jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

PRESTIGE時代のSONNY CRISS (Ⅱ)

2022-09-23 | ジャズ・as

 

PRESTIGE4作目の”THE BEAT GOES ON”は縁がなく残念ながら未聴です。

5作目の”SONNY’S DREAM”(右上)は、ミュージシャンの夢の一つであるオーケストラをバックにした作品、と言ってもここでは僅か10人です。作・編曲・指揮、全てH・タプスコットが仕切っていて、タプスコットは当時、W・コースト切っての音楽理論派、指導者と知られ、進歩、フリー系のイメージが強い。本作はさすがにOBライン内に収まっているが、クリスにしては硬派な作品でソプラノSaxも吹いている。

実質、"THE HORACE TAPSCOTT ORCHESTRA featuring SONNY CRISS"と言った内容で、水準の域を超えているものの、ファンが求めるラインと違う気がします。

二ヶ月後、路線を元に戻した作品が”ROCKIN’ IN RHYTHM"。TOPにビートルズ・ナンバー”Eleanor Rigby”を配し、曲そのものが魅力的でクリスのアルトは浮ついた所がなく、地に足が着いたプレイを聴かせる。ジャズ・ロックと見縊る必要はありません。

本作の聴きものはラストの2曲、”Misty Roses”と愛の終わりをラプソディックに歌い続ける”The Masquerade Is Over”のクリスのアルト、ご一緒に酔いましょう、ツボに嵌ったらこんなに酔わせるアルトは他にありません。それにフィラデルフィア出身と言うエディ・グリーンのメリハリのきいたピアノ、もうこれはピアノのクリスですよ。また、収録曲のロリンズの”Sonnymoon For Two”は同年(1968年)にニューポート・ジャズ・フェスティバルでも演奏したナンバーで、このステージでクリスはスタンディング・オベーションの喝采を浴びている。

7作目、最後のアルバムが”I’LL CATCH THE SUN”。本作も当時のポップス・ヒット・チューンをそのままタイトルにし、話題となったが、やはり、「モダン・ジャズ」という枠組みの中でしっかりと表現されているのが第一の理由だろう。カヴァ・デザインは阿呆らしいが、名手達(ホーズ、バドウィグ、マン)が繰り広げるリラックスした演奏はなかなか味わい深い。

聴きものは、ズバリ”Cry Me A River”。ジュリー・ロンドンがビッグ・ヒットを飛ばし、一躍有名になったラブ・バラードだ。ラブ・バラードと言っても、「私を棄てておきながら、今更、ヨリを戻そうなんて、虫が良すぎる。私が泣かされた分、あなたも泣きなさい、(涙で)川になるほどに」と突き放す一種の恨み節。身に覚えは・・・・・
ここでのクリスは心の傷が癒えたかの如く「あの頃の私と、今は違うのヨ」と優しく諭すように歌い上げ、感情過多に陥らない吹き方が聴き所。そしてクリスの後のホーズのpが一転して、砂糖をぶちまけたような大甘のフレーズをこれでもかと連発して、未練を残す微妙な女心を弾き綴っている。すごくイイね。最後は再び、クリスのasが「もう終ったのよ」とキリッと締める展開、いゃー、5:41の大いなるドラマ、「過ぎ去りし恋」といったところか。クリスは「歌詞を知らないでバラードを吹く事はしない」と語っており、”Cry Me A River”はその発言を象徴している。


そこで、J・ロンドン、一世一代のボーカルに対抗できるインストルメントの名演は本作のヴァージョンを以って他になし、と唱えたい。


「究極
の一曲」を以ってクリスの3年間のPrestige時代は幕を下ろした。

 

 


PRESTIGE時代のSONNY CRISS (Ⅰ)

2022-09-18 | ジャズ・as

 

捨て身の覚悟でPrestigeのD・シュリッテンに自己アッピールし、レコーディング・アーティストとして迎えられたクリスは66~69年の間に7枚ものアルバムを残している。そこから前半の3枚をピック・アップ。曲構成の基本はいずれもポップス系のヒット曲、映画の人気主題曲、スタンダード、そしてクリスのオリジナル等々がバランス良く収められ、対象幅を広くしている。

”THIS IS CRISS!”は1stアルバムにも拘らず不機嫌そうなクリスの表情は長年の過小、不当評価への無言の抗議だろう。TOPのペギー・リーの絶唱で知られる”Black Coffee”の7:45にも亘る苦み走ったプレイは” !”に秘められた意味を象徴している。演奏時間が2分台から7分台まで長短入り混じっているのはシュリッテンの遠謀深慮からくるものだろう。

