1日目
2日目・その1
三ツ石山荘を後に歩き出した私たち。
標高差にしたらたいしたことはないが、ここから急な坂を登って行くことに。
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暑くて、苦しくて・・・もう顔から汗がボタボタ落ちている。
すれ違いに下ってくる人もたくさんいて、いつもなら恥ずかしい、と思い、
汗をぬぐったりするのだが、なぜかもう恥ずかしくなくなっていた。
いつも歩いている時のように、鼻から吸って口から吐いて、自分流の呼吸方法ですーはー言いながら登った。
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苦しそうにしているのを見てか、すれ違いざまに声をかけてくれる人が多いのだ、しかもとても自然に。
「大深山荘までですか!あそこはいい水が出てるから頑張って!」
「あとどのくらいですかね・・・」
「3時間」
「え、3時間・・・」
「大丈夫ですよ、この天気だから」
「え?大深まで?いいとこ泊まるわね~。でもまだいくつも越えないと。
もっこがきついのよね~・・・でも大丈夫よ、頑張って!」
「この時間で大深まで行ぐんか・・・」
「む、無理ですか?」
「・・なぁに、頑張ればつぐごとさ」
最後はパトロールのおとうさんに励まされ・・ちょっと心配そうにしていた、ゴメンナサイ。
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急坂が終わり、眩しく写る青い空のその先に、目指す岩が見えた。
あれが・・・三ツ石山・・・岩の上に立っている人が見える。
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みえてからはほぼなだらかな道を歩き、岩の下でザックを下ろし登ってみる。
とにかく美しい。晴れとーさんの言うとおり今回で一番の紅葉を見ることが出来た。
ピークではみな、思い思いにこの開放的で360度広がる景色を楽しんでいた。
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【14:30】「三ツ石山・1466m」到着。
岩の上には控えめで、小さな手書きの山頂標識。
もっと胸を張っていいと思うのに・・・景色の邪魔をしないように、なのかもしれない。
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この三ツ石の尾根歩きが今回の大きな目的でも合ったので、
青空の下を歩けてほんとうに嬉しかった。
大らかで伸びやかなこの山並み。もし時間が許すのならば、
ずっとここで流れる雲や鳥の声、乾いた風を受けながら、
日が暮れるまで山を感じていたい、と思った。
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あゝいゝな、せいせいするな
風が吹くし
農具はぴかぴか光つてゐるし
山はぼんやり
岩頸(がんけい)だつて岩鐘(がんしやう)だつて
みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ
そのとき雲の信号は
もう青白い春の
禁慾のそら高く掲かゝげられてゐた
山はぼんやり
きつと四本杉には
今夜は雁もおりてくる ---宮沢賢治
振り返れば岩手山がまだ見守ってくれていた。
今日、あそこから歩いてきたんだな、と思うと長いようで短かった1日。
三ツ石から北東方向の眺め
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と、感傷的になっている時間はない。
地図をもう一度広げてCTを見たら、なんとここからまだ4時間もかかるではないか。
単純計算で18:30到着・・・なんとしても日没までに着かなくちゃ。
ゆったり歩きのつもりが、やっぱり急ぎ足になってしまった。
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急いで・・・でもあまりにあたたかなこの風景から去りがたくて、
何度も何度も後ろを振り返る。
ちょっと登り返して【15:40】「小畚山(こもっこやま)1467m」到着。
まだ三ツ石のとんがりが見えている。この風景ももう少し歩けば見えなくなるのも寂しい。
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が、現実は厳しかった。前方を見ると私たちの目指す方向は、
一旦大きく崖のような斜面を下り、またジグザグに登り返す道だった。
下を見て・・・あんなに下るのか・・・ショックを受けた。
ひとつひとつの標高差は200mほどと大きくなかった今日の行程だが、
さすがに8時間も歩き続けていると、小さなアップダウンも応えるようになっていたから。
