栃木県内への医学部新設に、県医師会は反対する立場を明確にしている。一方、大田原市を拠点とする国際医療福祉大は医学部の設置をめざしている。医師不足や医療崩壊が叫ばれるなかで、医学部新設は何が問題なのか、課題を探った。
■「教員に人とられる」 県医師会
県医師会の太田照男会長は今年1月、宇都宮市内で開かれた新年会のあいさつで、県内への医学部新設に反対の立場をとることを明らかにした。昨年末には文部科学省と日本医師会に対して、県内への医学部新設に反対する要望書を提出。理由について「医学部が新設された場合、勤務医が教員として地元の病院から引きはがされ、医師不足に陥る。医師の養成には最低でも10年はかかり、新設しても医師不足はすぐには解消されない」ことを挙げた。
医学部の新設は1979年の琉球大を最後に認められていない。医師が過剰になるのを抑えるためだ。しかし、地方の深刻な医師不足を背景に、国は2008年以降、既存大学の定員を増やす政策に転換。入学定員は07年度の7625人から11年度には8923人と、5年間で1298人増えた。
民主党は09年の衆院選マニフェストで「医師の養成数を1.5倍にする」としており、医学部の新設は「最小限度にする」としながらも、新設を認める方向を打ち出した。政権交代で医学部新設をめざす大学の動きも活発になり、国は10年12月、文科省に有識者による検討会を設置した。
しかし、日本医師会は「医療現場の即戦力にあたる医師が引き抜かれ、医療再生の妨げになる。医師の過剰を招く恐れがある」などとして、新設には反対の立場をとる。全国80の国公私立大と付属病院でつくる全国医学部長病院長会議も同じ理由で反対している。歯科医や弁護士が過剰供給になっている現状もあり、人口減少社会でこれ以上の医師増加は必要ないとする声が根強い。
検討会は約1年かけて議論してきたが賛否が分かれたまま、新設については賛否両論を併記する形で論点をまとめ、昨年末から今年1月にかけてパブリックコメントを実施した。今後の方向性はまだ出ていない。
■誘致、期待と様子見と 県
県内では国際医療福祉大が医学部の設置を目指している。太田会長は、すでに自治医科大(下野市)と、独協医科大(壬生町)の2大学が県内にあることを挙げたうえで、反対する理由について「国際医療福祉大が経営する大学病院と塩谷病院でも、そもそも医師が足りていない。そこに医学部ができたら、地域の病院から医師が教員として引き抜かれてしまい、地域医療が崩壊する」と懸念する。
とはいえ県内の2大学はいずれも県南にあるうえ、全国の地域医療の充実を目的とする自治医大の学生は卒業後、地元に帰って栃木県内には残らない、独協医大には開業医の子弟が多く長期にわたって勤務医を務めることは望めない、などの指摘もある。
厚生労働省の必要医師数実態調査(10年6月1日現在)によると、県内全域で現在の医師数2836.1人に対し、486人が不足、県北医療圏では223人が不足しているという結果が出た。
県は自治、独協両医大に地域枠を設けたり、医師不足が特に顕著な産科や麻酔科などの希望者が県の修学資金(奨学金)を受けた場合、貸与年数の1.5倍の期間、県内で勤務すれば返済を免除するなどして医師確保に取り組んでいる。しかし、人口10万人あたりの医師数は205.3人(10年12月)と、全国平均(219人)を下回っている。
新潟や静岡、神奈川県など、行政が医学部誘致に積極的なところもあるが、栃木県は誘致には消極的だ。福田富一知事は昨年12月の県議会の答弁で「新たな医学部の設置は、医師数が少ない県北地域にとどまらず、県全域の医師不足の解消や医療の高度化・複雑化に対応した医療提供体制のレベルアップにつながると期待される」としながらも、県から国への要望などについては「国の動向を注視し適切に対応したい」と述べるにとどめた。
■「競争で質向上を」 国際医療福祉大・北島政樹学長
――医学部が新設されると、地域の病院からスタッフがとられ、地域医療が崩壊すると言われている。
「国際医療福祉大は大学病院、三田病院、熱海病院、塩谷病院の4病院に医師が約320人いる。そこから十分補充できる。
