半世紀も前、60年代もそろそろ終盤に近づいた頃、京都・山科の学生アパートに住んでいた。
おふくろを拝み倒し、買ってもらったSONYのSOLID STATE 11のスイッチをFMジャズ番組に合わせONにすると、背に陽の光を受けキラキラと輝きながら水面を跳ね回る飛魚のようなピアノが流れ出し耳が釘付け状態に、Volumeをちょっと上げると僅か3、4畳の狭い部屋がまるで大海原と化した気分になった。コリアの名は何となく知っていたけれど、存在を確りと頭に刻み込んだ瞬間だった。
その一枚、”NOW HE SINGS, NOW HE SOBS”(リーダー2nd作、1968年録音)はジャズ・ピアノに新風を吹き込んだ、と絶賛され、当初、コリア以外のメンバーが不明(カヴァにクレジットなし)だったこともあり、話題に拍車がかかった。
その後、試行錯誤を重ね、72年に録音した”RETURN TO FOREVER”は大ヒットとなり、評論家やマスコミ、また、シビアなファンからも高く評価され、当時、もたもたしていたK・ジャレットを凌ぐ存在にもなった。
この手のヒット作には横やりを入れる人達が少なからずいるものだが、本作の人気に?を付ける人達に今までお会いしたり、話を見たり聞いたりしたことも無く、新しいジャズの一ページを飾る名盤として満場一致の地位を得ている。
ただ、多芸多才から生ずる一種の不信感も拭えず、”RETURN TO FOREVER”以降の作品の出来映え、評価はマチマチだった。
右の画像、1stリーダー作”TONES FOR JOAN'S BONES”(ヴォルテックス)は1966年に録音されながら、リリースされたのが”NOW HE SINGS, NOW HE SOBS”と同じ68年となったため割を喰った感じだが、これがイイ。
初め制作者側からラテン・ジャズを提示されたが、キッパリ拒否し、自分の意思を貫いた一枚。
W・SHAW(tp)、JOE FARRELL(ts ,fl)の2管でフロントを固めたクィンテットで、BNの新主流演奏を連想させる内容ですが、BNほど黒くない。その頃のフラワー・ムーブメントを反映したチープなカヴァと音の悪さで世間の評判は今一ですが、一音一音、くさびを打ち込むように鍵盤を弾く若き日の姿にコリアの本質が端的に集約されている。共演者達も意気に感じ熱演、好演を繰り広げ、コリアを語る上で欠かせない作品。
享年79、合掌。
SONY SOLID STATE 11
販売価格は12,000~13,000円位だったような記憶が残っている。その頃の大卒の初任給が30,000円前後だったので、今思えばかなり高額品でした。