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ボディ・ガード




ブラッセルに宿泊した翌朝、EUエリアの新しいカフェで、夫と朝食をとっていた。
秋晴れの光がガラス張りの店内を満たしており、パンやコーヒーの香りが漂い、店内は静かで、なんと良い朝。


と、表に特徴のない白バンが停車し、バラバラと人が出てきた。

一番最初に降車した男がタダモノではないことは瞭然だった。
細身の長身でスキンヘッド。辺りを見回す鋭い目つき。尖った鼻。地味なスーツの下の鍛えられた身体が容易に想像できる。
ボディーガードの重要な仕事の一つは「見るからに敏捷そうで屈強そう」さを絵に描いたようにアピールする豪奢な鎧兜的ルックスにあるのだな、と思った。彼にはスパイの仕事は無理である。目立ち過ぎ。

クライアントのグループ4人を一番奥の席に座らせ、ボディーガード2人は店内入り口近くに座ってコーヒーを注文した。
うん、ゴージャスホイットニー・ヒューストンがしょぼくれたケビン・コスナーに惚れた気持ちが分かるぞ。


しばらくして、ボディーガード氏の隣の席に座っていた2人組ののっそりした中年男(こういう輩が一番危険なのである)が席を立ち、店を出た。ショルダーバッグをイスの背もたれにかけたまま...

次の瞬間、ボディーガードの動線は映画で見た通りだった!


と、言いたいところだが、彼らは携帯電話をピコピコいじっており、全くそのことに気がついていなかった(あるいは気にしていなかった)のである。


一方、わたしはすばやく反応していた。あれは爆弾だ!早く処理班を!いや、店内の人々を安全に非難させるのだ!
あっ、今このタイミングで、焼きたてのバゲットを奥から運んできた男あのは、バゲットの間に隠した自動小銃をここぞと撃ち始めるのか?そうしたらわたしはテーブルを足で蹴り倒してその影で身を守るしかないのか?このテーブル、農家のテーブルみたいに一枚板で分厚いから案外使えるかもしれない。夫は?彼は兵役へ行っているから(ベルギーでは彼の世代まで徴兵制があったのです)...いや、彼の従軍成果は夜店の射撃でぬいぐるみを獲るのが上手いことくらいやんか!役立たず!

新聞やネットで銃撃戦記事を報道する文字が踊っているのが目に浮かんだ。



のっそりした中年男は間もなく店内に戻ってきて、ばつの悪い人がする笑みを浮かべながらバッグを取り戻した。


週末のカフェの平和が破られることはなかった。



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