査では合格点になります。満点のことすらあって、その時には記憶力の検査項目には何ら問題がないということです。この時は社会生活だけにトラブルが起きるのです。次に、前頭葉機能の低下はさらに進み、認知検査でも次第に不合格になっていきます。一般的に「ボケちゃった」といわれるときには、前頭葉機能は測定不可。30点満点の認知検査MMSE でいえば14点以下、さらに一けたになっていきます。ここまでに7~8年はかかるでしょう。
とてもいいにくいのですが、認知検査で一けたにまで脳機能低下が進んでしまうと、時・所・人に対する見当識はズタズタです。
「時」は、今がだいたい何時ごろかはわかりますが、時によっては昼夜の区別がつかないために夜なかに騒ぐことになります。
「所」は、はっきり認識できなくて自分の家かどうかもわからないときがあります。落ち着かない状況が勃発すると徘徊…
「人」は、「どなたさまがわかりませんが、御親切にしてくださってありがとうございます」と娘に言ってしまい、悲しませることになります。
繰り返しますが、こういう状態になった時、世の中の人は「ボケた」とか「認知症になってしまった」というのです。
こういう脳機能になってしまった人が、どのように状況判断や見通しをしてどのような希望を申し述べることができるでしょうか?
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の「認知症の人が尊厳を持ち希望を持って暮らせる共生社会の実現を認知症の人や家族らの意見を聞いたうえで基本計画を策定する」ということは、側頭葉性健忘症の人々となら十分に考えられます。でも、側頭葉性健忘症は認知症ではありません。
前提が大間違いということです。これは議員立法だったそうですが、議員さんの勉強不足というよりも、厚労省が若年発症を「若年性認知症」と安易に定義づけたことから問題です。そう指導した専門家集団の責任の方が大きいですね。
アルツハイマー病(アルツハイマー病早発型)
生活実態にかかわらず、同じような生活を続けていて、無為な生活をしていないのに急にトラブルが発生し始め、社会生活がすぐに不可能になる。とんでもなく若い年齢で発症する。一旦発症すると進行が速い。脳リハビリが奏効しない。
このタイプこそが、アルツハイマー博士が、臨床上、若年発症と進行が速いなどの特徴があって、それが普通のSenile Dementia(老年痴呆)とは違うということから命名したアルツハイマー病そのものです。浜松医療センター脳精密検査外来の数千人の受診者の中で、このタイプは数十人しかいないのです!(残念ながらきちんと統計的な処理をしていません)
このタイプは本当に珍しいので、国立精神神経センター(当時)で遺伝子検索もしていただきました。そのほとんどは孤発型といって、突然発病するタイプでしたが、私の記憶している中では2例だけ、家族性アルツハイマー病の患者がいました。
「父親や叔父叔母が同様に歳若くしてボケてしまった」という情報から存命中の叔母(父の妹)の方の遺伝子検索まででき、遺伝子異常が発見されました。
もう一人の34歳の男性は、年長の親族にはアルツハイマー病の発病者はいなかったのですが、血縁である弟と一人娘の遺伝子検索をしました。弟には遺伝子異常がなく、一人娘には見つかってしまいました。その娘さんが発病する可能性がある20〜30年後には治療も確立されているだろうと淡い期待を持ったのですが、いまだに治療法は確立されていません。付言すればこの遺伝子異常は、それまでは日本人にはないとされていて、アルツハイマー病は人種による発病の差があるという定説を覆すことにもなりました。
アルツハイマー病と診断することは、治療法も確立されていない、進行が早く、2~3年で意思疎通もできなくなる、孤発型として発症しても遺伝していく可能性がある。などよほどの覚悟を持って伝えなくてはいけない診断です。それなのに、最近はアルツハイマー病と容易く口にしている人たちがたくさんいます。それは専門家であっても、マスコミであっても共通しています。
原因は明白です。前述したように1960年代に盛んに行われた臨床病理学的研究から、終末期の脳の解剖所見が同一のものと断定され、アルツハイマー病早発型・晩発型ということにしたところからです。
ここで重要なことは、病理学的研究ということは「死後」の研究ということです。アルツハーマー病(早発型)の人たちの剖検と、アルツハイマー病(晩発型)、正確に言うならばアルツハイマー型認知症の人たちの剖検の結果が、脳の萎縮・老人斑・神経原繊維変化と同様であっても、それが発病の原因ととらえるのは、無理があります。結果から原因を推理しているにすぎないと思います。
最終段階だけ見ていて、病態の推移という観点がすっかりないのです。臨床で生身の人たちを見ていると、とても同じメカニズムとは思えませんでした。アルツハイマー病(早発型)の場合はあらがう方法もなく急速にその変化が押し寄せてくるのです。その変化は遺伝子に組み込まれていると考えた時だけ納得せざるを得ないようなものでした。一方でアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病晩発型)、の人達は、症状の進行が緩やかなだけでなく、早期であればあるほど生活改善の効果が顕著に表れる。その時老人班や神経原繊維変化や脳の萎縮が大きく変わっているはずもない。とすればこれらの変化はむしろ老化の必然と考えられないでしょうか。
死後の解剖所見からは、原因究明は無理があることを思いつく研究者はいないのでしょうか?
この認知症基本法成立に合わせるように、「オレンジランプ 39歳、パパが認知症?どうする、私!」という実話をもとにした映画が上映されました。私は「これは側頭葉性健忘症に違いない」と思って見ましたが、その通りでした。「オレンジランプ 39歳、パパが側頭葉性健忘症?理解しました、私!」なのです。
「(若年性)認知症」ではなくほんとうは「側頭葉性健忘症」です。
世界中で誤解している「若年性認知症」どうすれば誤りを正すことができるのでしょうか?
なかなか、この原稿が書きあがらずにいたのですが、衝撃的なニュースが8月26日飛び込んできました。なんと政府は来年度からの認知症対応国家プロジェクトとして、「認知症克服へ200億円超。創薬や神経再生研究強化」へ舵を切ったそうです。マーモセットを使って研究をするそうですが、マーモセットには前頭葉機能はないのです。
脳の使い方としての生活習慣病という認知症の本質からかけ離れないことと、予防ができることを国民に知らせることが、最も大切で国民からも求められていると思います。
by 高槻絹子