jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

実力派B級トランペッター ・・・・・BILL HARDMAN / QUINTET”SAYING SOMETHING”& POLITELY

2024-11-04 | ジャズ・tp

 

右が初リーダー作”QUINTET/SAYING SOMETHING”(SAVOY 1961年録音)、左が1981年に録音された”POLITELY”(MUSE)。両作の間に20年の差があるが、リズム感に多少の違いは有れど一般的な聴き方では時代の差を感じない。フォー・ビートの流れが絶え間なく続いている訳だが、60年代後半から70年代にかけて多くのハード・バッパー達が生き場所を失ったのも事実。ただ、70年代後半から、ハード・バップ再興の機運が高まり、B・ハードマンも爛熟期にリーダー作がSAVOY1枚だったのに対し、80年前後にはMUSEに3枚も録音している。

ハードマンは50年代に、ブレイキーのJ・Mの一員になっているが、一時的、代打要員的な使われ方をされたのか、実力の割に評価、人気は上がらなかった。また、初リーダー作に聴く気も失せる阿保らしいカヴァが使われる不運に泣いた。けれど、TOPの”Capers”(tb奏者、T・マッキントッシュ作)は一度聴いたら、忘れられほどノスタルジックなメロディを歌心たっぷりにtpを鳴らすハードマン一世一代の名演です。他の曲も彼の実力を十二分に表している。

左の”POLITELY”のカヴァはSAVOY盤と対照的ですね。同世代のハード・バッパー達の多くが失墜していった中、キリッとした顔付きと身なりから推察すると、それなりに恵まれた環境下にいるのだろう。つまり、それだけ実力があった裏返しと言える。ただ、本アルバムも不幸の目に遭った。犯人は録音の名手、V・ゲルダー。ハードマンのtp、クックのtsが薄く、紙ぽく耳障りな音になっている。これでは本作の出来映えを云々する以前の問題です。録音とマスタリング(刻印有)を担当したゲルダーの「弘法にも筆の誤り」です。

                             

                                     

 

なお、必殺の名曲、”Capers”はこの”THE CUP BEARERS / BLUE MITCHELL”(RIVERSIDE)にも収録されている。

 

この作品にはもう一曲、C・ウォルトン作の哀愁に満ちた名曲、”Turquoise”も収録されている。


㊙ 愛聴盤 ・・・・・ BREAKTHROUGH & DEBUT IN BLUES / GENE SHAW

2024-05-12 | ジャズ・tp

ガイド・ブック等で紹介される歴史的名盤を始めとする名盤の類だけではジャズの「奥深さ」を計ることは出来ない。今回の二枚は、名盤群とは対岸以上、遥かに離れた作品だが、なかなか味が有ります。

ジーン・ショウはマイルスと同じ1926年(6月)、デトロイトに生れ、tpを吹き始めたのは二十歳位からと、当時としてはかなりの奥手です。なんでもガレスピーを聴き、「この位、オレにも吹けるぞ」と、大ほらを吹き、仲間から「何、バカな事を!」と叱責され、相当凹んだそうです(笑)

ショーがジャズの表舞台に登場したのは、ミンガス・バンドの‘TIJUANA MOODS’(RCA・57年)と‘EAST COASTING’(BETHLEHEM・57年)ですが、傑作と誉れ高い”TIJUANA MOODS”は、ワケあって5年間もお蔵入りの憂き目に遭い、名の浸透が大幅に遅れてしまったようです。そうした不運を乗り越え、ショー、36歳になってやっと初リーダー作としてリリースしたのが、この”BREAK THROUGH”(ARGO)。荒れ果てた雑居ビルの窓からtpを吹くカヴァが意味するものは、タイトルそのものです。

 