1stの評判が良かったのだろう、続く二枚目”PORTRAIT”も同じメンバーで構成され、本作は片面3曲ずつとオーソドックスなパターンに戻している。ロリンズの名演(THE BRIDGE)で知られるA-3の”Got Bless The Child”の出来が良く、クリスの隠れた名バラードの一つと言えます。タイトルに合わせ、カヴァのちょっぴり気取ったクリスが微笑ましい。

3枚目はフィフス・デメンションの大ヒット曲”Up,Up And Away”をTOPに据え、メンバーもT・ファーロー(g)、C・ウォルトン(p)を参加させ、新鮮味を持たせている。この作品はかなりヒットし、当時、JAZZ喫茶でよく流れたそうだが、自分はそうした記憶が全く無い。村上春樹氏が国内盤のライナー・ノーツを書かれ、随分、評判になっているのは周知の通りで、そのライナー・ノーツには、1968年頃、早稲田のジャズ喫茶「フォー・ビート」でよく聴かされたと記述されている。地域によって、例えば東京と京都ではリクエストされるレコードの種が異なり、他の一例が東京では、流れない日はないとまで言われたH・モブレーのヒット作”DIPPIN'”なんかも存在自体、知らなかったほどです。

なお、村上氏のライナー・ノーツは、クリスの死後、1980年、意外にも国内盤が初めてリリースされた時に書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 


IMPERIAL三部作 ・・・・・ SONNY CRISS

2022-09-13 | ジャズ・as

 

コレクターへの入り口、登竜門として知られる通称「インペリアル三部作」。

所有する盤は1983年、「ジャズ・コレクターのための最後の名盤」としてリリースされた国内盤。3枚とも帯がそのまま残っている。残した理由は、いずれ処分する際、少しでも高値で引き取ってもらえる算段からだが、オリジナルに買い替える目的だったかどうか、記憶がハッキリしていない(多分、無かったと思う)。と言うのは、聴く前から曲数の多さから凡その見当は付いており、残念ながら、その通りだった。帯にコレクターズ価格(オリジナル盤)がそれぞれ35,000円と記載されており、中身と相場は必ずしも一致しませんが、それにしてもかなり盛り過ぎです。

三枚、それなりに変化を付けていますが、ベースは同じなので、好みは人それぞれでしょう。曲単位で一番好きなトラックを挙げれば”GO MAN!”のラスト・ナンバー”If I Had You”かな。2:42と演奏時間は短いけれど、甘めのメロディを特有の下品ぽさを垣間見せながら吹き切るクリスの世界、One & Onlyです。

余計な話ですが”GO MAN!”のカヴァはスクーターの脚が有る、無しの2種類があるそうで、その昔、コレクターの間で話が盛り上がったようです。どちらが本当のオリなのか? ある方なんでしょうね。

で、60年代に入り、不遇をかこっていたクリスは1962年、ヨーロッパへ渡り、心機一転を図る。

その記録が1962年10月~63年4月に掛けてPolydor/Branswickに吹き込まれた2枚組16曲です。レコードの希少性はあるものの、内容はにやけた笑い顔通りで肩透かしを喰らう。

 

前回、UPした”AT THE CROSSROADS”のライナー・ノーツに1965年ロスに戻ったクリスを取り巻く厳しい環境について触れられている。

苦慮したクリスはなけなしの貯金をはたき自費でレコーディングしたデモ用音源をPrestigeレーベルのプロデューサー、ドン・シュリッテンの所に持ち込み、同レ-ベルとの契約に漕ぎつけたそうです。

その背水の陣で録音(1965年6月)した音源をB面に収録したレコードがこちらの”MEMORIAL ALBUM”(XANADU 200)。

メンバーはH・HAWES(p)、C・JOHNSON(b)、F・Butter(ds)

 

”Saturday Morning”、”When Sunny Gets Blue”、”The Masquerade Is Over”、”What's New”、“Ursura”の5曲で、“Ursura”では何とソプラノsaxまで披露している。この5曲が全てなのか、それとも選出されたものか定かでありませんが、それこそ切羽詰まった演奏と思いきや、実にナチュラルで穏やかなプレイを展開している。シュリッテンはそこに伸びしろを見い出し、レコーディングのチャンスを与えたのだろう。66~69年に掛け、7作もリーダー作を録音している。この5曲に「下町、裏通りのキング」と愛される原資が秘められていると言っていいでしょう。

なお、この音源はクリスの死後、7年置いて1984年に日の目を見ている。