- それから私は、心願成就悪難退散とかいて、ろうそくの炎を見つめました。
小さなそのろうそくの丸まった面に字を書くことの難しさを噛締めながら。
洞窟の中は一層肌寒く、なんて書いてあるかわからない字の躍る、そのろうそくは少しのあたたかさを私にくれました。
誰も無い暗闇で、呪文にも見える字の書かれたろうそくを、息を殺して眺めているわたし。
きっと他人には、奇異に映ることでしょう。
なぜなら、きっとそのろうそくは、私の禿頭にもその炎が映っていると、思われたからです。
しかしかくして、神妙とはこういうことかもしれないと私は思えるようになりました。
なぜなら、その洞窟を辞して去ろうとするとき、腰の曲がった老婆とすれ違いました。
顔を上げ会釈をして、少し笑ったその老婆の、数本も無い内の、一つだけの金歯にも、そのろうそくの炎は宿り、キラリと輝きをみせたのでございました。 -
神妙なるもの。