VEE JAY LP 3012
TOMMY TURRENTINE (tp) YUSEF LATEEF (ts、fl) CURTIS FULLER (tb)
WYNTON KELLY (p) PAUL CHAMBERS (b) LEX HUMPHRIS (ds)
1969年1月4日、チェンバースは僅か33歳の若さでひっそりとこの世を去った。
死因は肺結核という。治療をきちんと受けていたならば恐らく治ったはずだが、彼はそうしなかったのだろう。憶測でものを言ってはいけないが、最早、自分の生きる場所を見い出せなかったのではないか。それほど、ジャズを取り巻く環境は大きく変わっていたのだ。つまり、彼は「ハードパップ」のためだけにこの世に生まれてきたと言っても過言ではありません。
タイトルが示すように録音当時(1960年)、人気、実力共にNo.1のベーシストで、無数のセッションに顔を出している。
本作は、彼の絶頂期に吹き込まれたVEE JAY二作目でリーダー作としては最後となる。一作目の‘GO’はメンバーの知名度もあり、人気を博しているが、本作はやや渋めのフロント陣容のせいか、あまり話題に登ることはない。
内容は平均的なハード・バップ作品で、全曲、ラテーフが提供している。これといったキャッチーな曲もないけれど、個性的な「音」が聴きもので、チェンバースの魅力の秘密を解く鍵の一つとなっている。本レコードは70年台初めに再発された黒ラベル輸入盤で、カッティングの際にややハイ上がりの音質になったものと考えられますが、思わぬ副産物を生み出している。チェンバースのベース・ワークをより鮮明に浮かび上がらせ、ピーンと張った弦から弾き出される天才的な「ハード・バップ」のノリをダイレクトに感じ取れるんです。
「音」の良さや大きさ、或いは革新性は他のベーシストに譲るとしてもこのノリだけは誰も真似の出来ぬ天性のもの。其れが故に60年代後半になるとめっきり出番が少なくなってしまった。
この作品は、荒っぽく言えば「路傍の石」のような存在で、今となっては誰も振り向こうとはしないだろう。けれど、ふと拾い上げ、そっと埃を取ってやればハード・バップの確かな鼓動が聴こえ、稀代の名ベーシストの在りし日を偲ぶのもまんざら無意味ではない、と思う。
(2006.11.19)