演奏スタイルは、所謂、ハード・バップですが、一般的に連想するゴリ味とチョット異なり、独特のアーバン・テイストをたっぷり含んだノリの良い演奏です。でも、甘さに流されない所が、ミンガス・バンド出身のショーの真骨頂ではないでしょうか。
ショーのtpは音色からして地味な部類に入り、大別すれば、例えば、ハバード、モーガンのようにブリリアントで華やかなプレイではなく、むしろマイルス、ドーハム系のタイプで、妙に聴き手の感情を擽りますね。
そうした彼の特長が、この初リーダー作で全開している。また、どこまでもコルトレーン・マナーを貫き通すモリソン(ts)の好プレイも聴きものですし、シンプルながら洗練されたテイラーのpも不思議な魅力があります。

まず、一発目、テイラーのオリジナル・ブルース‘Autumn Walk’で殺られてしまう。‘Autumn’を感じさせるショーのtpと‘Walk’をイメージしたモリソンのtsとのブレンドが実に心地よいです。二曲目以降もソフィスティケートな好曲、好演が続きます。それにしても、まったく無名のモリソンのtsって、ホント、Gooですよ。驚きです!

そして、本盤のキラー・チューンは、ラスト・ナンバー、”It's A Long Way”、ワルツ・ビートに乗って、ショーが揺れながら呻くようにメランコリーなソロを吹き、続いて、コルトレーン本人でも真似できないほど切なくも、やるせなく歌い上げるモリソンのts、そして、センチメンタルなテイラーのp、もう痺れっ放し!!! 完全にノックアウトです。

続いて、

 

ARGOの本拠地、シカゴって行ったことがないけれど、どんな町なんだろう? このレコードを聴くと、忽ち爽やかな「風」が吹き始め、シカゴまで乗せていってくれる気分になる。町全体がソフィスティケートな雰囲気に包まれ、本作の主人公であるショーがオーナーでもあるナイト・クラブ兼スクール‘Old East Inn’のように、粋なジャズが街角のいたるところで流れているようなそんなイメージが湧いてくる。今まで持っていたちょっとアーシーなイメージとはまるで正反対です。

本作が録音された63年と言えば、「モダンジャズ・灼熱の時代」のはず。そんな時、これほど都会的センスに満ちた演奏がされていたとは、驚きを隠せない。しかも、ショーといえば、一癖も二癖もあるミンガス・グループの出身を考えるとなお更である。

タイトルが示すように、全8曲、ブルージーでありながら洒落た演奏が繰り広げられる中、蠱惑(こわく)的とでも言うのだろうか、ショーのtpのトーン、吹き方にぐんぐん引きずり込まれてしまう。ライナーノーツでJOE SEGALはジーン・ショーをデトロイト時代(ショーの生れ故郷)は‘mellow-toned trumpeter’と解説しているが、その後、こうしたオリジナリティのあるスタイルを身に付けたのだろう。
相当な訓練を求められるアレンジの妙、そして共演者の好演、中でも薄味ながらソウルフルなテナーを聴かせるJ・ピータース等々、聴き所も多い。

前作の”It's A Long Way”同様、ラスト・ナンバー”Traverog”でのショーのか細く途切れそうなプレイが聴き手の感傷を激しく刺激する。両作ともラストに決め球を用意するとは、いかにもショーらしいですね。ショーのオリジナリティ溢れる妖しい世界に酔い、溺れるのも、またよし!

ショーはともかく、他のメンバーもほぼ無名で、今更「知られざる名盤」と盛るつもりはありませんが、メジャー、三大ジャズ・レーベルからは生まれないサウンドが実に心地良い。


「今でしょ!」 万年脇役の潔さ・・・・・ NOW IS THE TIME / IDREES SULIEMAN

2023-10-28 | ジャズ・tp

 

50年代後半、プレスティッジの多くのノン・リーダー・セッション作品に名を連ね、一時「幻の名盤」と騒がれた”MAL 1”の”Yesterdays"での味のあるソロ、コルトレーン、フラナガン、バレル達と共演した”THE CATS”等々で知られるI・シュリーマンの事実上の初リーダー作(1976.2.16&17)。M・ガードナーのライナー・ノーツに”Always the bridesmaid never the bride”(常に花嫁に付き添うけれど、決して花嫁にはならない”と言う諺が引用されている。