そこへ下から登ってくる小学生の男の子と、おとうさん。
三ツ石山からここまで1組しかすれ違っていなかったのに、こんな時間でもまだ登ってくる人がいた。
「三ツ石山荘まで行きます、どちらから来たんですか?え?岩手山?すげー!」
「大深山荘はあれですか?(ちょっと小さく尖ったものをさして)」
「いいえ、山荘はあの山の向こう、下ったところですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
大深岳はあの尾根のどこか・・・
大深山荘はあの尾根を越えなければ・・・
ものすごく遠くに見えるのに・・・
間に合うのか・・・いや絶対に間に合わなければ。
少年とおとうさんとお互い励まし合って、「もうノンストップで行こう」と歩き出した。
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急斜面の下りが苦手だけど、一生懸命降りて振り返った小畚山。
西日が当たってより一層オレンジ色だ。
そして今日最後の登りになるであろう大深岳へのジグザグを、ぜーぜー言いながら登る。
私の足が遅いので、ダンナはどんどん先へ行ってしまう。
お腹も空いたけどポケットにはもう何もない、ハイドレーションの中の水もなくなってしまった。
でもザックを降ろして水を出す時間がもったいない、とハイペースで登り・・・
登りきって、平坦な道を15分ほど歩くと、ピークらしからぬ「大深岳1541.4m」【16:50】到着。
CT2時間のところ、1時間10分で来た、私にしては頑張った。だけど・・・
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ダンナが「遅い」という顔をして座っていたところへ、倒れこんだ。
ここまでくればもう、水場が近いから、と今まで我慢していた水をザックから取り出し、
がぶがぶ一気に飲んだ。多分500mlくらいは一気に飲んだだろう。
そして立ち上がろうと思ったら・・・まずい、また貧血だ。
こんなところで倒れている暇はないけど、どうにもクラクラして立っていられない。
このまま動けなくなったらまずい・・・と思いながら草むらに仰向けで倒れた。
10分ほど休んだだろうか、過呼吸になった呼吸が元に戻り初め、
ダンナからチョコレートをもらって無理やり流し込むと・・・
治った、助かった。そういやお昼はドラ焼き一個、シャリバテか?
今年二回目、前回無理は禁物、と反省したはずなのに。またやってしまった。
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ここで15分ほどロスしたけど、あとは小屋を目指すだけ。
気持ちが途切れないようにと、熊にあわないように歌を歌いながら降りると、
小屋への標識が見えてほっとする。
水場へはここを右に行き、ぐるっと周回して小屋まで行けるらしかったので、
ザックは背負ったままそのまま水場へ直行した。
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キレイな湧き水ががぶがぶ湧いていた。背負ってきたご褒美のビールを冷やしながら、
目一杯水を汲んだ。水のありがたみをつくづく感じた一日だった。
斜めになった木道を歩くと、森の中に小屋の屋根が見えてほっとする。
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【18:00】大深山荘、到着。が・・・
小屋の周りにはツエルトやテントが4張も。
「もしかして・・・満員?」
混雑するとは全く想像していなかったので驚いた。
こんな時間に到着する私たちが悪いのだから仕方ないけど。
このエリアはテント禁止なので、今回はもって歩いていなかった。
中に入ってみてダメならビバークツエルトで・・・
と立ち尽くしていたら、すでに外で宴会を始めていた6人ほどの男性パーティが、
「あーお疲れです。中に入って場所がなかったら言って下さい、空けますから」
と声をかけてくれた。
中はやはり満員、でもいざとなったらトイレへの土間でもいいかな、と思ったが、
先ほどのパーティに声をかけると、快く引き受けてくれ、
2階部分に引いていたマットとシュラフを寄せて、私たち2人分のスペースを作ってくれた。
疲れきった身体に、親切が染み渡る。
心の底からありがたかった。
外のベンチで簡単に夕食を済ませ、
気持ちの温かい皆さんと共に、温かい小屋の中で長い長い一日を終えた。
つづく。
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【9/20の行程】
岩手山八合目避難小屋7:30→犬倉山11:35→三ツ石湿原14:00→大深岳16:50→大深山荘18:00
行動時間(休憩含む)10時間30分 歩行距離(直線で)約14.5km