B面の3曲目に、すぅーと針を下ろす。フラナガンがプロローグ風に弾き出し、続くプリースターが躊躇い勝ちにtbを滑らせる。イャー、これがいいんだなぁ。
ここをスルスルスルと演られると味も素っ気も無い。そして、ヒースのtsが些かムード・テナーぽいけれどこの曲想では成功しているじゃないかな。
テーマ部分をtbとtsのユニゾンで吹かなかったのは良いアイディアですね。
で、甘くなりかかった流れをピシッと引き締めるがこの後、出てくるフラナガンのソロ。キリッとしたタッチながら曲想を外さない最上級のプレイを聴かせてくれる。「この曲はオレのオハコ」と言わんばかりで、ホント、絶品ですよ。録音がオン気味なのもプラスしているが、やはり、エルヴィンとの相性が良いのだろう。
プリースターはJ.J.ジョンソンから強い影響を受けているtb奏者で、本作でもそうした箇所が随所に見受けられるが、J.J.ほどの華麗さは当然ながら持ち合わせていない。その代わり、カヴァの古代格闘家の「さぁ、かかって来い」ではないけれど、力強さを秘めた奏法はなかなか好感が持てる。
そうした魅力はフラナガンの極上のソロを引き継ぎ、全開する。とは言っても、力強さ丸出しではなく、情感をたっぷりと利かせ、自分の語法でtbを鳴らし切る。
もう、プリースターのtbでしか出せない味だ。参りました。
1960.1.11 録音
「幻の名盤読本」ではプリースターのオリジナル・スロー・ブルース、B-1の‘Bob T's Blues’が最大の聴きもの、とコメントされている。確かにこのブルース・フィーリングは素晴らしいですね。
それとラスト・ナンバー、これもオリジナル‘Julian's Blues’では、エルヴィンとの一騎打ちで一歩も後に引かないパワー、思わず「やるねー、ジュリアン」と声をかけたくなります。プリースターの並々ならぬ実力を見せ付けた快演だ。
でも、僕がこよなく愛聴するのは、B-3のこの一曲。
「幻の名盤読本」の巻末に「有名ジャズ喫茶・ご自慢の幻の名盤」の紹介があり、我がホーム・グランド、「しぁんくれーる」(京都)が本作を一番に挙げている。きっと、オーナー・ママは店がはねた後、時折、一人静かにこの曲に耳を傾け、ほろ苦い「青春の想い出」に浸っていたのかもしれない。
かって、クリフォード・ブラウンがバードランドでざわめく聴衆を一瞬にして黙らせた伝説の名演でも知られる。
この一曲とは、そう、‘Once in a While’
“Bluespirits”(2007.7.1)