言葉は悪いけれど、本国・アメリカで需要がなくなったジャズ・マンを蘇生させる能力に長けたスティープルチェイスのオーナー、ニルス・ウィンターは以前からシュリーマンの能力を買っており、いつか彼のリーダー作を考えていたところ、ハード・バップ・リバイバルの最中、ジョージ・コールマンの欧州ツアーの際、リズム・セクションを借りて録音した文字通り”NOW IS THE TIME”(今でしょ!)のワン・チャンスを生かした作品がコレ。今まで、B-1のパーカーの”Now's The Time”をそのままタイトルにしたものとばかり思い込んでいましたが、今回、”NOW IS THE TIME”とした意味が初めて分かりました。なお、シュリーマンは50年代末、既にヨーロッパに渡っている。

 

で、現実問題としてエサ箱で置かれていたとしたら、どうしょう?チラっと見ただけで、そのままスルーしますか? 一応、パーソネルを見て「おっ、tpカルテットかぁ」と思いつつ、「ま、シュリーマンだからなぁ~」と元へ戻すか、それとも「当たるも八卦、当たらぬも八卦」とレジへ運ぶか、なんせ、数少ないtpカルテットですからね。寧ろ、大丈夫?と心配に(笑)。
さぁ、蛮勇を奮って(ゴメン!)レジへ。恐る恐る(笑)針を下し、一曲目、オリジナル‘Mirror Lake’が流れる。呆気にとられ口をポカーンとしている自分の姿が目に浮かびます。このカヴァから想像するシュリーマンのペットとは180度違う明るく、ハツラツと、しかも淀みのないソロに驚きを隠せません。これが、あのシュリーマン?と必ずカヴァを見直しますよね。
で、次のD・ジョーダンの‘Misty Thursday’、このバラードがまたイイんだなぁ。G・ショーの「掠れる」ような音出しとH・マギーの「翳」をミックスした感じのプレイに「おい、おい」と、つい膝を乗り出してしまいます。ここまでくると、もう、シュリーーマンのペースに完全に嵌っていますね。
3曲目の‘Saturday Afternoon At Four’、これもシュリーマンのオリジナルですが、シンプルなリフ・ナンバーで軽快な曲調なのに妙に味が有り、ソロも弾け、とってもGooです。本作の中で一番好きです。A面ラストの‘A Theme For Ahmad’(ホレス・パーラン作)の洒落たボサ・ロックも小粋ですね。

B面に移り、タイトル曲のバップ・ナンバー‘Now’s The Time’他、シュリーマンのオリジナルが2曲続く。‘The Best I Could Dream’なんかもイイなぁ。

俗に「tp
カルテット」はトランペッターの力量同様にpのアシストが重要とされ、作品数が限られている中、ウォルトンのピアノがイイ仕事してますよ。ウォルトン・ファンも、聴き逃せない一作です。敢えてtpワンホーンにチャレンジしたN・ウィンターの意図がずばり成功している。

同世代でリーダー作を何枚も録音している他の一流トランペッターと比べ、スケール感、華やかさ、引き出しの豊富さ等々、確かに引けを取るけれど、自分なりにベストを尽くし、晴れて「主役」に。万年脇役の潔さが一本、貫かれている。


コレクターへの登竜門 ・・・・・DONALD BYRDのTransition盤

2023-02-17 | ジャズ・tp

 

 

一端のコレクターになるまでに幾多の関門をクリアしなければならないが、バードのTransition盤の3枚がちょっとハードな登竜門としてまず浮かび上がります。

先日、DU名古屋で査定を受けている間に、歩いて数分の所にある廃盤屋を知り、初めて覘いて来ました。ジャズ専門ではありませんが、壁に”BYRD’S EYE VIEW”(右上)が飾ってあり、桁を間違えないように注意して見ると、諭吉が30数枚であった。

