マーシュの初リーダー作。録音当時(1956年)、ウエスト・コーストで活躍していたマーシュが同じトリスターノ派のts奏者、T・ブラウンと2テナーのレギュラー・コンボで吹き込んだ名作、否、傑作ですね。
ウエスト・コーストというと、どうしてもアレンジ中心をイメージしがちですがが、本作は実にスリリングに仕上がっている。つまり、マーシュとブラウンの「鍔迫り合い」、そしてボールのメリハリのあるPが有機的に絡み合うのだ。このあたり、同じ2テナーの「A&Z」とは、やや趣を異にする。一般的なポピュラリティは「A&Z」の方が遥かに上だが、本作の2人の間に流れる「火花」、ここが聴き所でバラード、スロー、2曲でも然りである。「トリスターノ一派」という閉鎖的イメージを払拭するには、最適な一枚かもしれない。
それに今となっては、マーシュもブラウンも「幻のテナー」といわれ、特に、ブラウンは録音に恵まれず、その存在すら忘れられているかもしれない。そうした意味でも本作は非常に価値のある一作である。
本作での2人のテナーは、なかなか判り辛いが、ザックり言って、やや掠れ気味のトーンで、一音一音の間に変化を付けながら悠然と吹くのが、ブラウン、それに対し、一音一音の間が短く、フレージングが割りとフラットでアタックが鋭いのが、マーシュと思えば、そう間違いはないはずである。
全8曲、それぞれ完成度が高く、パーカーの得意曲‘Lover Man’、チャイコフスキー作品42の3「メロディ」の選曲も興味深い。
タイトル曲での真剣勝負さながらの緊張感もすばらしいが、聴きものは、ラスト曲‘Ⅰ Never Knew’。 この古いスタンダード・ナンバーを高速で飛ばし、ほんと、エキサイティングで、スリル満点。疑いもなくベスト・ヴァージョンの一つでしょう。
なお、本作の二ヶ月後、同じメンバーにA・ペッパーを加え、ブラウンをリーダーにして録音した“FREE WHEELING”があり、こちらも「幻の名盤」として知られる。
オリジナルの一部を加工した国内・初版盤?のカヴァで、結構、味が有ります。
”Bluespirits”(2004.12.27)