6月2日(水)、ヘリ基地反対協が美謝川切替問題について名護市と交渉した。コロナ禍のために人数制限があったので、ヘリ基地反対協からは東恩納琢磨共同代表(市議)、仲本興真事務局長を始め、中村善幸さん(市議)、浦島悦子さん、そして私が参加。名護市からは、祖慶総務部参事、神元総務課長らが出席した。
現在、美謝川は大浦湾の中央部に流れ込んでいるため、埋立工事を行うためには事前に切替える必要がある。美謝川は小さな川で河川法は適用されないが、名護市の法定外公共物なので、切替えのためには名護市の条例に基づき名護市と協議しなければならない。2014年当時も防衛局は、名護市にそのための協議文書を提出している(稲嶺前市長が毅然とした対応をとったため、5ケ月後に取下げた)。以前は、名護市、防衛局も条例の対象だと認識していた。
ところが今回、名護市は、防衛局からの協議の必要性についての照会に対して、「協議の必要はない」と回答した(5月6日回答文書)。すでに防衛局は美謝川切替工事を発注しており、このままでは7月初旬頃から工事が始まってしまう。今回の「協議の必要はない」という名護市の回答は、実質的に辺野古新基地建設事業に協力するということを露骨に示したものである。
この問題についてヘリ基地反対協は本年5月25日、名護市に「要請・質問書」を提出した(「要請・質問書」の全文は5月29日のブログ参照)。
以下、6月2日の交渉の内容と問題点を報告する。
上のグーグルの航空写真を見てほしい。名護市の説明では、法定外公共物としての美謝川は、辺野古ダム内の旧河川部分(青線部)と浄水場の(A)ルートから(C)ルートの流れであるという。辺野古ダムに設けられた洪水吐から現在、水が流れている(B)ルート(上図、緑色の点線部)は、「美謝川ではなく単なる水路であり、底地は民地であるから法定外公共物ではない」というのだ。
さらに、「今回、防衛局が照会してきたのは洪水吐の移設についてです。法定外公共物としての美謝川である(A)ルートについては何も変わりませんから、美謝川の切替えという認識を名護市は持っていません」とも主張した。祖慶参事は、「美謝川が切替えられるとは考えていない」と何度も繰り返した。「今回、防衛局が切り替える新しい水路は美謝川とは言わないのか?」と尋ねても、「我々はそうは認識していません。それは美謝川ではありません」と驚くような回答をした。名護市の説明では、美謝川は上流部だけが残り、下流部は無くなってしまうのだ。
洪水吐はあくまでも美謝川切替ルートの先端部50mの構造物であるから、洪水吐工事を美謝川の切替えと関係がないというのは通用しない。
防衛局は、埋立承認願書や環境監視等委員会への説明資料でも、「美謝川の切替え」と明記している。しかし、名護市は「防衛局さんがどういうふうに事業の名前をつけておられるかは分かりません」と開き直っているのだ。「美謝川の切替え」であると認めると、名護市法定外公共物第4条で、「付替え」を条例の対象としていることから、今回の名護市の見解が通用しなくなり、条例に基づく協議が必要になることをおそれたのであろう。
上図の(A)ルートは、辺野古ダムができる以前の河川であり、公図上では確かに「水路」を示す青色が塗られている。しかし、辺野古ダムができて以前の河川が国道で遮断されたために、現在この(A)ルートには上流からの水は来ず、名護市の浄水場の処理水が少し流れているにすぎない。(A)ルートは、もはや「河川」ではない。
辺野古ダムができたために、美謝川は(B)ルートに変わった。現在はこの(B)ルートを水が流れている。「名護市は、(B)ルートの底地は民地だから法定外公共物ではない」というが、本来なら、(B)ルートに切り替わった時点で、名護市が(B)ルートの底地を買収して法定外公共物として明確化すべきであった。そして(A)ルートは「河川」ではなくなったのだから、法定外公共物の廃止手続きをしなければならなかったのだ。名護市は明らかに財産の管理を怠ってきた。
いずれにしろ、今回の洪水吐工事を、美謝川の切替えとは関係がないとして、法定外公共物管理条例の対象ではないという名護市の主張は通用しない。防衛局は、「水路の切替工事に関し、今後、市との協議が必要になり得る事項は他にない。今回の市の回答をもって水路の切替は進められる」と述べている(2021.5.11 沖縄タイムス)。名護市は美謝川切替えにGOサインを出し、辺野古新基地建設事業に協力することを明確に示した。今回の名護市の対応は、防衛局と念入りに打ち合わせたものであろう。
なお、このやり取りの中で新たな問題が浮上した。
名護市は、美謝川が切替えられた場合、(B)ルートの水は完全に無くなるが、(A)ルートの水流は残ることを認めている。浄水場の処理水だけではなく、上のグーグルの航空写真でも分かるように現地の谷間はうっそうとした森ある。降雨時にはかなりの流水が(C)ルートに流れ込む。ところが、美謝川の河口部は新基地となって閉鎖される。防衛局の埋立承認願書を見ても、美謝川切替後に(C)ルートから流れこんでくる水の処理方法は記載されていない。
名護市は、(A)ルートは法定外公共物と認めている。しかし、河口部が閉鎖されるのだから当然、(A)ルートの流水にも影響が生じる。それはまさに条例第4条の「法定外公共物の機能に障害を及ぼすおそれのある行為」であり、条例に基づく協議が必要となる。
この点について祖慶参事は、「(A)ルートを流れる浄水場の処理水や表面水の処理方法については、防衛局からまだ説明を受けていません」と答えるだけだった。そのため、沖縄防衛局にも確かめて再度、私たちに説明することを約束した。
なお祖慶参事は、質問事項6について、新しい美謝川切替ルートに名護市の所有地があることは認めたが、賃貸借契約第9条の解釈の問題については、「今、答えを持っていません」と答えることができなかった。この点についても、再度、私たちとの話し合いを約束した。
再度の話し合い、そしてまもなく始まる名護市議会の6月定例会等でも、さらにこの問題に対する追及が続く。