このオリジナル盤を直に見るのは二度目位ですが、価格はここまで高騰していなかった。最近のオリジナル盤への憧憬の象徴なのだろうか。価格は店側は付けるものではなく、買い手側により決められるものなので別に不適切ではない。つまり、新参のコレクター達が高値を支えている。世の中がまだイン・ドア志向なので値下がりは暫く無いでしょう。ただ、市場がアウト・ドアに舵を切った時、どうなるのか興味深い。ひょっとして、今がピークなのかもしれませんね。因みに、所有盤は蚊帳の外の国内盤(キング)です(笑)。

それはそれとして、もしこの3枚がTransition盤ではなく、他のレーベルだったら、ここまでコレクター達の目を惹き付けなかっただろう。Transitionレーベルはハーバード大卒のインテリ・ジャズ・ファンのT・ウィルソンが設立したマイナー・レーベルで、その非商業的スタンスにより僅か3年あまりで行き詰まり、タイトル数も15枚ほどと希少なため、コレクター達が血まなこになって探す格好の標的になっている。3枚の間に録音された”BYRD’S WORD”(SAVOY MG-12032、55年9月29日)がコレクターズ・アイテムになったなんて話は聞いたことがありませんから(笑)。こちらも蚊帳の外ですが、結構、好きな一枚です。

 

 

バードはトランペッターとしてはA級になれなかったが、意外に根強い人気を保っているのもこの3枚に負う所が大きい。ラッキーですね。

左上が”BYRD JAZZ”(55年8月23日)、右上がBYRD'S EYE VIEW”(55年12月2日)、真中下が”BLOWS ON BEACON HILL”(56年5or6月)。”BLOWS ON BEACON HILL”が「幻の名盤読本」にリスト・アップされている。

70年近く前のこの3枚に「検事の耳」を以って接するなんて大人げないけれど、さりとて「弁護士の耳」で無条件にフォローすればジャズの奥深さを否定することになる。コレクターでもない一般ファンは傍聴席でまだ無垢のバードのプレイに耳を傾けるスタンスが良さそうです。

未確認情報ですが、バードは人柄が良く一時期、「BLUE NOTE」レコードの社長を務めたそうです。

 


やはり文句なしの名盤だった ・・・・・ THE MAGNIFICENT / THAD JONES

2022-12-30 | ジャズ・tp

 

今年の最終便です。「鳩のサド」でお馴染みのアルバムを。

先日、DU名古屋で高額のプライスが付いていた一枚。昔から常連盤なのでさほど驚きはしなかったが、以前の記憶よりかなり値上がりしていた。このクラスは上がることはあっても下がることはないので当たり前と言えばその通りですね。手持ち盤は前回の”INDEED / LEE MORGAN”と同じ再発UA盤です。

ちょっとした思い出があるレコード。初心者の頃、地元のレコード店で時々顔を合わせる内に知り合いになった同い年の慶應ボーイがいた。中学の時からジャズを聴き、知識が豊富でいろいろ教えてもらった。卒業後、レコード店で久し振りに会うと、「最近、新しくオーディオ・ルームを作ったので聴きに来ないか?」と誘われ、出掛けると、次元が違うオーディオ・ルームにビックリした。大きな工場を経営する会社のボンボンで倉庫として使っていた建物を改装し、20坪を超す広さに天井も高い部屋にALTEC A7がでーんを据えられていた。もっと驚いたのは、コンクリートのSP台がフローリングをくり抜き、床下の地面に直に置かれていた。無用の振動を遮断するためです。そこで最初に流れたレコードがコレなんです。今まで聴いたことがない、そんじょそこらのジャズ喫茶でも太刀打ちできない程の音が溢れ出した。二つのSPの真ん中上方の空間に柔らかく、それでいて輪郭が崩れないサド・ジョーンズのtpが浮かび上がり、どう表現したらよいのか言葉を失った。そのころ、安アパートでちまちましたシステムで聴いていたけれど、バカバカしくなり、しばらくの間、聴くのを封印した(笑)。

