猛暑越えの酷暑が当たり前になった今日この頃、眼にも耳にも涼しさを感じる一枚を。
マリガンの作品群の中で果たしてこのアルバムがどのような位置付けされているか、定かでありませんが、少なくとも、最も人気がある作品の一枚であることに違いないでしょう。ボサノバ・ナンバーを取り入れたり、日本人好みの知性派メンバー、つまり、バカ騒ぎしない連中のみで固めたソフィスティケートな演奏が大きな魅力となっている。
また、1973年~当時、「こんばんは、・・・・・・・でございます」で始まるラジオの深夜ジャズ番組で、本アルバムのB-1、ショパン作の‘Prelude In E Miner’がテーマ曲として使われた事にも因るでしょう。カヴァの雰囲気も好評で「夜の定盤」という称号まで得たようです。
そうしたイメージ先行の中で聴くタイトル曲に於けるマリガンのイントロ・ピアノは些か少女趣味的にも拘わらず、ポジティブに語られ過ぎているような気がします。ただ、マリガンのそれまでのキャリアと時代の変化にシンクロさせた作品と捉えれば、それほどネガティヴに聴くまでもありません。
B面のマリガンのオリジナル、2曲に彼の本質が窺え、バリトン・サックスの第一人者、そして有能なアレンジャーとしての強かさと矜持を保っている。仄かな哀愁が漂う‘FESTVE MINOR’が大好きです。
ブルックマイヤーのバルブ・トロンボーンは昔から野暮ったい、とか、人畜無害というイメージで語られ勝ちですが、本作での実直なプレイはなかなかどうして、妙に無くてはならない存在に聴こえる。
それから「録音」の良さ。たまたまモノラル盤で聴いていますが、ナチュラルで、管楽器の芯のある「音」は特筆もの。取分け、五、六分の力で吹くマリガンの掠るようで、輪郭がボケないバリトンの「音色」が出色です。
まだ明るさが残る薄暮、窓を目一杯開け露天気分で一風呂。上がりに氷をぎっしり詰めた「余市」をウィルキンソンで割り、針を降ろせば、熱暑は夕闇の空へ。