1日目
2日目・その1 2日目・その2
3日目
4:30起床時刻。
寝る前に痛かった箇所が治っていなかったら今日はもう歩くのをやめよう・・・
と思っていたが、なんと、目が覚めたら痛みはほぼ和らいでいた。
やはりこの温泉の地熱のおかげか。すごい。
空はどんよりしていたがまだ雨は降っていなかった。
最終日、どうするか相談の結果、最初の予定通りゴールを目指すことにした。
朝、顔を洗っていると、「ねーちゃんはどこからきた」
とちょっと怖そうな面持ちのおやじさんが声をかけてた。
「と、東京からです」
「秋刀魚、食わねえか?昨日水揚げされたばかりなんじゃ」
「残念ですがもう今日は行かないとならないので・・・秋刀魚はどちらの港から?」
「宮古だよ」
「え?宮古?」
いつもダンナの実家に帰省する時に必ず通る町、そしておやじさんも宮古の方だと言うので嬉しくなった。
しばらく話をし、そして支度をして今日は早めの出発、6:00。
盛岡のお母さんも「もういってしまうの」と声をかけてくれた。
登山道が見当たらなくて、駐車場の辺りをウロウロしていたら、
さっきの宮古のオヤジさんがやってきて、
「ここを下っていけば後生掛温泉に出る。車道を歩くよりずっと早い。
出たら温泉の脇を上がって行くように登山道があるからね。
そのかわりこの道は熊が出る、十分気をつけていくんだよ、絶対気をつけてな」
怖そうな面持ちとは裏腹に、とても優しいおやじさん。
この地の人はなぜみんなこんなにも人が好いんだ。
お別れするのが辛くなるじゃない。
登山口に取り付いたとたんもう小雨がぱらついてきた。
熊に我らが歩いていることを知ってもらおうと、ラジオを最大音量で鳴らし、
大声で話しながら緩やかに歩くと、湯気が見えてきた。
後生掛温泉の脇に出た。
こちらは有名な温泉らしく、立派な旅館と広い駐車場に車が一杯だった。
ちょっと迷いながらも、宮古のおやじさんの言うとおり温泉の建物の方へ行って見ると、
宿の廊下?のドアの上に「登山道」という文字としめ縄。扉を開けると・・・
【7:00】「焼山登山口」が現れた。さあ、今回の旅最後の登りだ。
最初は緩く登って行くが、だんだん岩が増えてくる。
それでもここはハイキングコースというだけあって、途中木道があったりで歩きやすい。
【8:05】国見台到着。眺めが良いらしいが何も見えない・・・
エアリアの地図で見ると次の「毛せん峠」までわけない感じだったが、
歩き始めるとやけに遠い。約30分かかって到着。
多分展望が良いらしいが強い風と雨で、稜線らしきところではからだをかがめるほどの時もあった。
こんな時は、
「大深温泉から目的地までバスで行けば35分、歩いていけば5時間。
こんな雨の日に、私は何の為にこんなことしているんだろう?」
と急に冷めた目で今の自分を考えたりするのだった。
実際この日、山では誰一人会わなかった。
強い風とガスで濡れてしまい、風をよけて休憩する場所もない。
避難小屋を求めて黙々と進み、見えた、まさに避難小屋に避難。
この「焼山山荘」避難小屋は雨戸?が閉まっていたようなのと、入り口にペンキの缶があったり、
補修作業中だったのだろうか?利用は出来そうだが。
でも風とガスをよけられたので助かった、行動食で元気を付けた。
山荘から少し登ると右手が「鬼ヶ城」ガスの向こうに奇岩のようなものがぼんやりと。
【9:30】小屋から20分ほどで「名残峠」
そこからすぐ左にぼんやり見える登山道のないところが「焼山山頂」らしかったが、
風と雨が強いのでもうここで十分、と「焼山」を後にした。
せっかく登ってきたけれど、ごめん、焼山の良いところを見れずに下山します。
天気が良かったら多分素敵な風景が広がっていたと思う、紅葉と共に。
なんだか火山のような(何も見えないので)白くザラザラとした歩きにくい箇所を越えると、
木々が増え樹林帯に、そして緩やかなブナの森へと景色は一転した。
ああ、そういえばスタートもブナの森に迎えられたっけ。
終わりもブナの森で迎えてくれるんだ。
秋田県のそれも、むせかえるほどの美しいブナの森だった。
濡れた木道や大岩で2回も転びながら、
前方に煙が見えてきたら・・・いよいよ旅の終わりが近づいてきた証。
しみじみと胸に込み上げてくるものがあった。
焼山登山口到着。くじけそうになったけど予定通り最後まで歩ききれた。
多くの火山のおかげで、多くの名湯が点在する十和田八幡平エリア。
橋を渡ると、本当の下界に着いた。
初めて訪れた「玉川温泉」
岩盤浴で湯治する方達の横を、全身ずぶ濡れ、靴は泥だらけの二人が通るが、
あまり嫌そうな顔をされないのが、この土地の人々の温かいところなのかな。
【11:11】ゴール。
全長(直線)約40km、4日間、私にとっての長い旅が終わりました。
ダンナの故郷である岩手の山、そして長く続く裏岩手縦走路というトレイルを、
いつか必ず歩いてみたかった、思いがかないました。
このトレイルでは宮沢賢治の童話を思い出し、
まるで自分が金色のぴかぴかした、赤いずぼんのどんぐりたちと一緒にわあわあ言っているような気になったり、
手拭いをかこんだ鹿踊りを見た嘉十の森の姿を、山の中に見たような気持ちになりました。
イーハトヴ童話の情景がふと浮かんでくる、想像通りに素敵であたたかな道でした。
親切にしてくれた山岳会の皆さん、辛い登りで声をかけ応援してくれた人々、
晴れ男だったパトロールのお父さん、
狭いスペースを開けてくれた明るい山ヤ達、いもっこ汁をくれたおかあさん、
熊が出るからと心配してくれた宮古のおやじさん、オンドル小屋の皆さん、
皆さんの優しさがあったから、この旅を完歩することができました。
ほんとうに感謝の気持ちで一杯です。
人に優しくしてもらうと、心が芯から温かくなる。持っている力が120%出せる。
わたしもこれから先出会う誰かが、温かな気持ちになれるように、
山で出会う全ての人に優しくしよう、声をかけよう、そう強く心に思ったのでした。
(今回歩いたトレイル・右下から左上へ)
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、
ただそれっきりのところもあるでしょうが、
わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、
そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、
おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、
どんなにねがうかわかりません。---宮沢賢治
終
-------------------------------
注:文中の方言は正しいものではありません。私の耳に残った記憶で書いています。
資料編へつづく。