その後、本作を購入した時、複雑な気持ちで一度だけ針を降ろし今日までそのまま。カヴァにシュリンク(シールド・フィルム)がまだ付いたままなので画像がてかり気味なのはそのせいです。それどころか、B・ミッチェルのtsが入ったクインテットでさえ忘れ、リズム・セクションのメンバーも初めて気が付き驚いたほどです。TOPの”April In Paris”は定評ある名演ですが、ラストの”Thedia”でのミッチェルとジョーンズの長めのソロも負けず劣らず素晴らしいです。

マイルスやエヴァンスを押さえて、あの若さでこの渋い一枚を一番にチョイスした慶応ボーイのセンス、感性は今思えば並み大抵ではありません。言い換えれば、自分の半世紀先を既に聴いていたのだから ・・・・・・(笑)。それ以後、会う機会がありませんでしたが、元気にされているだろうか?

なお、前回の”INDEED”同様、再発UA盤にしては上等な音です。

 

今年も残り一日となりました。一年を振り返ると喜ばしいこと、嬉しいことがありましたが、そればかりではありませんでした。でも、総括してワン・ショットで表すと、こちらです。誰が撮っても同じ景色になるでしょう。けれど、それぞれの想いが籠められ、同じものは一枚もありませんね。

 

 

この一年、訪問を、リアクションを、そしてコメントを頂いた方々、ありがとうございました。

皆さん、よいお年をお迎えください。


所有欲を擽る ・・・・・INDEED! / LEE MORGAN

2022-12-26 | ジャズ・tp

 

少し前、ディスク・ユニオン名古屋へ初めて行った時、確認できた最高値は諭吉が40枚でお釣りがほんの僅かの”INDEED / LEE MORGAN”だった。緑がかったモノトーンが何の説明も要らず”BLUE NOTE”を見事に象徴している。Goldmine誌(2nd Edition、2004年発刊)では、アドレスがLexington Ave.のNMで最高値、W.63rd St.になると、何と1/3に低落する。恐らく、レキシントンものでしょう。ブツのコンディションによりますが、レアものは年が経てば経つほどヴィンテージ価格は上がり続けます。で、自分も持っていますよ ・・・・・・と、胸を張って言いたいところですが、70年台後半?に、直輸入盤として再発されたUA盤です(ガクッ)。

ところで、本アルバムのオフィシャルのタイトルは”INDEED”なのか”PRESENTING”なのか?Goldmine誌を始め、ジャズ本を見ると 通称の”INDEED”でいいようです。

 

 

このUA盤はMONO盤ですが、その時代(70年代後半)、果たしてモノラル・カッティングされているか、不明なので、SHURE44Gに一応、ステレオ盤もOKとされるDUオリジナル?のJICO・N44G MONOを装着して聴くと、これが意外にGooなんですね。ひょっとしてモノラル・カッテイングされているかもしれない。また、RVG印はなく、かえって良かったりして(笑)。

 

 

内容はリアル・タイムで入手して以来の聴き込みですが、「初リーダー作、それもまだ18歳!」というキャッチ・コピー以上でも、以下でもないと、再度、同じ思いをしました。18歳ならではの覇気、若さをもっと前面に出して欲しかった。シルバー、ウェア、フィリーの猛者たちに囲まれ妙に老成し、ビビらないようわざわざ呼んだフィラデルフィア時代の仲間、C・シャープ(as)も一本調子で全体のレベルを下げ、逆効果になっている。この辺り、ライオンの読みからはずれ、規格内に納まっている。

ただ、オリジナル盤価格とのギャップの大きさが、モーガンの人気の度合いと比例し、高嶺の花ですが、所有欲を擽る一枚に違いありません。


密かな愛聴盤 ・・・・・ REー ENTRY / CHARLES SULLIVAN

2022-11-06 | ジャズ・tp

 

