長いお付き合いをしている友人から電話がありました。離れているのでほとんど会うことはありませんが、ときどき電話で近況報告しあってる友人です。一番近くの電話はこの春だったでしょうか。
でも、元気がない・・・持病を持っているご主人の状態がよくないことを聞いていましたから、「もしかして?」と想像してしまうような声音でした。(今日の写真は高校生の孫が所属している生物部の文化祭展示から)
結論を言いましょう。
ご主人は亡くなるどころか一時の危機を脱出。元気になられたとのことで した。
今日の電話は小ボケから回復していってる人の様子がよくわかるものでしたからご紹介します。
「お約束の野菜送れなくてごめんなさい」というお詫びの言葉から電話は始まりました。
「あまりにも体調が悪いものだから、疲れが取れないし、頭が痛いし。病院に行って調べてもらったら心房細動だったの。このまま放っておくと心不全なんだけど、お薬が出て様子を見ることになって、それはそれでいいんだけど」
そのたびに私の言葉が入りましたが、それは省略。
「私ボケたんじゃないかってとっても心配なの。おじいさん(ご主人)からも『ボケてるぞ』ってよくいわれるし・・・」
「今朝も、おじいさんが透析の日なんだけど、ちゃんと準備して『さあ出発ですよ 』と声をかけて、『免許証の入ったバッグを』と思ったら、いつものところにない!それこそ家じゅう、絶対置かないところまで探してもない!
おじいさんは『免許のないものに運転させられない!」と(多分怒って)、自分で運転して行っちゃった」
「え。運転できるようになられたの?」
「そうなの。おかげさまで持ち直してほんとに元気になってくれたのよ。春頃はどうなることかと思っていたけど」
「おじいさんがいなくなって、またゆっくり考えてみたの。昨日夕方スーパーに買い物によったんだけど、普通ならあのゴロゴロ引っ張る、あのなんだっけ(カートと教えてあげる)、そうそうカートを使って、手前の小さなところにバッグを置いて買い物して、車まで持って行って、その後どんなに離れていてもちゃんとカートを返しに行くんだけど(全くその通りの人。姿が見えるようです) 、買い物が少なかったのでカゴだけにしたのね。そこから先ははっきり覚えていないけど、買い物はして帰ったから支払いはしてる訳でしょ?それならそのスーパーにあるかもしれないと思って、電話してみたの。
『はい。店員が見つけて保管しております。布製のバッグですよね?』って言ってくれたの。だから、ありました」
「よかったねえ!」
「それがね、こんなことばっかり起きてるの。私ボケたんじゃないかと思って心配で心配で。
先日もお彼岸だから、お花を買ってお供えしようと思っていつものお花やさんに行ったのね。一束100円の花を五つ買って、10円玉 五つ並べて支払ったの。考えられる?こんなこと。お花やさんは笑って『足りません』って請求してくれたけど」
「ほかに『何か違う』って思うことある?」
「ウーン。なんというか何でも面倒というか、どうでもいいというか。
やりたくないという程、積極的じゃないんだけど、気が付くと何もやってないような気がする。もちろんおじいさんの食事作りとかはやるんだけど、正直面倒だなあとか思うし、気が付くと同じものばっかり作ってる。
人のことどころか、おしゃれするのも面倒だし・・・」
「パッチワークとか洋裁は?(退職後に趣味のサークルだけでなく洋裁学校まで通ったひとなのです)」
「それがね、夏の喪服をリフォームし始めてそれが途中になったまま。そうよね。私って途中で投げ出したりはしないタイプだものね。夏、暑いからと思って何もしないことを許してたけど、去年だって一昨年だって、夏もチョコチョコ楽しみで作ってたもの」
「春、台所仕事もつらいって言ってたでしょ?腰痛はどうなったの?」
「ありがとう。おかげさまでずいぶんよくなってきたの、不思議なことにおじいさんの調子がよくなるにつれて私の腰もよくなっていったみたい。 畑はまだまだだけど、家の中だったらほとんど問題がなくなったの。
腰が痛い時はそのことばっかりだったけど体の方がよくなってきたから、よけいボケたんじゃないかって心配になってきたのかも」
「『今は大丈夫』と思う」と、私。
