一昔前、地元の円盤屋で安く手に入れた一枚。ある時、吉祥寺のオープンして間もない廃盤屋(個人店)へ行くと、この作品が一番、目に付く場所に飾ってあった。青摺りのモノトーンがカッコ良く見えるからだろう。気になる値段は地元と殆ど変わらず、ヤッパリと思ったけれど、ここは東京、吉祥寺、そんな安価なものをわざわざ飾るワケはないだろう、と目をこすってよく見ると、一桁違っていた(笑)。たしか諭吉が3枚でお釣りが少々でした。
流通上、米SMASH盤が一般的ですが、このオランダ・フィリップス盤とカヴァが異なり、ややインパクトが弱く内容の良さの割に軽んじられている。
中身は1961年3月10日、スイスのチューリッヒで行われたQ・ジョーンズ・オーケストラ公演のメンバーの内、10名がコンサート後、アフター・アワーズ・セッションで演奏した音源で、建前上、C・フラーのリーダー作になっている。全4曲ですが、腑に落ちないのがB-1の”Stolen Moments”です。いきなりハバードのソロで始まり、E・ディクソン(ts)のソロも途中でフェード・アウトしてしまう所です。
長年の疑問が氷解した作品が1984年にリリースされた発掘盤(マーキュリー)のこちらです。
似たようなカヴァがあるので紛らわしいけれど、コレが1961年3月10日、スイスのチューリッヒで行われたQ・ジョーンズ・オーケストラのライヴ音源です。ここにフルサイズの”Stolen Moments”が収められている。
ステージでQ・ジョーンズに紹介されたF・ハバード(tp)の5分半を超すロング・ソロについて、ライナー・ノーツでD・モーガンスターンは、
「”Stolen Moments”が初めて収録されたO・ネルソンの名作”BLUES AND THE ABSTRACT TRUTH”(インパルス盤、1961.2.23)からほんの二週間ほどしか経っていないにもかかわらず、ハバードは全く違う、しかも同等の素晴らしいソロを吹いている。僅か23歳(実際はまだ22歳)にしてこれほどまでに格調高く、自信に満ち、独自性に富んだ表現力を身に付けてけているのは驚嘆するほかない」と語っている。
Q・ジョーンズがハバードを演奏の前後、二度も紹介しているのも頷けます。
話を本題に戻すと、頭の部分をカットし、終りをフェード・アウトしてまで本番の一曲を流用した理由は、制約上、4曲共、コンサート後の演奏と見做すことにより、このハバードの名演を何としても埋もれさせず、世に出したかったのでしょう。関係者の熱い計らいです。いい話ですね。ハバードをカヴァのセンター(右がフラー)に据えたワケも解けます。
なお、フィリップス盤、SMASH盤、共に翌1962年にリリースされている。フィリップス盤(モノラル)は音がリッチでヴォリュームを入れると俄然、リアリティが増します。