現役時代、所用で大阪へ行った際、時間が有れば天王寺の交差点の角のビルの地下にある「トップ・シンバル」に寄っていた。ここは筋金入りのジャズ喫茶、ハード・バップ生一本と言う雰囲気が充満していて好きな穴倉だった。初めて寄った時、レコード・リストを見せて貰うと、このアルバムがあった。本作を置いてあるジャズ喫茶は意外の少なく、まさか、とちょっと驚き、リクエストすると、マスターも「これ、お持ちなんですか」と少々、驚いた様子だった。

C・サリバンと言っても、今となっては首をひねる人の方が多いかもしれないが、一度聴けば決して忘れられない程、素晴らしい出来映えです。

一曲目のサリヴァンのオリジナル”Re-Entry”、アップテンポでドライブ感溢れる演奏は、圧巻。ギュッと聴き手の神経を捉えて離さない。ペットが冴えに冴え渡るし、バロンのpの凄みは今では信じられないほどです。
巷で代表作と言われる”The Moment”の演奏がまるで余興のように聴こえる。いくら褒めても、バロンからは素っ気ない言葉しか返って来ないそうで、それも当然。バロン自身が一番良く知っているからだろう。

一転して2曲目のバラード「ボディ&ソウル」。うぅーん、これも痺れますよ。力量を問われるバラード演奏だが、実に堂々としたプレイに言葉を失う。知られざる名演とは正にこのことですね。

A面はtpカルテットですが、B面はルネ・マクリーン(as)が入ったクィンテットで全て、サリヴァンのオリジナルが続き、これがクールで小粋な演奏が収められている。土台となるバロン(p)、B・ウィリアムス(b)、B・ハート(ds)のリズム・セクションも出色の働きを聴かせる。

 

 

このアルバムのWHY NOTレーベルは、自分の記憶に間違いがなければ、1969年頃、SJ誌が主催した懸賞論文で主席の賞に輝き、その後、ジャズ評論家の道に進んだ悠雅彦氏が、1975年、トリオ・レコードと立ち上げた我が国のジャズ・レーベルで、その内の一枚です。録音は1976年8月17日、NYで行われている。気合はハンパじゃない。

なお、風の便りでは「トップ・シンバル」は10年ほど前?に店を閉められたそうです。記憶に強く残るジャズ喫茶でした。

 


マスト・アイテムの三連荘 ・・・・・ KENNY DORHAM & JACKIE McLEAN

2022-07-25 | ジャズ・tp

 

1961~62年に掛けてドーハムとマクリーンの双頭コンボの3作品を。

左から録音順に

① ”INTA SOMETHING”(PACIFIC JAZZ PJ-4, 1961.11.13)

② ”MATADOR”(UNITED ARTIST UAJ14007, 1962.4.15)

③ ”JACKIE McLEAN”(BLUE NOTE 84116,  1962.6.14) 

①はヴィネガー(b)を除き、E・コースト派がW・コースト・レーベルにシスコの”Jazz Workshop”でライブ録音したもの。ダブル・ネームにしては6曲中、ドーハム(1曲)、マクリーン(2曲)が単独にフューチュアーされる構成にやや散漫感、違和感を覚えるが、切り貼りが得意のR・ボック(プロデューサー)にはなんてことはないだろう。ただ、マクリーンがBNと契約している手前、カヴァではドーハム一人となり、マクリーンのフューチャアーが2曲はそれなりの配慮がされたのかもしれない。  正統派ドーハム(tp)と濁声のマクリーン(as)の好ブレンドが背後に迫るハード・バップの凋落を暫し忘れさせる。”No Two People”ではW・ビショップ(p)が人気盤”SPEAK LOW”を連想させるソロを弾いている。