基礎と臨床を一体化したカリキュラムをめざしており、臨床実習も大学病院に限らず近隣病院とネットワークを作るため、教員は少なくてすむ。周りの医療機関とのネットワークで実習をすることで、学生も地域医療に関心を持つようになる。近隣の病院の医師たちも教育に参加することで意識が高まり、互いに向上できる」
――医師養成までに最低10年かかる。
「養成に時間がかかるのは定員増も新設も変わらない。今は100人の学生を教える環境に、120人押し込んでいる。これで医療の質が保てるか。医療を受ける国民が安全、安心なのか考えなければならない。
従来の教育のままではなく、新たな教育理念の医学部ができることで互いに競争してもいいのではないか。競争、切磋琢磨(せっさたくま)がないところに進歩はない。新設に反対するのは競争が嫌だということだ。現在の医療費は包括医療制度や地域医療計画などによっても調整されており、医師数が増えることと医療費が増えることは必ずしも相関しない」
――将来、医師数が過剰になるという懸念もある。
「社会保険研究所が今年1月に発表した二次医療圏別の必要医師数の予測では、定員増を行ったとしても、2035年に3万2733人が不足する。女性医師の出産などを考慮すると、4万5282人が不足する試算だ」
――どんな医学部をめざすのか。
「地域に最も必要な総合診療医を育てたい。国際医療福祉大にはすでに看護学科や薬学科などがあり、学生時代から看護師、薬剤師、理学療法士などの他職種と連携したチーム医療を学べるようにする。
また、サラリーマン家庭の子でも意欲があれば医師をめざせるように、授業料を私立大学で最も安い200万円台にする予定だ。奨学金制度も充実させる」
――国の検討会は医学部新設について賛成と反対の両論を併記して、パブリックコメントを実施した。
「全体の6割強は医学部新設に賛成で、反対は2割程度。これが国民の声だ。文部科学省はパブリックコメントを詳しく分析して、国民の声を反映するにはどうすればいいか、責任を持って対応してほしい」
◇
きたじま・まさき 1941年生まれ、慶応大医学部卒。同大大学病院長、医学部長などを経て同大医学部名誉教授。2007年4月に国際医療福祉大副学長兼三田病院長、09年7月から現職。元万国外科学会長。
-------------------------------------------
さて、僕はこの件に関してはパブリックコメントも送りましたけど、「新」になる前から書き続けています。
そもそも「全国医師連盟準備委員会」の発足の時に「医師不足に対して医学部新設をするのはいいけど、教員はどこから持ってくるんだ」とか宴会の時に某有名な先生にぶつけたり、雑誌にも「まずは医局を強くして、教育体制を確立すべき」という意見をぶつけたりしております。
僕は医学部新設に基本的に賛成ながら、今すぐに新設するとこの記事に書いてあるように「教員としての医師」が必要となるので、
1、まず早い段階で医局の教育体制を改善するために、教授をはじめとした医局に属する人間の待遇を改善させる
2、その上で各医学部の医師数を増やし・・・
3、10年後くらいをめどに医学部新設に舵を切る(必要だと思うのですが、その段階であれば取りやめ、設置大学数の制限などができるので)
というPlanを考えていました。これって書いていたの2006年ころからだから、もしその時点でやっていれば・・・今から4年後には第3段階に入っていたのですけどね。
まぁ、はっきり言うとそれはどうでもいいです。
今回は北島先生がおっしゃっているように、大学病院もあり教員も揃えうる数少ない施設だと思います。このようなところは早い段階で医学部新設に舵を切るべきだと思います。他の場所とことなり、僕が不安に思っている教員としての医師数が大量に必要になることから、いろいろな不具合が生じるリスクは少ないと思います。
実際に、国際医療福祉大学だけで対応できるかはわかりませんが、他の場所よりはいいと思います。
確か、うちの大学の卒業生(1期生)で僕の高校の卒業生が、この大学にはいらっしゃったような気がするんですよね。
もう一度書きますが、僕は医学部新設により将来的にはWinになるかもしれないし、少なくとも医学部が新設された地域はWinになると思うが、他の地域に弊害が生じると思っていました。すなわち、その地域がLoseです