「なぜ、『今は大丈夫』なの?」と尋ねてきました。
「あのね。いつも言うように小ボケって前頭葉機能がうまく働いていない状態でしょ。そういう状態になったら、自分のいいたいことを的確にまとめて誰かに伝えることがとっても難しくなってしまうの。
(小ボケの方に対応したことのある保健師さんは 、ここで膝を打ったでしょう(笑)
小ボケの人の話の分からないこと!それなりにたくさん話してくれるのですが、話があっちに飛んだりこっちに来たり。一つのテーマ例えば子供の話で進んでいってるうちに、別のテーマ例えば兄弟の話にすり変わっていたり。またその時に、そう指摘すると「あ。ちょっと思いついたからお話ししておこうかと思って」などとそれなりに対応されたりして。ほんとに困りますよね)
先ほどの話は、そのままその場面が見えるように とってもよくわかった。何なら、今ここであの話を再現してもいいくらいよくわかってる。
前頭葉がちゃんと働いていない時はこういうことはできないの。だから、今は前頭葉はよく働いているって言ったのよ。
実はね、バッグ事件もお花事件も齢をとった人なら、だれでも思い当ることがあるような事件なのよ。だからあんな事件があったからといってボケ始めてるって思うことはないの。
前頭葉さえしっかりしてれば、反省して『今度は気を付けよう』って思ったでしょ。ちゃんと気を付けたら大丈夫だから!
万一もし起きても今回のように家じゅう探すとか電話してみるとか、前頭葉が打つ手を考えることができるから心配して待つことはないのよ。
それより、多分夏ごろまで前頭葉の元気がなかったんじゃないかと思うの。小ボケの道に入ってたか、少なくとも小ボケの方向を向いてたはずよ。
春の電話の時から気になってたんだけど、脳の健康にとって状況が悪すぎるなあって。
二人暮らしでどちらか一方が病気やボケが進んでくると、もう一方 の前頭葉の元気がなくなって小ボケになることはよくあることなの。お世話に手が取られるし、この状態がいつまで続くかもわからない。趣味の会を楽しむどころか外出さえままならなくなるでしょ。こんな生活がいつまで続くのかと暗~い気持ちにもなるよね。ご主人は難しい人だから体調が悪いと余計ひどい言葉も出るだろうし。そのうえ腰痛って言ってたでしょ。
こういう状況の時に、というのは脳をイキイキと使えない状況の時にってことなんだけど、前頭葉から元気をなくしていくものなの。
いつの時でも、あなたらしく生きてきたのに。がんばったり、喜んだり、落ち込んだりしながらでもあなたらしく生きてきたのに、今回ばっかりは負けてしまったのね。あなたらしくない生き方しかしてこなかったでしょ。どうでもよくなってしまってたでしょ。
ご主人がよくならなかったら、腰痛ももっと悪くなっていたりしたら、小ボケの道を一歩一歩と進んではっきり小ボケになっていたと思うの。
幸いにも、どちらもいい方向に変わったので、元気を取り戻しているところだと思ったのよね」
「ちょっと泣かせて。ほんとにその通り…」と聞こえました。
「私、少し元気になってるのね。それもよくわかる気がする。 ほんとに悪い時は電話もしなかったと思うから。
実は脳を元気にする本も買ってきたの。ドリルとかついてるのだけど。ドリルはちょっとだけど四文字熟語とか結構面白い」
「ウーン、もっと元気にならなくっちゃあね。ここ、しばらく脳を自分らしく使わなかったってことはわかったのね。だから、前頭葉が元気を失ったってこともね。じゃあどうすることが脳をよく使うことかというとね。
何かやるでしょ。やり終わった時に楽しくて『あっという間に時間がたっちゃった』と思うようなことなのよ。
その本の勉強もいいけど、あれだけ好きな洋裁とかパッチワークとか、デザインを考えてる時でも布を選んでいるときでも、時間はどう?あっという間に経たない?今日の私との電話だってもう20分も経ってるけど、どう?
楽しいことを探してやるのよ。
さしあたって、喪服のリフォームを完成させなくっちゃあね。できたら教えてね」
「物忘れ外来に行こうかと思い詰めてたけど、お電話してよかったぁ。ありがとうね。楽しみを見つけるのよね。がんばるからね 」
下の図を基にした途中の説明を省略しました。