②はドーハムがリーダーでプロデューサーが異才、アラン・ダグラス、録音エンジニアが数奇な運命を辿ったビル・シュワルトウ、彼はエヴァンスの「アンダーカレント」を録音したエンジニアで「ジャズの秘境」(著・嶋 護)で大きく取り上げられている。とにかく音が鋭い、ドーハムのtpなんかカミソリのようで、代名詞となっている「くすんだ鉛色した音色」なんて噓っぱちです。だから過小評価されるのだろう。”Melanie‐Part 1”のカッコよい吹きっぷりはサイコーですよ。この曲はマクリーンの”LET FREEDOM RING”(1963. 3.19)で取り上げられた”Melody For Melonae”と同曲で、推測ですが、恐らくダグラスはマクリーンのフラジオ奏法による大胆なパフォーマンスの情報(リリース前だが)を得て、本アルバムに採用したのではないか? 但し、マクリーンはサイドなのでフラジオを吹かせず、その代わり、ドーハム、ティモンズに”Melody For Melonae”に匹敵する熱量を期待したのだろう。結果は勝るとも劣らぬ出来栄えになった。ティモンズの端正ながら小節が利いたプレイも聴きもの。

③はマクリーンがリーダー名義ですが、リアルタイムではお蔵入りとなり、後年(1976年?)、日本で初めて特典盤(非売品)として日の目を見たもの。巷ではお蔵入りの理由として”LET FREEDOM RING”と”ONE STEP BEYOND”の間に吹き込まれた割に、保守的、と言われる。でも、これは結果論であって、”LET FREEDOM RING”が低評価であった場合の予備対策としてライオンは録音したのではないか。”LET FREEDOM RING”の成功によりマクリーンは初めて評論家達から一端のas奏者と認められたと言われる。それまではただのパーカー派の一人だったそうで、日本での評価、人気と大きく異なります。それはそれとして、BNらしく事前の打ち合わせが充分に施され、レコードとしての完成度は三枚の内で一番かな。確かに新鮮味は薄いけれど、50年代の残り火と60年代の空気が絶妙に交錯する魅力があり、S・クラークの最晩年期のプレイも価値があります。

それにしてもプロデュサー、三者三様の違いをこれほどまでに楽しめる作品は他にそうありませんね。

この三連荘、モダン・ジャズ・ファンにはマスト・アイテムです。

 

 


ONCE UPON A SUMMERTIME / CHET BAKER

2021-10-07 | ジャズ・tp

(1977.2.20)

 

大好きな映画の一つに、もう、かれこれ30数年前に公開された‘ONCE UPON A TIME IN AMERICA’があります。主演はロバート・デ・ニーロ、監督は、あのセルジオ・レオーネ、そして遺作です。日本では当時、単なるギャング映画として紹介され、しかも、上映時間が短く編集されていたためか、初めて観た時、途中で解らなくなるシーンも少なからず有り、それほど評判にならなかった。それでも、レオーネ監督が描こうとした複雑な人間模様を核として壮大にしてノスタジックな世界はミステリー・タッチも手伝い感動的ですらありました。なお、後年、完全版が出され、正当な評価が得られるようになりました。

このベイカーの作品は、「栄光と挫折」といったベイカー自身の軌跡の一つとして、自分の頭に中では映画と妙に符丁が合う。カヴァの写真も、デ・ニーロがラスト・シーンで見せた意味深な笑いと何故かダブってくる。


チェット・ベイカー、かって、あのマイルスでさえ足元にも及ばなかった大スターである。因みに、ダウンビート誌の1954年のtp部門・人気投票を見ると、第1位がベイカー(882)、以下、ガレスピー(661)、H・ジェームス(449)と続き、9位にマイルス(126)、11位にブラウン(89)となっている。

ゲートホールドの内カヴァには、ベイカーのヒストリーが貴重な写真と共に掲載されていて、ディスコグラフィーのリーフレットと合わせベイカー・ファンには見逃せない一枚です。