今回は大きな体制変化がない。太田原市は少なくともWinでしょうし、他の病院があるところは多少は医師の移動があるかもしれませんが、将来的に医師の供給能力が上昇しWinになるかもしれない。
また、僕もまだ僕が働いているうちはどんな疾患にも効くような特効薬(万能薬)でもない限りは、医師数は不足すると思っています。それは先日書いたように、今はオーダーメイド化しつつあるのです。ここの病気に合わせてより最適な医療を提供しようとする時代に、今まで以上に医師が必要になるのは目に見えている。
こんな記事も今日は出ています。
発見相次ぐ肺がん遺伝子 特効薬の開発急ピッチ 診断キットも
がんのうち、日本で年間7万人と最も多くの人が死亡する肺がん。その7割ほどを占める腺がんは、たばこを吸わない人にも多く発生し、増加傾向が問題になっている。最近、
肺腺がんの原因遺伝子の発見が相次ぎ、これらの遺伝子異常の半数以上は、的確に薬を選んで狙い撃ちすれば、大きな治療効果が望めることが分かってきた。特に、元は別々の2種類の遺伝子がくっついた「融合遺伝子」は強力な"悪玉"だが、これについても特効薬や安価な診断キットの開発が急ピッチで進められている。
▽分子標的薬
肺腺がんを引き起こす遺伝子異常はさまざまだが、
がん研究会 の竹内賢吾医師らのまとめでは、患者の40%に見られる「EGFR」という遺伝子の変異をはじめ、分子標的薬と呼ばれる種類の薬で高い治療効果を得られる遺伝子異常が50%を超える。EGFRの変異にはゲフィチニブ(商品名イレッサ)が、同様に3%の患者に見られる「HER2」の変異ならラパチニブが有効だ。
薬のないKRAS遺伝子の変異(14%)を除くと残りは3割ほど。そこに薬の標的となる未知の遺伝子が潜んでいる可能性があり、発見に向けた研究が進む。中でも注目されているのが、2種類の遺伝子がそれぞれ途中でちぎれ、互いに入れ替わってつながってしまった融合遺伝子だ。
▽競争激化
今年2月、がん研究会と
自治医大 のチームが「新しい肺腺がんの原因を見つけた」と発表した。
「RET」と「ROS1」という遺伝子が、それぞれ別の遺伝子とくっついた融合遺伝子が、1100人の肺腺がん組織の中に1・2%ずつ見つかった。毎年計千人以上がこれらの遺伝子による肺がんで死亡する計算だ。
RETの融合遺伝子は国立がん研究センターなども同着で報告、研究競争の激しさを示した。火を付けたのは、2007年に自治医大の間野博行教授らが発見した「EML4」と「ALK」の融合遺伝子。約4%の患者に見られ、がんを引き起こす力が極めて強い。
しかしALKの働きを抑えるとがん細胞が劇的に死ぬことが分かり、治療薬開発が急進展。昨年8月、クリゾチニブが米国で承認され、今年に入って日本でも販売の見通しが立った。15年かかるとされる抗がん剤開発では異例の早さだという。
クリゾチニブは新たに見つかったROS1の融合遺伝子によるがんにも効くとみられるほか、RETには甲状腺がんの一種に使われるバンデタニブなどが効く可能性も示されている。間野教授は「薬を一から開発する必要はない。適応拡大を速やかに進めればいい」と話し、治療薬の早期登場を期待する。
▽コストと精度
病理診断医である竹内さんは「患者の遺伝子異常のタイプに合った薬で効果的な治療をするためには、正確な診断が重要」と強調する。
異常を見つけるには、採取した検体の中の遺伝子を大量に増やしたり、遺伝子に光る目印を付けたりする方法のほか、ホルマリンで防腐処理したがんの組織をろうで固めてスライスし、異常な遺伝子が作ったタンパク質に色を付ける「免疫染色法」がある。
コストや精度の面で一長一短があるが、多くの病院で使える簡便で安価な検査キットに向くのは免疫染色法とみられる。竹内さんは08年に、ALK融合遺伝子が作るタンパク質を鋭敏に検出する方法(iAEP法)を考案。10年にはキットの開発を始め、約7カ月で販売にこぎ着けた。
竹内さんは、新発見のROS1やRETの融合遺伝子に対する診断法を既に開発、キット化にも意欲を見せている。
---------------------------------------------
的確な診断のための病理医も不足、臨床医も不足、その状況下で医師が過剰になるかもしれないから…というのはどうかと思う。