本作はレコード上、リーダー作として60年の‘INTENSITY’から75年の劇的なカムバック作‘LIVING REGEND’までの15年間に及ぶ空白を埋める貴重な音源(64年の‘IN SAN FRANCUSICOとともに)。録音エンジニア、ジョージ・ジャーマンによってプライベート録音されたテープをフレッシュ・サウンドが買取り、1987年、オリジナル・リリースしたもの。Vol.1、2がある。ライナー・ノーツは社長のジョルディ・プジョル氏自ら、ペッパー及び本作への思いの深さをリア・カヴァ一面、文字サイズを小さくしてびっしり書き綴っている。
世界で一番、ペッパー・ファンが多いのではないか、と思われるわが国での反応はどうかといえば、これが実に冷淡である。例えば、あるものの本に「良好とは言えない録音状態のCDで聴くのは辛い。ペッパーもロマーノも決して好調とはいえない。」と軽くあしらわれ、それが原因なのか、寂しいことに誰も寄り付かない空白の一枚になっている。70年代後期、突如沸き上がったあの論争(前期 VS.後期)は一体、なんだったのだろう。論争が一段落し、ペッパーの死後に発表されたとはいえ、前期派、後期派、双方にとって、まるで「ジ・アンタッチャブル」物のようだ。
自分はCDを聴いていないので、その「音」について解らないが、このアナログ盤を聴く限り、調律がやや狂っている?ピアノを除けば、少なくともペッパーのas、ロマノのtsの「音」に関して何ら不満はなく、プライベート録音によるライヴものとしては上々ではないでしょうか。CDの音が悪いからと言って一方的に演奏まで悪いと決め付けるのは軽率ではないかなぁ。多分、前期派に多い先入観に基づき、碌に聴かないでレヴューしたのだろう。
さぁ、内容ですが、驚く勿れ!偏った寸評に惑わされず、梅雨空の下、窓を開け放し隣近所の迷惑を省みず、vol.1のB面、‘Lover Come Back To Me’を大音量で聴け!たとえ怒鳴り込まれても気にすることなど無い、いつの日か、「あの曲は?」ときっと尋ねてくるだろう。
ロマノのtsが一本調子ながら、B・アーヴィン顔負けにアナーキー2、3歩前までぶちかまし、これ以上はOBというぎりぎりのラインまで完璧にコントロールされ、止まることを知らぬ直向きなペッパーのアルトに理性がどこまで耐えられるでしょうか。ふにゃけた脳天をものの見事にぶち抜いてくれる。廃人同然、死の淵から這い上がってきた男しか表せない「凄味」を憶える。
未聴の方は、明日にでも、円盤屋、或いはジャズ喫茶で大音量で掛けてもらうとイイ。心配しなくても大丈夫、誰一人、途中で店を出る人はいない。当時の健康状態、環境状況からすれば、これはまさに奇跡の21分48秒だ。この”Lover Come Back To Me”を聴かずして、ペッパーを語ることは許されない。
78年の来日ステージで甘さを排した鋭いトーンでまるでasの鬼神に化したようにソロを吹くペッパーに、スタジオ録音のレコードだけでは彼の本質を聴き誤る危険性を感じた。だから、自分には「前期」も「後期」も存在しない。ま、その論争も風化し、今では死語だろう。