さて、本作の聴きものは、ラストにセットされたルグランの‘Once Upon A Summertime’ですね。ダンゴのイントロに続いて、ベイカーのミュートが呟くようにテーマをなぞる。初めのワンフレーズを聴いただけで、そのハーマンの音色に魅了されるでしょう。マイルスと異なり、響きに俗っぽく言うと、「色気」がある。
アーティスト・ハウス盤は総じて好録音で、テクニカル・データも詳細にクレジットされていますが、このハーマンは抜群に「音」が生々しい。

ただ、他の曲の出来が今一つなのが残念です。

この頃、ベイカーは既にビックリするほどシワ顔になっていたが、この‘Once Upon A Summertime’で聴かせるハーマンには一筋のシワもない!!! 

そして、誰しも心の奥底にそっと仕舞い込んでいる若き日の切ない「夏の想い出」を、ベイカーは無遠慮に蘇らす。
11:20、ミラクルなのか、それともミステリーなのか? 両方だろう。

 

“Bluespirits”(2010.12.6)


早過ぎるリーダー・ラスト作 ・・・・・ TROMPETA TOCCATA / KENNY DORHAM

2021-09-12 | ジャズ・tp

 

1972年12月5日、腎臓病を患っていたドーハムは騒がれることなく48才の短い生涯を終えた。口の悪い連中から「長持ちドーハム」と揶揄された割には早死にであった。だが、、本作を録音した64年、40才にしてドーハムは既にジャズ・ミュージシャンとしての生命に終止符を打っていたと言っても過言ではない。ええっ、と思うかもしれないが間違いなく本作がドーハムのリーダー作のラスト・アルバムである。残りの8年間はプレスティージ、ストラタ・イースト等へ数本、サイドマンとして参加しているにすぎない。

このマイルスの僅か2才、年上のビ・バップからの名トランペッターが何故、本作以後、突然こうした状況に陥らなければならなかったのか定かではないが、それなりの理由が有ったのだろう。しかし、少なくともジャズシーンの急激な変化に彼が置いてきぼりにされたという憶測は当たっていない。何故ならば、本作のドーハムの演奏からは、時代に乗り遅れ、立ちつくしている様子は微塵も感じられない。ただ、本作の暫く後、ドーハムはDB誌でディスク・レヴーを担当し、例えば、ある同じtp奏者のアルバムに3.5星を付け、その理由を聞かれると、ドーハムは”TROMPETA TOCCATA”が同じ3.5星だったので・・・・・・と会心の出来を高く評価されなかった悔しさを滲ませ、他にもかなり辛口の評を残している。憶測ですが、それがマイナスに働いたかもしれません。ある意味、相反する立場を一人二役で熟すのは、そもそも無理が有ったのではないか。

それは兎も角、この”TROMPETA TOCCATA”はドーハムの約20年に亘るバップ・トランペッターとして最後の力を振り絞った命懸けの作品であったのではないかと思います。勿論、後付け論法ですが、この後の8年間のドーハムの姿を見るとそう思わざるを得ない。

かなりの好評を得た前作「ウナ・マス」に続く本作は全4曲、名演、しかも名曲揃いです。リーダーだけでなくサイドメンも素晴らしいプレイを聴かせ、タイトル曲でのトミフラは聴き手の予測を超えるミステリアスなソロを展開し、聴きものです。
しかし、何といってもラストナンバーの‘The Fox’がハイライト。ここでのドーハムはまるでこれがリーダー作として最後のプレイと予知していたかの如き美しくも激しく燃え尽きる 。
恩人とも言えるドーハムの心情を察知したのか、ジョー・ヘンダーソンがこれまた畢生の名ソロを展開する。聴き終えた後、なんだか目頭が熱くなってきます。

あまり話題に上ることのない本作はトランペッター・ドーハムの実力を見事に凝縮している。

1964. 9. 4

 

”Bluespirits”(2004. 2. 23)